牢獄の中で
菜野が目覚めると、そこは牢屋の中であった
死けった、いや湿気った匂いの。
いや死ケったでもいい、確かに湿度が高く不快な空気だが死体が放置されていたこともあり死臭が残っている。
「……どこの牢屋だ?」
とりあえず鉄格子の外を見ると、古ぼけた鉄壁と……青野が立っていた。
どうやら、地下のようだった。
「おい、お前!?」菜野は記憶の中から青野にスタンガンで気絶させられたことを思い出し
鉄格子に彼から阻まれながら食って掛かった。
「なんだよ!何がしたいんだ!」
青野は、答えない
具体的に言え、みたいな顔つきでいて。
だから菜野は仕方なく無理矢理少し落ち着いて具体的にたずねていく。
「なんで、私を拉致監禁したんだ?特に意味があるとは思えない」
青野は、にっこりと笑って答えた。
「それは、菜野さんが僕は好きだからだよ」
菜野は、何かおかしさを感じた。
「……お前と私はそんなに関係があるわけじゃあないだろ」
「え?ありますよ、……いや、あるだろう」突然青野は真面目な顔つきになって
「僕は、コンビニで一緒にバイトしたしそれに、確か一度偶然会いましたよね?」
口調の変化よりも菜野は驚くことがあった。
そう、色恋沙汰に疎い菜野にとってその程度で恋したり、ありえないと思っていた。
「だから、僕はあなたを守るために監禁するんだ……会の管理下にあるなら危険視もされない
殺されることはまずないから」
菜野は、高速で理解しながら聞き流した。
もっと気になることがあったからだ。
「どうして、事件を起こした!?それもわざわざ腸と絡めて!」
もう菜野は矢田が事件の犯人だと確信した。
「そんなの、決まってるじゃないか」
青野は普通に答える。
なんというか、普通、一タス一の答えを二というくらいに。
「やりたかったからだよ、正義の味方が」
菜野は歯ぎしりした。
「正義……?だったら、なんであんなに猟奇的に殺すんだ!」
青野は理解ができない、という顔をして首を傾げた。
「やりたかったからだよ」
根っからの価値観が違う。
そう菜野は感じる、同じ人であるはずなのにこうも違う。
そして、青野は一つ大きな伸びをして。
「よっし、行くか!」
気合の入った声を出して牢の前から歩いて行って、姿を消した。
菜野は鉄格子をガシャガシャ蹴りながら青野に呼びかけたが
沈黙が返ってくるだけだった。