亜世界転移 それは俺のせいだから、
~ミノリが赤い化け物になった経緯~
悪漢は飲んだものが99%死ぬ赤い化け物になる薬を殺すつもりで彼女に飲ませたのですが……ミノリは適応してしまいました。
ここ一帯に広がる海には近くの廃工場から流れた汚染物質が蔓延し
世界の汚い部分だけを写し取ったような色をしていた、見ているだけで気分が悪くなる。
利知は海に沈む太陽を見ていた。
そして、陽は落ちキリ。
利知はミノリに視線を戻す。
ザクザクと砂を踏みつけるように歩いていく。
ミノリに向かっていく。
左手にやって来る時に買った利知はナイフを持っていた。
「ミノリ!!!」ミノリに向かって名前を呼ぶ。
「絶対、助ける……!」
少しだけ期待してた。
彼女の意識の残留を。
だから、ずんずんとミノリにむかって怖がりながらも足を進め。
「ッ!!!!????」希望は粉々に打ち砕かれた。
利知の腕は、一瞬で消し飛ぶ。
両肩から先がない。
利知のはるか後方でドサリと何かが落ちる音が聞こえた。
__斬り飛ばされた!_
「ミノリ!」もはや人としての意識がないミノリにやさしい言葉をかける暇もなく。
ミノリは利知をつかむ。
そしてミノリは利知を掴んだまま
海に、跳び込んだ。
____________________
薬品だらけの海水は利知の体を一瞬で焼き焦がす。
だが、ケガしたところから利知の体は治っていく。
つまり、苦痛は引き伸ばされる。
周りが水だから呼吸もできない。
利知の生命力的に大丈夫だろうが、それでも苦しい。
常人なら発狂するし、絶望するし、何も感じられなくなって死んだ方が確実にマシな状態であっても。
弱く、ずっと苦痛を浴び続けた利知は正常であった。
苦しみながら、泣きながらも。
暗い暗い海底に押し付けられる。
運悪く月が出ていて、こんな深いところにまで光は差し込んで
ミノリの腕に誰かの___ミノリがここまで来るまでに殺したであろう__
血がこべりついていたのが見えてしまった。
利知はむせび泣きそうになり口を運悪く開けてしまい
(がボッ!水のんだうげえええええええ!)
汚染されまくりの水を摂取してしまった。
じたばたもがこうとするがミノリに抑え込まれている。動けない。
「腕がもう治ってる?」
アカネが実体がないからか水の中で平気で喋っている。
利知はその言葉で気づく。
自分の治った腕の周りの水がやや綺麗になっていることに。
(もしかして周りの物質を吸収なり変換なりしてるのか?)
自分の力の考察をしだしそうになり
慌ててミノリに視線を戻す。
今は目の前の彼女のことだけ考えていればそれでいい。
なのに、利知は自分が意図して逃げようとしているような気がした。
彼にとってミノリが化物でも「関係ない」のだから殺したくはないのだから。
それでも、利知は____彼女がこうなったのは、俺のせいなんだ!____
覚悟を決めた。
ミノリは怪物になって太く巨大になった腕で利知を強く抱きしめる。
ベキベキと利知の骨が折れ体がグチャりとつぶれそうになり。
羽をもがれた羽虫のようにもがきながら利知は
気付いた。
ミノリの体に「閉じた瞳」がある。
それは、目。
何度もDWに行く事に目と目が合う度に行った。
今回もそう。
その瞳は開いていき。
一秒という単位で表すには短すぎる時間が流れた。
_現実→DW
現実からDWに移るのに、そんなに変化はない。
だが、自分と自分に触れていた生物と、この世界の死のループから救うべき者、
それだけの世界に移り変わる。
______そして、DWで死ぬと、リアルでも死ぬ___
このミノリを殺すことが出来れば、リアルでのミノリも死ぬ。
利知は、どうやって殺すか隅々まで観察し。
見つけた。
勝機かはともかくとして、何かを。
利知は心のどこかでそんなもの見つけたくないと望んでいたのに。
赤い化け物と化したミノリの下腹部から、手が出ていた。
誰かの手が。
利知はそれを引っ張り出す。
「!」その手にあったはずの手首から、前腕、二の腕、肩。
それらは赤くドロドロと「溶けて」いた。
そして、さらにその先に続く体、溶けかけ死にかけている。
まるで、消化されたかのように。
利知は、その腕を引っこ抜いてできた空洞の中に目を凝らす。
ある。
丸っこくて、きらりと光る何かが。
アカネがまた、「思い出す」
___そうだ、DWにしか赤い化け物の本体……核はないんだ____
利知は直感的にそれがミノリの心臓とわかった。
わかってしまった。
だが。
未だに利知は迷っていた。
その心臓は今にも崩れ落ちそうなほど脆い、こんな水中でも殴れば壊せるだろう。
利知は、それでも___愛してしまったから!____
ミノリを殺すことをためらっていた。
なのに、苦しみ続けた利知にはわかってしまう
ミノリがどれほど苦しんでいるか。
何度も何度も何度も利知の耳にはミノリの「殺して」という声が響いてくる。
だから。
腕を振るった。
割れた。
命が割れた。
彼の涙は海に消えた。
_________DW→リアル___________
利知は、浮力で水面に向かいながら、聞く。
ミノリの最後の言葉。
それは、なんというか「漏らした」言葉。
いうのを我慢していたようなそんな言葉。
死にたくないと、言っていた。
月明かりが深い冷たい海底へ落ちていくミノリを見せた。
利知は手を伸ばそうとした。
だが、力がでず抵抗できぬまま浮力に無理やり連れていかれる。
水面、利知は海からでて海岸に倒れた。
酸素が吸える。
呼吸が出来て体が楽。
だが、それがどうしたのだと利知は地面を殴りつける。
「なにが、助けるだよ!!!」
ミノリを助けることなど利知にはできなかった。
ミノリは死んだ。
自分が殺した。
あの優しい子を。
利知は腹の中にゲロを吐きそうな黒い気持ち悪さを感じた。
「クソが!」何度も何度も砂を無意味に殴りつける。
そのたびに手を痛める、なのに、やめられない。
アカネは必死で止めようとした。
「あなたは十分やった!あなたは普通の中学生なの!それでもミノリちゃんの願いを叶えられた!」
利知はアカネを睨み付け。
「ふざけんな!」
殴りかかろうとした、が実体がない彼女に触れることが出来ず体勢を勢いよく崩して
転げた。
叫ぼうとして利知は口に砂が入り気持ち悪くなって一瞬口を閉じる。
が、すぐ開けた。
「……あの子は死ぬのなんて望んでない!」怒りをぶつけた後。
「……俺が中学生とか、そんなの関係ないだろ」少しあたってしまったことを申し訳なく感じ弱気になって
利知は、その場にへたり込んでふさぎ込んだ。
「でも……」アカネに彼にかける言葉はなかった。
時の流れなら彼を癒すだろう。
なのに
そんな時はないのだ、なぜなら。
彼を取り巻く悲劇は
まだ始まったばかりなのだから。
利知がミノリの体から、吸収されかけた人を引っ張り出したら
その時点でDWから帰還しちゃうんじゃないの?と思った人、よくこの作品を読み込んでいますね
(ありがとう)
解説すると、少しDWで人を救ってからリアルに戻るのにはタイムラグが発生するのです。
今回利知君はそのタイムラグ限界ギリギリまでためらって、限界突破しそうになったとこをでミノリにああしたワケです。