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Episode 94

「頭上から何かの作動音と落下音!!避けて下さい!!!」


アンジュからいきなりの通信。

俺はその物体を確認する暇も無く横へと飛び退いた。

次の瞬間には大きな衝突音と俺を掠る様に落下した捕縛用ネット。

四方には重りがついており、落下地点の畳を完全に破壊した事から1個1個の重さも相当な物だ。

もしこの罠に掛かっていたら、完全に捕まえる事は出来なくても(しばら)く無力化されていただろう。


「あれを避けるとはお前はまるでSobreh()umano()だな!」


立て直した体勢から急いで壇上に銃を向けるが、既に男の姿は無い。


「シカさん!!大丈夫ですか!?」

「あぁまだ何とか生きてるぞ。」

「相手はシカさんの左前方に移動しています。私は建物の構造が分からないのでどこに向かってるかは分かりませんが。」

「充分だ。ありがとう。」


アンジュの指示は完璧だ。まるで空から見ている様に。


「今はシカさんのマイクからも音が入るので、そこの周りの状況が手に取る様に分かります。」


俺はとんでもない司令塔を手に入れたみたいだ……。


「奴を追い掛ける。まだまだ頼むぞ。」

「任せて下さい!!」


奴は恐らくステージ裏の方に入った。

足元が悪いので慎重に進まざるを得ない。


「また上から来ました!!」


同じネットが上から襲い掛かる。

が、またしてもアンジュのお陰で一瞬早く俺は前方へと滑り込んだ。


「クソッ…………。」

「シカさん!!?」

「大丈夫だ。少し足を打っただけだ。」


特に何か仕掛けを踏んだ感覚は無かった。

向こうにも俺の位置が分かってる奴が居るな。

やはりここに来てるのは最低でも2人。


「…………。」


先に排除するべきか……。

ここに来る前に白ウサギから聞いた情報を元に挑発を試みる。


Huele(ここは) gay(ゲイ) aquí(臭いな)...」

「!」


広間内に響き渡るくらいの声を出してみた。


「シカさん!何か物音が!良く聞こえませんでしたが……。」


よしよし。彼の言った通りだ。


「¿Donde(オカマ) está(野郎は) maricón(どこだ)?」

「!!!!!!」

「物音!9時の方角!高さは3階くらいです!!」


俺は言われた場所へと銃を向けた。


『少し話したけど、誘拐犯の中に少し有名なクラッカーが居る。僕と同じくゲイの男で、腕はそこそこ良いけどすぐにカッとなり易くてそれで失敗してる。まぁ僕も同性愛者としてこんな事言いたくないんだけど、ゲイを侮辱する様な言葉でも言えばすぐに激昂する筈だよ。』


俺が既に照準を定めている場所から、先程の男とは別の目出し帽を被った奴が顔を出した。


「¡Cierra(その口) la() boca(閉じろ)!」


コイツがそのクラッカーか。


その男は怒り狂った様に叫び声を上げて銃を構えるが、既に自分に向けられているそれを見て目を大きく見開く。

俺は間髪を入れずに数発を撃ち込んだ。

その内の1発は胸の辺りに当たり、男を3階から転落させる。


しまった!死んだか!?


近くに駆け寄り生死を確認する。

脚から落ちた為、骨折したそれは有らぬ方向に曲がっている。

しかし幸いにも男は小さく唸り声を上げており、何とか命には別状は無さそうだ。


「良かった……。」

「シカさん!もう1人が戻って来ます!!」


壇上の方に向き直る。


「¡Puta(この野郎)!やられたな!」


奥に消えた男が物音により戻って来た。

そいつは傍らに仲間が居るにも関わらず、こちらに向けて発砲する。


俺は咄嗟に倒れている男を盾にしてしまう。

それでも1発は俺の頬を掠め、別の1発は"盾"の左腕に命中した。


「お前等仲間じゃねぇーのかよ!!」

「オレ達に仲間意識は無い!」

「マジかよ!!!」


慌てて盾を捨て、天井の瓦礫に身を隠す。

その盾はまだ意識がある様で、撃たれた腕を抱えて(うずくま)っていた。


可哀想に……。

撃たれた場所は腱の集中する場所。

あれでは治療しても上手く指が動かなくなるだろう。

クラッカーは引退だな。


瓦礫の陰から撃ち返すが、相手は移動を繰り返し色々な方向から攻め、自分の居場所を掴ませない様にしている。


「2時の方向に3m移動しました!」


流石に戦闘慣れしている。しかしアンジュのお陰で動きが筒抜けだ。

俺もあの娘が居なければかなりの苦戦を強いられていた事だろう。

それに弾の性能ではこちらが不利。ゴム弾では正確に的を捉える事が出来無い。


「最初から余計な小細工無しで、こうしてオレがcaptura(捕獲)すれば良かったなぁ。昨夜も廊下に折角仕掛けた罠をsin(ホー) techo(ムレス)のジジイが踏みやがってよ。お陰でお前への罠も台無しだったし、死体を片付けるのも大変だったぜ。」


そう言えば血の跡があったな……。

もしそのジイさんが掛かってなかったら俺が踏んでいた事だろう。

すまないホームレスのジイさん……。


こちらも移動しつつ隙きを見て撃ち返す。


「どうした!?有名なsicario(殺し屋)も銃の腕は下手なんだな!!」


確かに掠りもしないのは弾の性能だけじゃあない。

コイツは相当戦闘能力が高い。もしかすると俺よりも……。

しかも慎重さを欠かさない。


「10時の方向に1m……今度は1時……。」


ちょこまかと動きやがって!


「お前もしぶとい奴だなシカリウス。どんな手品でオレの移動位置を掴んでいるんだ?」

「そりゃ企業秘密ってヤツだ!!」


中々死角を取れなくて焦ってきてるな。

こっちにも次の現場がある。弾はなるべく節約したい。

そろそろ決めたい所だが……。


「12時の方向に後退しています……。いえやっぱり真っ直ぐシカさんの方向に向かって来ます!!!」


ここだ!!!


俺は瓦礫の陰から一気に飛び出す。

すばしっこい相手なら確実に当てられる距離まで詰めれば良い。


相手は俺の行動に吃驚した様で、急に足を止め、俺に銃を向けた。

しかし既に相手をサイト内に捉えていた俺が先に発砲する。


パシュ!!


マズルからサプレッサーを抜けた弾丸は相手に向かって真っ直ぐに…………飛ばずに明後日の方向へと消えた。


クソ!!!"ハズレ"弾だ!!!


Gearsが何処かと組んで独自に生産したこのゴム弾は、まだまだ完璧な代物とは言えず……稀に全く真っ直ぐ飛ばない個体がある。


流石に相手の初弾は俺の2射目より早く撃ち出される。

しかし相手も焦ったせいか、その銃弾は俺から左耳輪の1部を攫うだけで済んだ。


何と言うラッキーだ!


続いて俺の2射目が相手を襲う。

今度は外れないように胴体へ向けての1撃。

それは見事に鳩尾(みぞおち)へと命中した。


「ゴフュッッ!!!!」


体中の空気が口から抜けるような声を出して後ろへ吹っ飛ぶ。


どうだ?世界ヘビー級チャンプよりキツイボディーブローの味は??


すぐに倒れた場所まで走り寄り再度銃を向ける。


「じ……実弾じゃないのか……?」

「まだ意識があったのか。タフな野郎だ。」

「ゲホッ!!それに……な……何故罠やオレの位置が……ハァハァ……それ程正確に分かったんだ……?」

「さぁてね。お前に教えてやる義務は無い。」

「ハァハァ……。もしかして……仲間が……居るのか……?お前は単独行動の殺し屋の筈だろ…………。」

「残念だったな。俺には最強の相方が居るんだ。それに……もう殺し屋じゃあない!!」


その言葉を最後にもう1度ボディーブローを食らわせる。


パシュ!!!


「ブフォォ!!!!」


口からマスク越しでも吹き出す程の泡を吐き、白目を剥いて男は完全に意識を失った。


死んで……ないよな……?


脈を測るとまだ心臓は動いている様だ。

何せまだ加減が分からない。

やり過ぎない様にしないと……。


「シカさん!!?大丈夫なんですか??お怪我は???」

「あぁすまん。頬と耳を少しだけ切った位だ。それにもう片付いた。すぐに戻る。」

「ハァ……良かったです……。犯人達は??」

「ダメージは相当な物だろうが命に別状は無い。」

「シカさん……ありがとうございます……。私のワガママ聞いて頂いて。早く戻ってき来て下さい。シカさんの手当もしましょう。」

「あぁ……。」


最後にクラッカーの腕の止血をしてやり、2人を背中合わせに縛り上げるとその場を去る。

後残すは見張りをしている1人だけだ。単独な分いくらか楽だろう。

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