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Episode 54

「シカさんもこのアプリ使っているんですね!皆んな使ってますよ!便利ですよね???」

「あぁネットにさえ繋がっていれば、世界の何処に居ても連絡取れるからな。」

「はい!!以前は家族とも友達とも繋がっていたので今は少し寂しいですが……。」


友達が俺だけしか居ないリストを見つめる。


「でもシカさんと繋がれて良かったです!シカさんは私の1番目ですね!w」


満面の笑みでそう告げるリカ。

前々から思って居たが、この娘は天然タラシな所がある。

こうやって誰にでも尻尾を振っているのだろうか……。


帰路に就いた俺達はスクランブル交差点へと差し掛かった。

そこで見てはいけない物を見てしまう事になる。


大型ビジョンに映し出されたとある広告。

リカの歌声とMVが流れる中、表示される"堀井梨香本日歌手デビュー!"と"Now on sale"の文字。


しまったと思いながらリカを見ると、足を止め、広告に見入っていた。

俺が見ている事に気付くとこちらを向き、少し困った様な苦笑いを見せる。


「アハハ……私ですね。」


またしても思い悩む。

何て声を掛けてやれば良いんだろうか……。


「こんな大々的に宣伝して貰って有り難いですw」


無理をしている表情に心苦しくなる。


「リカ…………もう行こう。」


移動を促す。

しかしリカはそんな俺を引き止める。


「シカさん!!」

「ん?何だ?」

「あの……少しで良いんでカラオケに行きませんか?」

「…………。」


こうして俺は半ば強制的にカラオケボックスへと連れて来られた。

男性ボーカル上等のリカは、ロックだろうが何だろうが全力で歌い切る。

その力強い歌声は、デビュー曲の透き通る様な声とはまた違って、リカ本来の元気な部分を引き出していた。


「はぁぁぁ!沢山歌いました。やっぱり歌は良いですね!!全身がこうブワァってなります!……所で、シカさんは歌わないんですか?」

「いや……俺は……あまり邦楽を聴かないし、何が流行りなのかもサッパリだから……。」

「何を言ってるんですか!!2人きりなんですから気にせず行きましょー!洋楽でももちろんオッケーですし!!!」

「実を言うとな…………音痴なんだ……。」

「大丈夫ですよ!私は気にしませんよ!!」

「いや……止めておこう。それよりリカが歌いだけ歌ってくれ。今日はその……誕生日……でもあるんだろう?」

「ええ!?シカさん知ってたんですかー???」

「すまん……マッテオとの会話を覚えていたんだ。でもタイミングが分からなくて。おめでとう。」

「わぁありがとうございます!知っていて頂いただけでも嬉しいです!」

「今日はその……祝いの言葉は掛けてやるべきなのかどうか……迷ってしまってな。」

「ごめんなさい。気を遣わせてしまって……。そうですね。ちょっとモヤモヤしてた自分も居ましたが、今はとてもスッキリした気分です!歌にはそんな力があるんです!……あっ!!!そうだ!!!」

「何だ?」

「ンフフーw 実は今日はデビューライブも予定されていたんです。もう中止になってしまいましたが……。だからここで改めてデビューライブを開きたいと思います!!!」


リカはマイクを持って急に立ち上がる。


「皆んなぁー!!今日は私のデビューライブに来てくれてありがとう!はいじゃ元気かなって聞いてみましょうかねぇ!皆んな元気かなぁー!?」

「…………。」

「シカさん!!?」

「お……おう。」

「はい!よろしい!皆んな元気でーす!w」


何かが始まった。


「おい!皆んなって観客1人だけやないかい!!!どーゆー事やねん!!!悲しいかよ……。でも!!全然オッケーですぅ!w 何てったって今日来て頂いたのは何とあの!!シカさんですから!!!」


どのシカさんだろうか……。


「はい!私がシカです!今日はリカッシュのデビューライブと聞いて馳せ参じました。ンフフフフw」

「うわぁ!シカさん!!ありがとうございます!楽しんでいって下さいね!」


何故かリカの1人芝居が始まる。


「もちろん楽しませて貰うが、今日来たのは他でも無い!!このライブ会場に集まった皆んなの気を奪いに来たのだ!!!」

「な……何だってぇー!!?あなたは一体何者ですかー???」

「そう!実は……何を隠そう……この私は……本当の事を言うと……悪の化身シカリウスだ!!!ハーハーハー!ハーハーハー!」

「そんな!まさかシカさんがシカリウスだったなんて!!ンフフフフw」


何だこれは……。

リカはいつもの様に1人で喋って1人で笑っている。


「さぁ皆んなの元気な気を取り込んでやるぞー!ハーハーハー!ハーハーハー!」

「それは見逃せないわ!!このぉ……このぉ……えと……美少女ぉ……えと……美少女戦隊スマイリッシュのリカッシュピンクが!!!www」

「ハーハーハー!ここで会ったが100年目!今日こそ決着をつけようぞ!」

「行くぞ!喰らえ!リカァァァッシュ……。」

「なあこれいつ終わるんだ?」


俺は終わる気配の無い小芝居に痺れを切らして遮った。


「あぁw ごめんなさいw そうでした。」


放っておくとどこまでも暴走しそうだ。


「では……聴いて下さい。私堀井梨香のデビューシングルで……。」


曲を入れた機材が丁度前奏を流し始める。


「"Invisible Emotion"です!!!」


リカのデビューライブが始まった。

持ち曲は1曲だけだが、とても良い曲だ。

先程のリカを知っていると、とても同一人物だとは思えない程綺麗な声で歌う。

華やかな曲調の中にも寂しげな雰囲気があり、その声と良く合っていた。

それに元気なイメージのリカとはかけ離れた内容の歌詞。そのミスマッチが余計にその歌の世界に俺を引き込む。

普段は滅多に聞かないジャンルの曲ではあるが、俺は他の全てを忘れるくらい聴き入ってしまった。


観客が1人だけのデビューライブは幕を閉じる。

リカの表情はとても満足している様子だった。


"どうでしたー?"と聞くリカに俺は"とても素晴らしかった"と答えた。

本当にそう思う。落ち着いたらまた是非とも聴きたいものだ。勿論リカの生歌で……。


リカは興奮冷めやらぬまま更に歌い始める。

俺はと言うと、ボケーッとしたまま"見えない感情(こころ)にいつか私は支配される"と言うフレーズがやけに心でリフレインしていた……。

4章完

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