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四葉のクローバー  作者: KIKU
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尊重と悔しさ



警察署に着くと、

前回よりも張り詰めた空気が流れていた。


私は深呼吸をして、母の隣に座った。


担当の警察官が静かな声で告げる。

「今回は……警察が出ないと、解決できないと思います。」


その言葉に、母は小さくうなずいた。


「KIKUさんたちが“写真を消してください”と伝えても、

 “消しました”で終わってしまう。

 “見せてください”と言えば、

 “プライバシーだから”と拒まれる。

 だから――今回は警察が出ます。」


淡々とした声。


机の上で紙がめくられる音だけが響いた。

「もし法で裁くことになれば、

 新聞やニュースで報道される可能性もあります。

 ただ、相手は未成年。

 少年法で守られます。

 釈放は早く、名前も顔も出ません。」


その一言一言が、冷たい刃のように胸へ刺さった。



あの日の記憶が、

まるで血の気と一緒に全身を逆流してくるようだった。


長い沈黙のあと、

母がゆっくりと口を開いた。


「……取り調べだけでお願いします。」


その瞬間、心の中で何かがぷつりと切れた。



――なぜ。

なぜ、そこまで彼を守るの。

なぜ、あんなことをされたのに。

あの夜、電話越しで震えていた声は?

あれは、ただの“同情”だったの?

頭の中で言葉が渦を巻き、

拳を握りしめた手が白くなった。



気づけば、私はまた子どもの頃の自分を思い出していた。


小さい頃から、 家庭はいつもどこか不安定だった。

父が怒鳴り、物に当たる音。

そのあとに訪れる静寂を、

私は小さな体で片づけてきた。

そうやって“家の平和”を守ってきた。


反抗することを知らず、

「いい子でいなきゃ」と言い聞かせて生きてきた。


けれど今――

その“平和”が、急にすべてバカらしく思えた。


母には、“母として”だけでなく、

“ひとりの女として”私を見てほしかった。



でも、母の答えは、

私の痛みを軽くなぞるだけのものに聞こえた。


悔しくて。

情けなくて。


胸の奥から、どうしようもない涙がこぼれた。



何も言えず、

ただひとり――また、泣いた。

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