宗教国家はやっぱり好きじゃない
朝になって拠点を出ると、結界の外に魔獣の姿がある事に気付いた。
この結界は中からは外の様子を見る事が出来るが、外からは中の様子が伺えないようになっている。
魔獣達からすれば、何か分からない物が突如現れたと感じているのだろう。
結界の直ぐ近くをウロウロとしている奴等が多い。
でもそんなにレベルの高い奴はいなかったから、アレックスとマイクを結界の外へ出すと、二人は嬉々として討伐に勤しんでいた。
笑いながら魔獣を斬っているんだぜ?
──戦闘狂過ぎるだろう。
彼等二人の様子に、王が連れて来た騎士達は思いっきりドン引き。
まだまだやり足らないって感じの顔で戻ってきた二人に、俺も掛ける言葉が思い付かず、“ご苦労さん”とだけ告げた。
「やはり、御主人様から賜ったこの剣は良いですね。切れ味が断然違います。」
「それに、この鎧も。動きが阻害される事なく、おまけに軽くて……全然疲れませんね。」
興奮気味に話している二人。
返り血を被っていないのは流石だと思うけど……もう、好きにしたらいいよ。
やっぱりこの二人、ダンジョンにでも連れて行った方が良いだろうか?
レベリングは元々考えていたけど。
というか、何故この世界の奴等はゲームの劣化版なんだろう?
この世界を管理する神はいないんだろうか?
俺には神ジョブのスキルがあるが……俺が管理者になっているんだろうか?
だけど地上から神域には行けない。
現状、顕現している訳ではないからだ。
だから“帰る”事が出来ない。
カルロスが言った“現人神”というのは、ある意味間違っていないのかも知れない。
────
──
暫く馬車に揺られ、やっとハニンソ皇国の関所へ到着した。
貴族達用と一般用の入口があるのは、どの国も同じ。
今回は他国とはいえ国王の一行なのだから、勿論、貴族用の入口へ向かう。
それはどこの国の王も一緒だろう。
会談の為に国王一行が来る事は、関所の兵士達も事前に聞いている筈。
それでも止められたのは、警備の為なのだろう。
今回の訪国を知った奴等が、コクミック王国の国王だと偽って入国しないとは限らない。
……国王が乗る豪華な馬車や、国の紋章入りの騎士達の鎧は国単位で違うから、揃えるのはかなり難しいだろうが。
「此方の馬車にはどちら様が?」
「そちらの馬車には、陛下が御触れを出された冒険者が乗っている。後ろの荷台には、彼の奴隷達が。くれぐれも、くれぐれも粗相のない様に。」
「り、了解致しました!」
……何故、騎士団長は他国の兵士を脅しているんだろう?
俺、そんなに誰彼構わず排除していない……よな?
…………いや、しているか?
でも、俺や子供達へ敵意や殺意を向けた奴等しか排除していない。
暫く待たされたのは、先導する奴等待ちだったのだろう。
目に眩しい白色の鎧を身に付けた一団がやってきた。
──聖騎士達だ。
ゲームではプライドが高いだけで、レベルはそこそこだった。
コイツらを鑑定すると、やはりレベルは高くない。
ゲームでは“神の加護がある”とか言って弱いのに偉そうにしていたけど、コイツらって加護なんかついていないんだよな。
加護がついている奴といえば聖女くらい。
教皇でも一段階下の“神の祝福”がついていただけ。
この世界ではどうなっているのか知らないけど。
「コクミック王国の国王一団だな。教皇様の元へ案内する。私共について参れ。」
やたらと不遜な様子で声を掛けているが、問題にならないのだろうか?
……いや、騎士達の顔が引き攣っているから、やはりあり得ない対応なんだろう。
それでも文句一つ言わないのは、言っても無駄だと思っているからだろうか?
国王の訪国が今回初めてじゃなさそうだし、毎回の事なんだろうな。
「そちらの馬車は見掛けた事がないが?」
国王の一行の後ろにつけた俺の馬車に気付いたらしい。
紋章が入っていないから王族や貴族ではない。
商人が付けている旗もない。
乗り合い馬車はもっと質素だし、一般道から入る。
そうなれば、馬車に乗っているのは護衛をしている人物だと分かりそうなものだが。
「道中の護衛を頼んだ冒険者だ。肩書きはAランク冒険者だが、たった一人で国を滅ぼせる実力がある。それだけでなく、治癒や解呪の力も凄まじく、現人神と言う者もいる程だ。ハニンソ皇国が彼と敵対するなら、我が国は貴国と手を切るだろう。彼と敵対するのは、陛下が望んでおられないからな。」
フルアーマーの兜で顔が見えないけど、聖騎士の奴等がイラッとしたのが分かった。
政治に介入する事がない騎士に、一人の冒険者と敵対するなら国交を切るだろうと言われたのだから、聖騎士達にとっては腹立たしい事だろう。
たった一人の冒険者に、ハニンソ皇国が価値で負けた事になるのだから。
「それはどういう意味だ?コクミック王国は、ハニンソ皇国と戦争をするつもりか?神の加護がある私達に勝てると、本気で思っているのか?」
不機嫌そうに発した言葉に、思わず吹き出しそうになった。
コイツら、ゲームと同じように、自身に神の加護がついていると本気で思っているようだ。
ステータスのどこを探しても、そんな言葉はないというのに。
色々と突っ込んでやりたいが、俺は馬車の中。
それだけの為に降りるのも面倒だし、馬車の窓を開けられる仕様となっているが、わざわざ口を挟む必要もないだろう。
でも前でバチバチと睨み合いをしているから、一行の足が止まっている。
早く進めと言いたい。
騎士団長と聖騎士が言い争っていたって、意味などないのに。
どちらも政治に介入など出来ないのだから。
「早く進め。俺はコクミック王国の戦力になるつもりはないし、お前ら聖騎士に神の加護などないのだから、こんな問答は不必要だ。」
窓から顔を出し、睨み合いをしている二人へ声を掛ける。
俺達まで待たされる義理はない。
「私達に神の加護がないだと!?私達はハニンソ皇国の聖騎士だぞ!敬虔な信徒である私達に、神の加護がないと言うのか!?」
何やら憤っているようだが──
「ある訳がないだろう?神の加護が与えられるのは聖女と勇者くらいだ。教皇や大司教でも神の祝福を与えられれば御の字という程度。それなのに、そいつらの下っ端でしかない聖騎士に、神の加護が与えられる訳がない。」
それくらい、常識な筈だが。
敬虔な信徒であれば、暫くすれば与えられると勘違いしているのか?
神の加護を与えられた人を見た事がないから勘違いするのだろうか?
「お前は本当に敬虔な信徒なのか?」
「なっ!?私を疑うか!?」
「そうだろう?敬虔な信徒なら、神に対して対価を求めたりしない。加護を与えられる事を望んだりしない。確かに神にとって、信徒は必要だ。だけど、神にとって、一人族に構っている暇はない。神にとって大切なのは、世界の存続の為の管理だからな。」
神が見ているのは、人ではなく世界。
だからこそ、加護を与える人は少なくなる。
人族へ加護を与える理由だって分かっている。
聖女はその癒しの力を持つ事に害を為そうとする者から護る為に。
勇者は初期の頃、力が弱く死んでしまう可能性が高い為。
世界の平和の為、加護の名の元、神が監視しているってだけ。
加護を与えているのは、見つけやすくする為でしかない。
死ににくくなるだけで、ステータスもそんなに上がらないし。
「……何故貴様が神を語る?自身が神であると豪語するつもりか?そのような偽りを信じる者がいる事自体、私には理解出来ぬが……ペテン師に騙される者は、ハニンソ皇国にはいない。」
「俺は神でいるつもりはない。あんな退屈な事、俺の性に合わないからな。この世界には嫌いな奴が多いが、人と関わっていたら、気に入った奴の成長を見守る事が出来る。」
何もない、誰もいない所で、箱庭の管理をし続けるだけ。
面白くもなんともない。
たった一人でいる事が理由なのか、遣り甲斐も感じられない。
そんなもの、“したい”なんて思わない。
何の楽しみもないのだから、アレをやりたいゲーマーはいないと思う。
神ジョブも、イベントクリアの報酬の一つでしかなかったし。
「俺は顕現している訳じゃないが、この身体は不老不死だ。神の力を使うには色々と制限があるが、神の遣いとして存在する天使の力なら制限なく使える。……だけど、それは俺にとって、力の一部に過ぎない。」
神の力を使おうと思えば使える。
天使の力も。
聖女の力も。
勇者の力も。
……魔王の力も。
それらの力を使える何かって事。
それが“超越者”って事なのかも知れない。
「…………」
「…………」
「………………」
誰もが口を閉ざした。
言い争いを続行する気はもうないようだ。
「早く進め。いつまで此処に留まるつもりだ?」
声を掛けると、皆ハッとした顔をして、一行は直ぐに馬を進め始めた。
「おにいちゃん、かみさまなの?」
俺の隣に座るソフィアから、キラキラとした瞳が向けられる。
「神の力を使えるってだけだ。神だったら、この世界に降臨するのに色々と制限があっただろうし。その場合、ソフィア達と出会う事は出来なかっただろう。」
降臨する場所は、ある程度聖気に満ちた場所しか無理。
だから基本的に、教会になる。
スラムに住み、街の路地裏にいたソフィアと出会える機会はなかっただろう。
「おにいちゃんは、ソフィアのかみさまだよ。おにいちゃんがいなかったら、ソフィアはしあわせじゃなかった。おにいちゃんだけが、ソフィアのかみさまだよ。」
「……そうか。」
保護した当初より柔らかくなった髪を撫でる。
純粋に俺を尊敬している念を感じる。
信徒って、神の名を騙り、人に手をかける奴等も多い。
そんな奴等に信仰されたって、神の力になったりはしない。
こういう、純粋に敬われる思いが、力の糧になる。
俺は神じゃないと思ってきたけど、ソフィアの思いを聞いて胸がほっこりする。
これも神ジョブによる影響のせいなんだろうか?




