2-31 黄金の勇者vs魔王アドレアス(ラウンド2)
【審判の雷】によって、巨大な白い雷が神護の森に落ちる。
しかし、雷が落ちても草木1本たりとも燃えたりしない。だって、この天術のダメージ判定は魔族か魔王にしか発生しないからね。とっても都合の良い必殺技で有り難いです。
そう言えば【ジャッジメントボルト】使っても、クルガの町の時のように疲れたりしないな? 自分でも意外なくらいにピンピンしている。
なんでだ?
あの時と何が違うって……あっ、そう言えば【魔族】の特性装備したままだ。
『【魔族 Lv.134】
カテゴリー:特性
レアリティ:E
能力補正:魔力
効果:魔法使用可
暗黒/深淵属性強化』
そうそう、【魔族】の特性は魔力にプラス補正がかかるらしいから、もしかしたらそのお陰で俺にかかる負担が軽くなった……とか、そんな感じの話かな?
【魔族】の特性を装備したままでも、【ジャッジメントボルト】の判定から外れるってのは朗報だな。まあ、発動者がダメージ食らうとは思ってなかったけど、それをわざわざ確認する勇気はなかった。自身のうっかりとは言え、それを確かめられたのは良かった。
いや、ってかさ? 特性のレベルが1つも上がってねえじゃん!? って事は、【ジャッジメントボルト】で1人も仕留められてねえって事かよ!?
確かに、未だ視界は白い雷で真っ白になっているが、嗅覚が周囲に漂う大量の敵の臭いを拾っている。
……冗談でしょ? 魔王はともかく、取り巻きは半分以下に出来ると思ったのに……考えが甘かったか。
とは言え、雷が落ちてる数秒間は敵にダメージ判定が出続けるっぽいから、その間は魔族共は大人しくしているだろう。コッチはその間に、どう動くか決めてさっさと攻撃を始めたい。
対多数の戦いの定石は敵の数を減らす事。
雑魚を殺して行くのが正解なんだろうが、問題が1つある。アドバンスさんが【サンクチュアリ】の魔法無効を無視して魔法を使って来ると言う事……。
流石に取り巻き共が無傷って訳はないだろうし、数を減らして行くのを実行するのは難しくない。問題なのは、その間アドバンスが大人しくしてくれてるか? って事だ。
下手に放置して、治癒魔法か何かで取り巻きを回復されたらそれこそ面倒だ。
それに、もし【サンクチュアリ】の弱体化効果の方がアドバンスに有効になっているのなら、その間に少しでも弱らせてしまいたい。って言うか、出来るなら仕留めてしまいたい。
上手い事アドバンスの首が取れれば、取り巻き共は戦意喪失してくれるかもだし……行ってみるか!
狙うのは―――大将首だッ!!
真っ白な光で、何も見えない森の中を金色の鎧が旭日の剣を抜いて走る。
何を隠そう、目視では何も見えていないが【バードアイ】だとボンヤリと見えているのだ。鳥の目ってこんなに優秀でしたっけ? と言う疑問は置いておく。
アドバンスの野郎は、眩しいからか黒いマントで頭までスッポリと体を覆っている。殴り倒すなら絶好のチャンスじゃない?
「全員散れっ!」
アドバンスが叫ぶ。
え? 何? わざわざ俺に倒される為に取り巻きを退けてくれたの? 有り難いこっちゃ。
そう言う事なら、遠慮なくぶっ飛ばす!!
数分前までコイツにビビって居たのが嘘のように殴りに行ける。なんだろう? 覚悟完了したからかな? まあ、“お偉いさん”ってだけで、元々好きな奴じゃなかったしな。殴って良いとなったら、普通に殴るわ。
真っ白な視界を突っ切って、【仮想体】がアドバンスを旭日の剣の間合いに捉える。
――― 死に晒せッ!!
その時、【審判の雷】の効果が切れて光が収まる。
アドバンスがマントの端から顔を出す。
「―――チぃッ!?」
俺が自分を狙って動く事が予想外だったのか、微かに動揺と焦りが見えた。
反応が遅れたその隙を突く―――!
前回は不意打ちの一撃を叩き込んだがダメージが通らなかった。だから、今回は、遠慮なしの全開で殺す気の一撃!
魔王は避けない―――いや、避けられない。マントから出しかけた顔を再び黒いマントの中に引っ込める。
マントごと真っ二つにしてやる! と気合を入れて【仮想体】に剣を振らせた―――のだが、その刃は魔王まで届かなかった。
ギィンッと金属同士がぶつかったような甲高い音をたてて、マントの表面で旭日の剣が止められる。
クッソ! これでもダメかよ!?
なんなんだコイツの完全防御っぷりはよー!!
魔王がボス格つったって、攻撃が通らないなんて理不尽が許されて堪るか!
そもそも、攻撃が通じない訳じゃないのは前回の戦いで知ってるし。重力魔法からのカウンターの蹴り、そしてアドバンスが逃げる時に左腕を斬りつけた。両方共普通にダメージが通ったって事は、コイツの完全防御には何かしら穴がある。
防御された時とダメージが通った時の違いはなんだ?
………
…………
……マントだ!
クルガの町での不意打ちも、今の攻撃もマントの上から攻撃した。
旭日の剣を受ける時、アドバンスはマントを手に巻くようにして受けてたし。あの時は「マントが邪魔だから上手い事処理してんなぁ」と思ったけど、あれはマントを腕に巻く事で旭日の剣から手を守ってたのか?
であれば、アドバンスが鎧を着けていないのはマントの防御力に絶対の自信があり、実際に並みの鎧よりも高い防御力を持っているからだろう。
………って事はさ? アレじゃん? あのマントって、もしかして
レア物じゃないの!?
あ、いかん。コレクターとしての血が騒ぎだしてしまった。
レア物と分かるや否や無意味に闘志に火が付いた。
我ながら現金な人間だとは思うのだが、燃えあがってしまったものは仕方無い。アドバンスからマントを剥ぎ取ろう。
……いや、剥ぎ取るって言うと追い剥ぎみたいで聞こえが悪いな……。まあ、これはアレですよ? 魔王を倒す為に必要な事ですから。あくまで敵を弱体化させる為に奪うのであって、別に私利私欲じゃねえから、うんうん。
とりあえず、さっさとマント寄越さんかい爬虫類。
【仮想体】が剣を引いて、代わりに空いていた片手を伸ばす。
「むっ―――!」
マントに触れられるのを嫌うように、バサッとマントを広げて【仮想体】の手から遠ざける。
この反応ビンゴでしょ! あのマント、絶対レア物だって!!
つっても、アドバンスの野郎も防御の要のマントをそう簡単に奪わせちゃくれねえか……。
収集箱に入れる為には、【仮想体】ではなく俺が直接触れなきゃなんねーしな……。
さて、どうするかね?
一旦【仮想体】を退かせ、アドバンスと距離を取る。
「どうした? 怖気づいた訳ではあるまい?」
アドバンスの言葉を無視して更に距離を取るように走り出す。
「ちっ、まさか本当に逃げるつもりではないだろうな?」
グチャグチャ言いながらも、律義に走り出した【仮想体】を追って離れて行く。
はいはい、行ってらっしゃーい。
親玉が離れた隙に、コッチで仕事を進めましょうか。
先程のアドバンスの「散れ!」の命令を受けて、見事にバラバラに散ってくれた取り巻きの皆様方。
【審判の雷】を全員耐えたのは大したものだが、どいつもこいつも虫の息って感じ。
離れて行ったアドバンスを追う動きを見せる連中と、その場で待機する奴等に分かれた。
森の中、見通しが悪く、お互いの動きを確認するのも一苦労する。だから―――誰にも見られて居ない“はぐれ者”が存在してしまう。
枝を渡り歩いて“はぐれ者”に近付き、
――― ミスリルの槍を投射
狙い違わず魔族の首を貫通し、元々瀕死だった魔族は絶命。
『【魔族 Lv.135】
カテゴリー:特性
レアリティ:E
能力補正:魔力
効果:魔法使用可
暗黒/深淵属性強化』
特性のレベルが上がった事を確認する。
相手が本当に死んでるかどうかを調べるのは、この方法が1番確実だ。
ヒョイッと木の上から飛び降り、死体を身に付けている装備ごと収集箱に放り込む。
『【魔法銀の鎧 Lv.9】
カテゴリー:防具
サイズ:中
レアリティ:D
所持数:1/10』
『【魔法銀の籠手 Lv.4】
カテゴリー:防具
サイズ:中
レアリティ:D
所持数:1/10』
『【魔法銀の脛当て Lv.7】
カテゴリー:防具
サイズ:中
レアリティ:D
所持数:1/10』
『【バルディッシュ Lv.11】
カテゴリー:武器
サイズ:大
レアリティ:E
所持数:1/10』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
お、流石魔王の取り巻き。中々良い装備持ってんじゃん。
先程、取り巻きを無視する体の事を言ったが――――アレは嘘だ!
やはりアドバンスは一筋縄じゃ行かなさそうだし、邪魔な奴等はさっさと退場させる。マントを奪うにしても、横槍入れられたら鬱陶しいからな。
忍者のように―――暗殺者のように―――気付かれないように1人づつ狩り殺す!




