12-19 言い訳
言うだけ言って去って行った大精霊2人。
ぶっちゃけ、魔神の事が分かったような、やっぱり分からんような……。
まあ、ヤバい奴で、それ以上に謎な奴って事は伝わった。いや、そんな事は前から知ってたけども。今更の確認でしたけども。
いやいや、まあ、気になるは気になる事だが、魔神の話は横に置いておこう。
現状、そんな事より重大な問題が目の前に有る。
はい、どんな問題でしょ~か!?
シンキングタイム!
終了!(この間0.3秒)
はい、答えは?
越●製菓ですね。
冗談はさて置き、レティへの説明だよ。
さっきレティとメイドさんの目の前でガッツリ戦ってしまったから、何も言わないって訳にはいかない。
いや、でも、ワンチャンあれですよ?
ワンチャン、レティ達がまったく気にしてないって可能性も有り得るやん?
元より正体不明の“喋る猫”な訳じゃないですか自分? そこに“戦える猫”って付加価値が上乗せされるだけな訳ですし。レティ達がそれを気にしないってんなら、別に無理に説明する必要はないだろう。
うんうん。
いや、決して言い訳が面倒臭いとかじゃなく、ええ、本当に。
話すコッチがしんどいし、聞いたレティも困惑するし、お互いに良い事が1つも無いでしょ? だから、しなくて良いならしなくて良くない? いや、これも別に言い訳ではなく、ええ、本当に、マジでマジで。
そんな感じで、レティ達がさっき見た事を軽く流してくれる事を祈りながら、サクッと城に戻って来た俺。
とりあえず城の中庭に転移したけど――――騒ぎは起こってない……よな?
まあ、出先で姫が軽く危ない目に遭ったっつっても、別に大精霊はレティを狙ったテロリストな訳じゃなかったしな?
俺が一緒に居たから巻き添え食らったってだけだし、そこまで大騒ぎにはならんか。元々お忍びでの“お出かけ”だったから騒ぎにし辛いってのもあるし。
場内に入ると、いつも通りの光景。
掃除や洗濯に精を出すメイド。訓練に勤しむ兵士。何やら難しそうな大量の資料を持って部屋を行き来する文官達。
皆がこの国の為に、自分の出来る事を頑張っている。
兎角、国政に係っている人間は、アルバス境国の国民を纏めて受け入れたから、今は多忙の極みだろう。
この事態を引き起こした関係者の1人としては、色々と「ゴメンナサイ」な気分になる……。
いや、でも、根本的に悪いのは全部ピーナッツだし、文句は全部野郎に言って欲しい。
ま、そんな事言っても、そのピーナッツは今頃冥府の王にでも説教食らってるだろうから、言える訳もねーんだけどさ。
心の中で頑張る皆様を応援しつつ、とりあえずレティの部屋を目指す。
俺が【転移魔法】で飛ばした先がレティの部屋だったし、そうじゃなくてもレティが居そうな場所は部屋しかねえしな?
トコトコと、勝手知ったる、城の中(唐突の五七五)。
城の中を歩くと思うが、子猫の体で歩き回るには広くない? こちとら普通の一軒家ですらやたら広く感じるっつーのに……。城なんて大海の如しよ?
こういう時に誰かが俺を見つけてくれて、レティの所まで運んでくれると有難いんですけどねぇ?
…………。
…………。
…………。
ま、そんな事考えてても、都合よく誰かが現れてくれる訳じゃないけどね? 分かってますよ。自分で歩きゃ良いんでしょ歩けば!
いつも通りにレティの部屋のテラス下辺りに転移すれば良かった……。変に「騒ぎになってるかも……」とか思って、レティの部屋から離れた場所に転移したのが間違いだったわ。
心の中で愚痴っている間にレティの部屋に到着。
一応礼儀としてドアをノックする。
飼い主とは言え、年頃のレディーの部屋ですしね?
…………今更だが、一回り近く年下の女の子を“飼い主”って呼ぶのは色々どうなのだろうか? いや、別にアレよ? 男のプライド的な話じゃなくて。
正直興ふ……ゲフンゲフン!! いや、変な意味じゃなくて、世間的にどうなのよって話よ? 世間体悪いよねって話よ?
まあ、レティが俺をペットと呼ぶ事は無いし、自身を飼い主って言う事も無いから、単純に俺の心の問題なんだけどさ。
いや、そもそもの話として俺は飼われているのか? 飯と寝床を提供して貰ってるとは言え、ほぼほぼ野放しじゃない? 仮に飼われているとしても放任主義っつか、放し飼いじゃない? 9割くらい野良じゃない?
どうでも良いか? どうでも良いな。
結論が出たところでタイミングよくドアが開く……が、何かを警戒しているのかドアを全開にはせず、いつもより3割増しで目つきの鋭いメイドさんがドアの隙間からコチラを覗き込む。
「ミィ」
一鳴きして存在を主張すると、メイドさんの視線が下に降りて来て俺を見つける。
いつもなら俺を確認したら部屋に招き入れてくれるのに、今日は鋭い視線を向けたまま動こうとしない。
え? 何? むっちゃ疑いの眼差しを向けたまま動こうとしないんだけど?
いや、まあ、目の前で子猫が戦う姿見せられたら、そら「なんじゃコイツは……!?」って視線を向けたくなるか? っつっても、この人の場合、そんな事お構いなしにレティに近付く奴への警戒心は常にMAXだけど。
子猫とメイドの睨み合いが10秒続くと、レティが何事かとメイドさんの後ろから顔を出す。
「あっ、ブラウン! 無事だったんです!?」
「(見ての通り)」
レティが俺を抱き上げようとドアに近付くと、メイドさんが俺を睨んだままドアの横に移動して道を開ける。
「もう心配してたんですからね!」
俺の前脚を抱えるようにして抱き上げる。
温かくて良い匂い。実家のような安心感。
「(話せば分かる奴等だったよ)」
若干噓をついた。
まあ、正直な事を言うと無駄に心配させるし、レティには「無害な連中だった」と、さっさと記憶から消して貰った方が良いだろう。
折角の気晴らしのお出かけなのだから、楽しい思い出にして欲しいってのもある。
「(レティ達は大丈夫だった?)」
「はい、何事も無く。あ、でも急に部屋に戻って来たので、ネリアがちょっと気持ち悪そうでした」
ああ、転移のアレだな?
視界がいきなりグニャッとなるから、慣れてないと気分悪くなるんだよ……俺も【転移魔法】使い始めた頃は結構気持ち悪くなってたわ。っつか、アレで気分悪くなってないレティが凄ぇよ。
俺を抱っこしたまま椅子に座ると、今までの心配そうな顔が一転ニコニコと笑う。
え? 何? 急にそんなキラッキラな笑顔を浮かべられても怖いんだが……?
「(何?)」
恐る恐る聞いてみると、俺をギューッと抱きしめる。
いや、女子に抱きしめられるのは嬉しいっちゃ嬉しいんだが、どんな感情から出ている行動なのか分からんと困惑する。
「(何? 何さ?)」
「海、綺麗でしたね?」
「(そうな、綺麗だったな)」
「お弁当、美味しかったですね?」
「(そうな、外で食べると3割増しで美味しいな)」
俺の顔をジーッと見つめてから、「えへへ」ともう1度笑う。
思い出し笑いだったのか……。余程“お出かけ”が楽しかったようで何よりだ。最後大精霊に襲われたのも気にしてないみたいで良かった。
ついでに、俺が戦ってた事も気にしてないようで本当に良かった。面倒臭い説明と言う名の言い訳をせずに済んだ。やっぱりワンチャン有ったな。信じる者は救われる、だ。
その後もレティはずっとご機嫌だった。
夕食も珍しく王様達……両親と一緒に食べる事が出来て、レティは更にご機嫌になり、食後には今日のお出かけの話を両親に楽しいそうに語って訊かせていた。
王様も王妃様もそれを嬉しそうに聞いていて、その姿は王族などではなく、どこにでもいるごく普通の家族に見えた――――などと格好つけてナレーションをしているが、メイドさんが滅多メタに警戒した目で俺を見てくるので、まったくちっとも気が安まりゃしない。
レティがご機嫌に俺を抱っこするので、愛想笑いを浮かべるので精一杯。
メイドさんは確実に“俺が普通じゃない”って気付いている。それでも睨むだけで何もしないし、何も言わないのは、俺が猫だから話が通じないと思われているのか、それともレティの友達だからか……?
まあ、どちらにしても、メイドさんが王様達に、俺の事を注意するように言うのは時間の問題だろう。
その先の事は……分からん。叩き出されて出禁食らう可能性も無きにしも非ず。その時はその時だ。別に寝床も飯も自分で調達できるし、おっさんの所なりバルトの所なりに世話になったって良いしな?
まあ、明日どうなるか、なんて不安になってもしょうがない。そもそも、アビスに出会った時点でそんな不安いつも感じてるし、今更だろう。
っつー訳で、俺は普段通りに料理場の裏手でコッソリ飯を貰って食べ(レティの部屋で食べるとメイドさんに怒られるので)、人目を気にしながら生温いお湯で濡らした布で【仮想体】に体を拭かせる。……本当はちゃんと風呂入った方が良いんだろうが、あんまり体濡らしたくないし……ええ、猫ですもん俺。
飯食って、1日の汚れ落としたら後は寝るだけ。
レティが寝る準備している間に、俺はさっさとパンの匂いの染み付いたバスケットに入って丸くなる。
今日も疲れた……お休み俺……。
メイドさんが退室する気配を感じながら、眠りの海へボンボヤージュ――――しようとしたら、ベッドの方から声がかかる。
「ブラウン、起きてるんです?」
「ミゥ……」
一応……。
目を開けると、部屋の明かりは消え、窓から差し込む月明りでぼんやりと照らされるベッド。
月明りと言うのは不思議なもので、いつものレティの部屋もなんだか幻想的に見える。
俺が人間のままだったら、多分“いい雰囲気”になったのではなかろうか? まあ、今は猫なんで関係ないですけどね。
「ブラウン……」
「(聞こえてる)」
「こっち、来て下さい」
「(何? また寂しくなったん?)」
軽く伸びをしながら起きる。
飼い主に来いと言われればホイホイ行ってしまうのが俺である。
トコトコとベッドに近付き、ヒョイッと軽やかなジャンプで枕元に着地する。
「(レティ?)」
顔を覗き込むと、毛布の中からレティの手が伸びて来て俺を優しく包む。
このまま毛布の中に引っ張り込まれる流れかと思って身構えたら、そのまま上体を起こして、自身の膝の上に俺を置く。
「ミ?」
何?
訊いても何も答えず、無言のまま俺を見つめてくる。
ええ加減見慣れてきたが、この子本当に綺麗な顔してんな……? お人形さんみたいな女の子って、多分この子みたいな子の事を言うんだろうな。
ぶっちゃけ、今ちょっとドキドキしている。
「(レティ?)」
何も言わない。
別に急かす理由も無いので、暫く黙って待っていると、たっぷり30秒程見つめ合った末にレティは口を開いた。
「ねえ、ブラウン?」
「ミ?」
一瞬、その後の言葉を口にするのを躊躇う間。
「貴方が、剣の勇者様なんですか?」




