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2-1 猫だって働きますよ?

 クルガの町を支配する魔族達との戦いから5日が経った。

 あれから町の雰囲気は良くなっている。

 外からの人の出入りが魔族の支配されて居た頃よりずっと増え、魔族によって営業を止められて居た店が開き、壊された家屋の建て直しが始まった。

 朝から晩まで様々な作業の音が響き、飯の時間には町を様々な料理の良い匂いと住民達の笑い声が満たす。

 活気が戻った……いや、戻ったって魔族の居る前の状態を知らねえけど……。

 まあ、ともかく住民の皆様は、魔族が居なくなって目に見えて元気になった。



*  *  *



 目を覚ました俺は、自称俺の手下の猫達の猫団子から抜け出して体を伸ばす。

 うーんぃ……今日の良い天気だわぁ!


「ミ~ィ」


 どうも皆様、相も変わらず可愛い子猫な俺です。

 魔族が居なくなったお陰で住民の心に余裕が生まれたのか、俺達野良猫に対する扱いが大分良くなった気がする。

 少なくても、魔族の支配下では自分達が食っていくだけでやっとだったが、今は野良猫に飯を恵んでくれる程度には余裕がある。

 町の猫達は「暮らしやすくなった」と喜んでいるしな?

 まあ、それはそれとして…………後ろを振り返る。

 自称俺の手下の猫が居る。

 いっぱい猫が居る。

 20匹くらい猫が居る。

 ……なんか、日に日に所帯が大きくなってる気がするんだけど、俺の気のせいかしら? いや、気のせいじゃないよね? この前俺達に喧嘩を売って来た傷猫とその手下もいつの間にか猫団子に加わるようになってるし……。

 着々と俺がこの町の動物達を支配するボス猫になっている気がする……近頃じゃ、猫だけでなく犬まで俺にビビって逃げ出すような有様だしなぁ。

 はぁ……これ以上役割を増やされても困るんだが……。

 まだまだ起きる気配の無い自称手下達を置いて路地裏を抜ける。

 時刻は朝の鐘が鳴る前―――とは言っても、町の住民の半分くらいはすでに起きているし、そのまた半分くらいは仕事を始めている。

 さってさて……俺も仕事するか…。

 仕事……とは言っても、“猫”としての餌探しの事ではない。もう1つの姿の話だ。



 コッソリと町の外に出る。

 町の外はだだっ広い平原―――そして、北側から西側にかけてジャングルのように広がる鬱蒼とした森。

 魔族を警戒して巡回している者達の目を掻い潜り、静かに森に向かう。

 誰も居ない事を確認し、収集箱(コレクトボックス)からオリハルコンの鎧一式を取り出し、同時に【仮想体】を創り出して鎧を着せる。

 中身空っぽの黄金の鎧がユックリを立ち上がる。

 はい、勇者モドキの完成ってね。

 ヒョイッとジャンプして黄金の鎧の肩に乗る。

 じゃ、レッツゴー!

 鎧が走り出す。


 木々の間を風のような速度で駆け抜けて行くその姿は、まるで雷―――とか、なんとか格好良いナレーションを付けてみる。


 猫の体で走るよりも、【仮想体】が走る方が圧倒的に早い。若干小回り利かないけど、別に何かに衝突したところで痛くも痒くもないし。……肩に乗ってる本体の俺は大ダメージだけども……。

 正確な速度は分からないが、時速50kmくらい出てる気がする。

 普通の人間の全力疾走が時速40km以下だから、相当速いだろう。……まあ、実際に50km出てるのかは知らんけど。

 少なくても、その速度でずっと走り続けられるってだけでも十分速い。人間にしろ野生の動物にしろ、全力疾走を持続できる時間なんてたかが知れてる。それに対して【仮想体】は、疲れ知らずで永遠に走って居られるからね。


 10分程ドライブを楽しんで―――…


 そこそこ森の深い所まで到着。

 クンクンと鼻を澄ますと、微かに嫌な臭い。

 【仮想体】の動きを止める。

 今日はこの辺りにするか。

 棒立ちになっている黄金の鎧から飛び降り、猫的な俊敏さで素早く木の上に登る。更に【隠形】で気配を遮断すれば準備完了。

 少し待つと、ピリピリとした気配と共に、ここら一帯を漂う嫌な臭いが強くなった。

 来たかな?

 【バードアイ】で視覚を飛ばし、臭いの出所を追う。

 肉眼ではまだ捉えられないが、俺から見て右前方の木の向こう側から首の長い黒い獣がコッソリと近付いて来ていた。

 クビナガイーターだ。

 森を彷徨っていた頃の俺にとっての恐怖の象徴とも言うべき魔物。まあ、あれからモリっと成長した今の俺の敵じゃねーけどな?

 魔物は、突っ立っている【仮想体】の背後に回るようにコソッと移動し、そして―――一気に襲いかかる!


「ガぁアアアアああッ!!」


 全身の筋肉を躍動させる、飛ぶような突進と同時に、長い首を空中を泳ぐ蛇のように動かして【仮想体】を狙う。

 相手としては万全の不意打ちをしたつもりなのだろうが、コッチはコソコソ動いている間も、襲いかかる瞬間も全部【バードアイ】の視覚飛ばしで追いかけている。

 そもそも―――お前が襲いかかったのは、ただの空っぽの鎧だ。

 クビナガイーターが大口を開けてガブッと腰辺りに噛みつく。しかし、その鎧はオリハルコン製。並みの攻撃では傷一つ付けられない。勿論、クビナガイーターの牙もまったくちっとも刺さらない。まあ、仮に刺さっても、「だからどうしたの?」って話だけど……。

 はい、じゃあ反撃しまーす。

 伸び切った首を黄金の腕が掴み、グイッと引っ張って引き寄せるや否や、魔物の腹を軽く蹴り上げる。

 軽く―――とは言っても、総重量100kg近い鎧による、自走での時速50kmを実現する超パワーでの“軽く”だ。

 ゴガンッと鈍い音が魔物の腹から響き、2mの空中遊泳を楽しんだ魔物はベシャっと地面に叩きつけられて気絶した。

 ピクピクと体を痙攣させ、口から泡を吹く魔物。

 まだ殺して居ない。殺さないように手加減したからね。

 さてさて、さっさとやりますかねっと……。

 何かの役に立つかと思って、町で貰って置いた縄を収集箱から引っ張り出す。

 【仮想体】を動かして、気絶している魔物の後ろ脚を木に結ぶ。

 はい、ちょっとグロい映像入りまーす。

 旭日の剣でクビナガイーターの長い首の根元を深めにスパッと斬る。

 魔物の体が1度だけビクンッと跳ね、傷口から狂ったように血が噴き出す。

 ………えーっと、一応言っときますけど、別に苛めてる訳ちゃいますよ? 若干雑ではあるが、ただの血抜き作業だからね?

 荒っぽくて作業が雑なのは勘弁してほしい。なんたって、血抜きの仕方を教わったのは一昨日の事だし、しかも口頭で説明されただけだからな……。細かい所は完全に我流だ。


 なんでこんな事をしてるのかってーと、俺も一応町の住人な訳じゃん? 猫として……ってのは置いといて、今はこの黄金の鎧が、まあ……あれだ……勇者モドキとして。

 そう考えると、俺も今の町の現状に何かしら貢献しなきゃって気分になる訳さ。でも、そもそも俺には金が無いし、猫だから会話も出来ないし、「何が出来るか?」って考えた時に、今の俺に胸を張れる物は“戦闘力”だと思った。

 子猫の俺だが、魔法と天術、投射(スリングショット)で距離をとっての戦闘には自信がある。その上近距離では【仮想体】の超パワー、そして何より旭日の剣が有る。

 並み魔族相手ならば勝てる事がこの前の戦いで証明された。

 で、その戦闘力を活かして、町の周囲の魔物を退治しつつ、魔物の肉は町の住民達やウチの猫達にやればええんじゃん? となって、ここ3日程こうして魔物退治に森に入っている訳です。

 ……まあ、初日に収集箱に入れた魔物肉を持って行ったら、血みどろ過ぎてドン引きされたけども……。そしてやんわりと「次からは血抜きして下さい」的な事を言われて、やり方を説明されたけども……。




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