2-2 これからを考える
魔物を狩るのなら、下手に動き回るよりも待った方が良いと言う事に昨日気付いた。
1匹目を倒して血抜きをすると、その血と肉の臭いに釣られて魔物が寄って来るらしい。まあ、その行動が「おっ、飯の匂いがするぞ」的な物なのか「仲間の仇討ちじゃワリャコリャぁ!!」的な物なのかは俺には不明だが。
とりあえず、倒した1匹目を餌にして、近付いて来た魔物を狩って逆さ釣りにしていく。
15分程で5匹吊り上げた。楽勝です。
もう2、3匹やったら切り上げるかね? 【仮想体】が超パワーと言っても、流石にこれ以上運ぶのはしんどい。
え? 収集箱に入れれば良いじゃんって? それはマズいんですよ……魔物の死体を収集箱に入れると凄い雑に素材分けされちゃうから、町の買い手に渡す時良い顔されないですよね。
相手も普通の猟師だの狩人だのが相手だったら問答無用で買い叩くんだろうけど、俺は町を解放した“勇者様”ですからねえ。相手も気を使って金額にイロを付けてくれる訳ですよ。
相手が気を使ってくれてるんなら、コッチも出来る限りの礼儀で対応したいじゃない? 俺だって良識ある社会人ですし。今はただの猫だけども……。
俺の素人技術で何かするより、最低限の血抜きだけして、あとは専門の人間に丸投げする方がお互いの為だ。多少査定金額が落ちるけども、今のところ俺はそこまで金が欲しいって訳じゃないからそれは別に良い。
木に吊るされた5匹の肉塊を前に、返り血で汚れた黄金の鎧が仁王立ちしているシュールな光景。
……勇者って言うか、処刑人って感じだなコレ……。
っつか、残り2,3匹って決めたら、途端に来なくなったな?
木の上でマッタリしつつ、【バードアイ】で周囲を探る。
視界を走らせながら、少し“これから”の事について考える。
これから……ってのは、「今日の晩飯どうすっか?」的な直近の話ではなく、根本的に俺がこの異世界でどうするかって話。
町から魔族が居なくなって、少しは生活が落ち着いたし、そろそろ現実見て今後の事を考えないとね。
まず―――この世界に留まるかどうか。
そもそも、元の世界に戻れる方法が存在するのかどうかも分からないが、その方法を探すか否か。
まあ……否かな? 父さんと母さんに親孝行しに戻りたいって気持ちはあるが、流石に猫の体で戻る訳にもいかねーし。
やり残しのゲームや、続きの気になる漫画とか、集めてる途中の食玩とか……色々未練はあるけど、アッチの俺はすでに死んじまったらしいから……そこはどうしようもない。
次に、猫のままで良いのか?
元の世界であれば、猫としての余生を受け入れるしかなかったが、コッチの世界には魔法だの天術だのスキルだのと、超常的な力が存在している。その中には、もしかしたら人間になれる力だって存在するかもしれない。
それを探すか否か。
うーん……消極的にイエス、かな?
そりゃあ、人間に戻れるなら戻りたい。猫の体じゃまともに人と話す事すら出来ないし。ただ―――猫として生活してみて、人間が生きて行く上で絶対に背負わなければならない様々な柵や義務から抜けだした今の生き方も……これはコレで悪くないな……と思い始めている。
積極的に探し回るつもりはないけど、何かの拍子に手に入ったら人間に戻る……って感じが、今の俺の偽らざる気持ちだ。
では、元の世界にも戻らず、人間にもならず、俺はこれからどうして行くのか?
勇者として生きて行く―――なんて選択肢は始めから存在しない。何故って、そもそもやる気がないし。
勇者に期待されている事は「魔王の討伐」だ。
魔王なんて、絶対ヤバい相手じゃん? だって、“魔族の王”と書いて魔王だぜ? しかも、聞いた話じゃこの世界って魔王が13人も居るらしいじゃん? もう、無理じゃん? 人類無理じゃん?
そんな危ない事に首を突っ込みたくありません!!
この前のクルガの町の解放の一件だって、ユーリさんが捕らわれる事情に俺が関わって無かったらスルーしてたし。……いや、まあ、そら、これから自分の暮らす町から魔族を叩き出したいって気持ちがあったのは嘘じゃないけどさ……。
自分から進んで怪物に喧嘩売りに行くなんて、絶対正気じゃないって! 勇者家業なんて、頭のネジが2本3本吹っ飛んでる奴がやるべきで、俺のような常識人がやるような物じゃないでしょ、うん、間違いない!
っつー訳で、まかり間違っても勇者にはなりませんし、魔王となんて絶対に戦いません。あしからず。
じゃあ、どう生きて行くのか?
うーん……もう、いっそ人間としてのプライドを捨てて誰かに飼って貰えば良いんじゃないかと最近思い始めた。
猫になって森を彷徨ってた頃は、「もう野生に帰るしかねえな……」と覚悟を決めていたが、いざ人間の世界に戻ったら、やっぱり文化のある生活は捨てられませんし。
それに、飼い猫になれば飯の心配しなくて良いし、1日中ダラダラ食っちゃ寝してられるし。
飼われるなら、清楚系な美女が良いなぁ……。あとオッパイが大きいと言う事無し。
朝起きたらオッパイに埋もれて「おはよう」とキャッキャウフフして、飯を食ってはオッパイに埋もれて「ごちそうさま」とキャッキャウフフして、夜寝る時はオッパイに埋もれて「おやすみ」とキャッキャウフフする。
………理想郷じゃねえか!!!?
よし、探すか! オッパ……じゃない、飼い主を!!
とは言え、クルガの町じゃ難しいかもなぁ……。あの町、今は誰も彼も生活の立て直しで、そんなノンビリしてられんだろうし。
つっても、「じゃあ今すぐ別の町を目指しましょう」って訳にも行かん。勇者家業をするつもりは全くないが、それでももう少し町の状況が落ち着くまでは俺―――っつか勇者モドキが居た方が良いだろうからな。
それまでは、こうして魔物狩って金を稼ぐとしようかね?
俺の思考が纏まったのを待って居たかのように、魔物が【バードアイ】で捉えられる範囲内に入って来た。
シルエットは熊に見えた。
しかし―――頭に角が生えている。
その角邪魔じゃない? と言うツッコミを是非いれてみたい。
だが、問題なのは角ではない。
筋肉の異常に盛り上がっている両腕―――…。
明らかに殴り特化の奴だ……。ぶん殴られたら洒落にならない奴だアレ。
にしても、始めてみるタイプの魔物だな?
森を彷徨ってた時にも、ここ3日の狩りでも、あの“なんちゃって熊”にはエンカウントした事がない。
見るからに強さはクビナガイーターの比じゃなさそうだ……。ただ、魔族の馬車を襲っていたシャドウダンサー? とか呼ばれて居た影の魔物程のヤバさは感じない。
少なくても、今の俺にどうこう出来ないってレベルの相手じゃなさそうだ。
でも、あの大きさだと運ぶの大変そうだなぁ……っつか、それ以前に血抜きするのも一苦労だ。……仕方無い、アイツに関してはもう死体をそのまま渡して処理を任せよう。
あれだけの大物を仕留めるなら、今日はこれで切り上げっか。
今日の仕事の締めって事で気合いを入れ直す。
【バードアイ】で“なんちゃって熊”を追跡しつつ、【隠形】を切らさないように注意を払う。
俺の戦いの基本は【仮想体】でぶち殺す事。俺自身は見つからない事が第一。
能力が強化されたところで、俺が脆弱な子猫の体って事は変わらんからな。常に『いのちだいじに』だ。
しかし、一定距離から近付いて来ない。
コッチを警戒してんのかな?
まあ、そりゃあ森の中で金ぴかの鎧が立ってたら警戒するか……。
いや、まあ警戒するのは結構なんだが、別にコッチがそれに付き合う必要はなくない?
【仮想体】を鎧ごと収集箱に戻す。
その場から消える鎧。
驚いてキョロキョロするなんちゃって熊。
背後に現れる金色の鎧。
で……
【ライトニングボルト】
空間を切り裂くような雷が鎧の手から奔り、熊の右肩を貫く。
「ァグワァあああ!!?」
ドスンっと巨体が倒れ、その振動が離れた木の上に居た俺の所まで伝わる。
一応魔法撃つの手加減したけど……なんか、普通に熊さん死んじゃってない?
もしかして、大した事ない奴だったのかな?
いや、俺の魔法の威力が高過ぎるだけとか……? 魔法の威力に関係ありそうな“魔力”のステータスに補正がかかる【魔族】の特性装備してるし。しかもそのレベルが100超えてるし……。
殺しちまった物はしょうがない。
若干肉の焼けた匂いがするけど、このまま町まで運ぼう。




