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10-34 とりあえず殴っとけ

 いや、いやいやいやいや、でもちょっと待てよ?

 “アイテムを消費して俺自身の能力を上げる”と言う【我が力は生贄の上に(サクリファイス・アブソプション)】のスキルは、ちとおかしくないか?

 俺は、自分がただの子猫で、一般人で、どう足掻いても魔王や勇者のような“選ばれた存在”にはなれない事を知っている。

 そんな俺だからこそ、【全は一、一は全(レギオン)】と言う“数の力”に物を言わせる魔王スキルを手にした。

 それはつまり、俺の根っこが「質より量」だと考えているからに他ならない。

 だと言うのに、このスキルは「量より質」に向かっている。俺の在り方と真逆に。

 それはまるで……俺の存在を、獣が否定しているかのような…………いや、いやいや、ストップ、思考ストップだ俺。

 これは今考えても仕方ねえ、後回しだ。今は目の前のおっさんを倒す事に集中!


「仕切り直しだ」

「(おう)」


 相変わらず天術と武器は使用不能。いや、なんか獣の野郎が、微妙に武器は使える事を証明してくれたけど……本当に一瞬だけしか使えないからなぁ……? しかも、おっさんに1度見せたから、警戒されてるだろうし。

 正直、武器は使えないままだと思っといた方が良いな……。

 そして…………1番の問題は、決め球のデッドエンドハートを避けられてる事。

 いずれ、どこかで対応してくる魔王とエンカウントする事は予想していた。……していたが、まさかこのタイミングで来やがるとは……。

 偶々(たまたま)避けただけってんなら良い。だが、おっさんのさっきの動きは、明らかに【仮想体】の手から逃れる為の反応だった。

 って事は、恐らくだが……おっさんはアビスと同じく、【仮想体】を認識出来るって事だ……! いや、認識とは違うか? まあ、でも“分かってる”のは多分間違いない。

 …………いや、アレよ? 獣がデッドエンドハートでおっさんにトドメ刺そうとした時、正直おっさんが避けてホッとしたのはアレよ? 別に日和った訳じゃないから。うん、アレだから、うん、本当だから、うんうん。

 まあ、ともかく、こっから先はガチンコ勝負で倒すしかない。

 まずは、パワーとスピードの差を埋めなきゃ始まらん。

 獣が使っていた【我が力は生贄の上に】の強化は切れている。1度死んだから効果が切れたのか、時間制限で切れたのか……どちらにせよ永続効果じゃない事だけは確かだ。

 どんな感じなのかは、使いながら確かめて行くか。


『【我が力は生贄の上に(サクリファイス・アブソプション)】を発動します。消費(ロスト)させるアイテムを選択して下さい』


 えーっと……とりあえずレアリティAのアイテム1つで良いか。強化値足りないようなら足していく感じで。

 いつもなら適当な防具1つ消費させるんだけど……今は武器使えないから武器で。防具消費させると、ただでさえ低い防御力が心許ないしな。

 じゃあ、とりあえず――――適当に1つ選ぶ。

 肉体の奥底から力が溢れてくる。

 体の内側で何かが弾けたように、全身に暴力的な勢いで力が流れ込む。

 同時に、分かった。

 収集箱の奥底で


―――― 獣を縛る鎖が緩むのを。


 ヤバい――――これは、ヤバい――――!!

 意識が獣に引っ張られる!?

 いやっ、ダメだ! 抗え!! 今コイツに体を渡したら、次は戻って来れない!!

 ビキビキと脳みそが悲鳴をあげるような感覚。

 耐える。体から意識を引き剥がされないように踏ん張る。

 よし、大丈夫、いける! さっきのように“一飲み”にされる程の強制力はない。結構ギリギリだが耐えられる。

 数秒程で意識の綱引きに飽きたのか、獣が奥に引っ込んでいく。

 …………よし、治まった……。

 そうか、クソッ……【我が力は生贄の上に】は獣が出したスキルだから、使うと野郎が起き上がって来るのか……。気を付けて使わねえと、あっという間に食われるな……。

 

「ゆくぞ」

「(いちいち律儀に合図してくれなくて良いんだぜ)」

「そう、かっ!」


 ドンッとおっさんの体が大きくなった――――と錯覚する程の、鋭く、早い踏み込み。

 慌てるな、反応できる。

 黒い魔力光(オーラ)を纏う右拳を左後ろに飛んで躱し、【空中機動(エアスライド)】で足場を作り空中に一瞬着地、即座におっさんに向かって飛ぶ。

 あ、そう言えば後ろ脚が治ってる……。あ、1回死んで【ダブルハート】発動したから全快状態なのか、有難い!!

 そして、【魔導拳】発動――――。

 あ、何これ? めったくそ操作難しいんだけど!?

 ギリギリ両手……いや、片手に魔力纏わせるだけで精一杯。おっさんのように全身を魔力で覆うなんて絶対無理だコレ! 【魔導拳】のレベルが上がったら、操作性もうちょい良くなってくれんのかな……?

 まあ、良いや。とりあえず今は、ぶん殴る為の右前脚1本で十分!!

 振り被る。

 と、同時に、下から巨大な左拳が突きあがって来る。


「――――ミッ……!」


 チっ……!

 相変わらず防御の反応が早い。

 本っ当に、この図体でこのスピードは反則じゃろがぃ!

 空中で体を無理矢理捻って拳の軌道を躱し、カウンターに右前脚を突き出す。


「ミィっ!」

「金眼の時よりスピードが落ちたな」

 

 軽い口調で言いながら、俺のカウンターの右前脚を、音より速く引き戻した右拳で受ける。


「ついでにパワーも」


 グッと押されただけで右前脚が()し折れそうになる。

 無理に押し返そうとせず、敢えて押されるまま吹っ飛ばされる。

 空中に足場を作って、地面に着くより早く受け身を取って体勢を整える。

 チックショウがっ!! パワーが足りない、スピードが足りない、リーチが足りない!

 かと言って、調子に乗ってこれ以上【我が力は生贄の上に】で肉体強化すると……絶対に獣の鎖がもっと緩くなるよなぁ……? 今でもギリギリなのに、これ以上強制力を上げられたら間違いなく即アウトだ。

 現状の能力値が、今の俺が出せる限界。

 でも――――足りない! おっさんに攻撃を叩き込むには、もう一手足りない!

 頭捻れ! 思考しろ、凡人!!

 才能無し、運動能力並み以下、学力ギリ平均――――俺に誇れるのは、小賢しさ1つ! 考えろ、考えろ! 逆転の一手なんて無茶は言わない。俺のクソ雑魚の脳みそじゃそんな物は高望みだ。状況打破の小さな一手で良い!

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 エクセリオンだ……!

 さっき、おっさんを殺した時に獣が使っていた魔銃エクセリオン。

 武器は使えないけど、一瞬なら取り出せる。その一瞬で引き金を引けば、エクセリオンなら攻撃出来る。

 正直なところ、コッチの世界で銃を振り回すのは色々思うところある……が、そんな事言ってる場合じゃねえし。

 追撃をかけようと向かってくるおっさんに向けて――――エクセリオンを抜く。


「む」


 さっき1度殺された武器だけあって警戒しているのか、急ブレーキをかける。その一瞬を逃さずトリガーを引く。……まあ、引いてるのは俺じゃなくて【仮想体】だが。

 しかし、銃口から放たれた光る魔力の弾丸は、大きく右に逸れて明後日の方向に飛んで行った。


「ミュっ」


 くっ。

 一瞬で出してトリガー引くって難しいんですけど!! 狙いつけてる暇なんてねえし、一瞬で撃たないとと思うと焦るし!

 【スナイパー】のスキルの効果で、相手から離れる程命中精度に補正が乗る。けど、それだって限界がある。っつか、4、5m程度の距離じゃ大して補正が乗らない!

 等と冷静に状況を考えている間に、エクセリオンは収集箱に強制的に戻されている。


「狙いが定まらんのか? それとも、何かの布石か?」


 前者だよ。

 全力で前者だよチキショウ。

 これじゃダメだ、もっと、何か――――。



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― 新着の感想 ―
[一言] そういや今更思ったんだけども 獣ってブラウンの戦い方否定してたような気するけど ブラウンの技『デッドエンドハート』使ってたから デッドの有効性は認めてんのかな
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