10-6 砂浜でやることと言えば
おっさんの釣った魚を食った俺達は――――結局焼き魚と煮込みの両方食った――――、再び海辺に戻って来た。
ただし、今度は港町から離れた砂浜に、だ。
町から結構離れているので、普通なら魔物に襲われるのを心配しなければならないのだが……俺もおっさんも魔王だしなぁ……。魔物が襲って来たら、そいつらの方がご愁傷様だし。
そもそも、【魔王】の特性を装備していると魔物がビビって近付いて来ないし。まあ、魔王を避けて通るのは、基本鼻の利く奴だけども。
その話はともかく――――何故に赤鬼と子猫が海辺を歩いているのかと言うと、
「(え? なんで、ちょっと良い感じの雰囲気の砂浜をおっさんと2人で散歩してんの?)」
俺も知らなかった。
いや、だって「ちょっと付き合え」と言われて、のこのこ着いて来ただけですし。
【仮想体】出してない状態で歩くとおっさんの歩幅に着いて行けないので、現在はおっさんの肩にチョコンと乗っけて貰っている。
視線が3mでクソ高い……。
あと、横向くと怖い顔がすぐ傍に在ってクソ怖い……。
「うむ。先程、我が釣りあげた魔物を殴っただろう?」
「(おっさんが?)」
「いや、お前が」
殴ったね。
魚かと思ったらワン●ンが釣れて、ツッコミ混じりに猫パンチ(極)を叩き込んだけども……それがどうしたと言うのか?
「その動きを見て思ったのだ。お前は、もう少し鍛えるべきではないのか、と」
「(鍛える……え!? 鍛えるの!? 俺を!?)」
慌てて立ち上がると、その勢いで肩からずり落ちそうになる。が、おっさんがそうなるのを分かっていたかのような絶妙なタイミングで大きな指で押し戻してくれる。
「うむ」
「(猫だぞ俺!?)」
「だが剣の勇者だろう」
「(そうかもだけど……そもそも勇者と魔王て敵同士じゃん!? 魔王が勇者鍛えるって、おかしくない!? 絶対おかしいよね!? 大体、闘技会勝ち抜いたら、俺おっさんと戦う事になるんですけどぉ!?)」
「敵は強い方が燃える――と、アビス殿に散々教え込まれたのでな」
あんのっ、クソ戦闘狂がぁああッ!! …………などとキレてみたが、俺にとっては願ったり叶ったりではなかろうか?
アビスとの戦いを考えれば、強さはどれだけあっても足りない。
そのアビスに戦い方を仕込まれたおっさんに鍛えて貰えるのなら、ありがたいじゃない。
そうだよ! そもそもおっさんからの決闘状を受けてこの国に来たのだって、アビス仕込みの格闘戦を体験して、対応出来るようにする為だった訳だし!
「ここら辺で良いだろう」
おっさんが俺を降ろす為に膝をついてくれる。
気を使って貰って申し訳ねえな。まあ、別に3mくらいの高さなら飛び下りても全然平気なんだけども。
ヒョイッと結構座り心地の良かったおっさんの肩から降りて地面に着地する。
砂が冷たい……。
そう言えば、砂浜を素足で歩くなんて真夏に海行った時くらいしかやった事ないから、冷たい砂浜って結構新鮮だな?
どうでも良い事に感動しつつ、おっさんと向き合う。
「(じゃあ、宜しくお願いします)」
ペコっと頭を下げる。
「うむ」
片膝をついた姿勢から正座に切り替えながらおっさんが続ける。
どうでも良いけど、砂に直で正座するって結構気持ち良いよね? なんつうか、シャリシャリした感触が。
俺もおっさんに合わせて“お座り”する。
「お前は体は小さいが、並みの魔族……いや、近接戦闘に特化した上級魔族を上回る程のパワーとスピードがある」
「ミュゥ」
うん。
自慢じゃないが、それくらいの強化はしてきた自負がある。
「恐らくだが、お前は武器や防具を操作する異能力を抜きにしても、魔王と相対出来るレベルの勇者だろう」
「(まあ、でも、魔王スキル振り回されたら、肉体1つで戦うのは無理でしょう)」
「そうだな。それにしても……魔王スキルなんて言葉をよく知っていたな? その名称は魔王同士でしか使わぬ故、人間達には伝わっていない筈なのだが……」
ああ、そうなの?
俺はスキルの詳細を瞼の裏のログで確認出来るから知ってるけど……そう言えば俺以外が「魔王スキル」って言葉を使ってた覚えがない。
「(猫だからな。人には聞こえない話も耳に入ってくるんだよ)」
「そう言うものか?」
「(そう言うもんだ)」
「ふむ……」
微妙に納得してなさそうなおっさんだが、そこまで気にする話ではなかったようで、頭を振って軽く流した。
「話を戻そう。お前の身体能力は非情に高い。猫としては元より、勇者として見ても今まで我が出会って来たどの勇者よりも上だろう」
闘技場で「歴代最強の勇者」とか言われた時も思ったけど……言う程嬉しくないんだよなぁ、その肩書……。
俺が勇者じゃないってのもそうだが、それ以上に現在の俺にすら勝てない勇者勢の事が心配になる。
そんなんで世界救えるのか? ってなる。
いや、実際に救えてないんだけどね? 10年前の戦争で全滅させられちゃったんだけどね勇者の方々?
現役勇者のアザリア達だって、俺に勝てるのは今のところいないし。……まあ、バルトは鍛えたら俺を上回るかも……ってくらいだ。
いや、いやいや、人の心配してる場合じゃねえ!
俺は俺で、アビスに狙われてる俺自身の心配をしろ!!
「だが、根本的にお前は自身の体を使った戦闘が苦手なのではないか?」
鋭い。
俺の基本戦術は【仮想体】を操って戦わせるか、【全は一、一は全】で大量の武器を使って物量で圧殺するか。どっちにしても、俺自身はそこまで動き回らないし、ましてや敵と直接殴り合うような事はない。
「阿修羅との戦いで見せた、大量の武器を同時に操作するのがお前の“本気”の戦い方なのだろうが、だからと言ってそれだけの身体能力を使わずに腐らせておくのは勿体ない」
「(うん。まあ、それは俺自身も思ってた)」
現状の戦い方でもそれなりのところまでは勝てると思うが、アビスとの再戦を視野に入れるとどう考えたって通用しない。
そうなると、猫自身の立ち回り方を変えざるを得ない……と言う訳です。
「それならば話は早い。まずは“受け”を覚えろ」
「(受けって防御? おっさんの性格なら『まず攻撃、むしろ全部攻撃』とか言い出すかと思ったのに……)」
「それは我ではなくアビス殿だ」
なるほど(超納得)。
「お前は半魔のように魔法も天術も使える上に、大量の武器を自在に操る能力も攻撃性能が非情に高い。だが、それに対してお前自身の防御や回避に対する意識が低いように思える」
意識が低い訳ではない……と思う。
ただ、【全は一、一は全】を使えるようになってからは、あの有り余る防御力と耐久力に物を言わせて、回避も防御も雑になっていたのは当たっている。
前は、1撃食らえば脆弱な子猫の体じゃ即死だと思って必死に避けていた攻撃も、今は多少無理矢理にでも攻めを優先して食らってしまっている。
「受けに対する意識が低いと言う事は、逆に言えばそれだけ攻撃意識が高いと言う事なので、それが一概に悪い……と言う訳ではない。だが、受けに回らざるを得ない状況は当然ある。そこを受けの技術で捌いて攻めに転じられるようになれば、戦術は大幅に広がる」
「(阿修羅と戦った時のおっさんみたいに?)」
「正しく」
確かに、阿修羅の7本腕での連続攻撃を、おっさんは左手1本で巧みに捌いてカウンターを叩き込んでいた。
流石にあれだけの技を一朝一夕でやるのは無理だが、その1歩目を教えて貰って損はない。
「故に、今から我が教えるのは――――柔法である」
「(銃砲……)」
「多分だが、お前が考えている物ではない」
うん。俺もそう思った。




