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10-1 続・変人に出会う

「勝者はぁああああッ!! 剣のッ、勇者ぁああああッ!! フォぉおオオッ!!」


 相変わらず声帯ブッ千切れそうなテンションの髭の司会の声が響き渡り、その声を押し返す勢いで観客席から歓声があがる。


「勇者様強ーい!」「こっち向いてー!」「その鎧いくらなら売ってくれますか!?」「勇者の御供って儲かりますか? 儲かるのでしたら1人枠空いてないでしょうか!?」「ウチのパン食べに来てくれぇ!!」「これで今日も酒が飲める!! 勇者、もう本当大好き!!」


 なんか……欲に(まみ)れた発言がいくつか聞こえる気がするが、とりあえずそんな方々はスルーして、声援を送ってくれた人達に手を上げて応える。

 すると、客席のあちこちで「きゃー」と黄色い声。

 うむ……ちょっとした芸能人気分ですな? まあ、芸能人ではないが、剣の勇者はコッチの世界じゃすっかり有名人ですし。

 まあ、とにかく――――本戦(トーナメント)1回戦突破!



 赤鬼(おっさん)と2人で戦場跡に散歩に出かけ、阿修羅をボコったり、岩男となんやかんやしたり、町に戻ると飯を肉にするか魚にするかで言い合ったり……まあ、色々あったあの日から2日が経った。

 あれからは特に変わった事も無いので、観光気分で町を歩いたり、珍しい掘り出し物のアイテム探したり、おっさんの所に飯を(たか)りに行ったりしてノンビリと小旅行気分で過ごした。

 で、今日。

 正午の鐘が鳴るなり闘技会の本戦が開始された。

 この2日の間に何とか出場枠は埋まったらしく、計16名で争う。

 んで、今日と明日で1回戦を行い8名になり、明後日の2回戦で4名、明々後日の準決勝で2名、で4日後の決勝で優勝者が決まる……と言う日程。

 そして今日の1回戦の初っ端の試合が俺だった。

 誰かが裏でトーナメント表を操作しているのか……はたまた運命のいたずらか? まあ、どっちでも良いけど。

 予選と同じく、剣を抜く事も、魔法や天術を使う事も無くサッとやってガっと殴って終わった。

 予選と違って1対1の勝負だから、横合いからの攻撃とか気にしなくて良い分、本戦は気分的に楽だ。

 まあ、相手の装備品を奪えるアンティルールを考えると身入りが少ないって事でも有るんだが……。実際1回戦の相手は碌な装備品持って無かったしね?

 そんな黒い話しはともかく――――スタジアムから離れながら、今後を考える。

 初っ端1回戦突破しちゃったから、2回戦の始まる明後日までは再びザ・暇人なのよね俺……。

 どうしよう……もうちょい観光気分で遊んでるか?

 色々考えながら廊下を歩いていると、目の前にやたらと目立つ巨大な鎧を身に付けたロールパン頭が立っていた。


「見事な戦いでしたわ剣の勇者!! さっ、すっ、がっ、(わたくし)のライバル!!」


 お上品に口元に手を当てて、高笑いしなさるロールパン。

 

「なんですの、その反応は? まさか、私を忘れたとでも言うのかしら? いいえ、有り得ませんわね!! この由緒あるヴィセール=トト・レゼンスの娘、シアレンス=レア・レゼンスを忘れる訳がありませんわ!! そうでしょう、ねえ?」

「その通りで御座いますお嬢様。しかし、レゼンス家から全てを奪った憎き魔王バグリースが居なくなったとて、未だ家名が取り戻された訳では御座いません。名乗るのは自重した方が宜しいかと」

「何を言うの(じい)! この闘技会はその為の一歩なのよ!? 賞金は元より、レゼンス家の名を知らしめる事で、家名は必然戻るもの……いいえ、取り戻すのです!」

「な、なんと! お嬢様……そこまで御考えの上で家名を名乗ってらっしゃったのですね……? 爺は……爺は、感動で前が見えません」


 なんか……凄い感動的なシーンっぽい雰囲気を出してるけど、傍目に見てる俺には「何してんだコイツ等……?」感の方が強いんですけど……。

 って言うか、この人等は会う度に「何してんだコイツ等……?」感が強くなるんでけど……何かヤバい呪いでも貰ってるんじゃなかろうか?

 そして、この2人にエンカウントすると俺のSAN値が凄い勢いでゴリゴリと削り取られて行く気がするのは俺の気のせいかしら? きっと気のせいだと信じよう……。


「失礼、話が逸れましたわ」


 ええ。それも壮大に逸れましたね。


「貴方も知っての通り、(わたくし)本戦(トーナメント)に進出しましたの」


 そう。

 そうなのである。

 このポンコ……お嬢様は、なんと俺と同様に予選を即行で片付けて本戦に上がって来やがったのである。

 船上では結構バカスカやられていたくせに……陸に上がると本気出すタイプか? もしくはただ単に船酔いしてただけとか……?

 まあ、ともかく、コイツが本戦に居るのは、何かの間違いなどではなくガチのガチだ。


「私の1回戦は明日ですが、先程の貴方の試合を見て確信いたしました! 剣の勇者、貴方を倒せるのは私だけだと!!」


 いや、それはねーよ(真顔)。

 ズビシっと【仮想体】を指差してくるロールパン頭に、異常なほど冷静なツッコミを心の中で返しておく。


「貴方が順当に勝ち進めば、準決勝で私と当たります。それまでは負ける事は許しませんわよ?」


 他人の心配より自分の心配した方が良いと思うの……。

 ぶっちゃけ俺は余裕ぶっこいてても優勝できる自信が御座いますし。

 予選の最中は色々考えていたが、一昨日のおっさんとの散歩の最中に色々話した結果、「おっさんとの戦いでは命のやり取りはしない」との取り決めが俺等の間で交された。

 魔王との戦いが待ってると思って予選は正直あんまり乗り気じゃなかったが、戦っても最低限の安全が保障されると言うのなら話は別!

 しかも、おっさんには既に俺が猫である事も、剣の勇者の正体が空っぽの鎧である事も知られてしまっているが、それも黙っていてくれる事になっているので尚の事気分が楽だ。

 そう言った事情から、むしろおっさんとの戦いに前向きになった俺は、現在その戦いを待ち望さえしているのである。

 と言う訳で、やる気倍増しで「負ける気がしねえ!」って事です。


「ふふ、分かりますわよ? 今、貴方の中で闘志が燃えているのが鎧越しでも伝わってきますわ。それ程にライバルたる私との戦いを貴方も望んでいるのなら、心配などするのは失礼にあたりますわ」


 ちゃうねん……燃えてるのは、まあ、燃えてるんだが……君とちゃうねん……。

 なんか、ごめんね?


「闘志に()てられて、私も燃えて来ましたわ……! 明日の私の試合を是非御覧なさい。そして、自身のライバルがどれ程の強者なのかを改めて目と心に刻みなさい」


 フッと不敵な笑みを浮かべると、御付きの爺さんを連れて闘技場から去って行く。

 御覧なさいって言われても……悪いけど特に観に行く気は無いんだが……。

 まあ、だからと言って明日の予定が決まってる訳でもねーんだけども。

 どうすっかな……。

 一旦大陸の南に帰るか? いや、でもアザリアの所に顔出したら絶対文句言われるよな? 面倒な事全部ぶん投げて押し付けて来ちゃったし……うん、やっぱりこう言う案件は後回しにしよう、面倒臭い。

 それに……アザリアの奴、(おれ)の事めったくそに猫可愛がりするから、フィジカル的にもメンタル的にもクソ疲れるんだよね……? あれ本当に止めて欲しいんだけど……どうにか止める流れに持ってけないかしら?

 いや、絶対無理だな。あの子は「俺を可愛がる事に命を賭けてる!」くらいの勢いだし……うん。

 やっぱり、コッチで無難に過ごそう。

 休みの日にわざわざ疲れに行く事もねえ。



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