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9-1 到着

「ミャアアアアアアアアッ!」


 ついったああああああああっ!

 ツ●ッターでは無い、「着いた」のだ。

 何処に着いたのかって?


 陸じゃボケぇええええええええッ!!!!


 おっと失礼。

 船生活が1カ月近く続いたせいで、ちょっとテンションがおかしくなってしまっていた。反省反省。

 ユラユラと波に揺られて1カ月、思えば遠くへ来たもんだ……っと。

 ここが、残り10人の魔王の内の1人、ギガース=レイド・Eの支配する国…………アルバス境国か……。

 ここは王都ではなくただの港町だと言うのに、無茶苦茶騒がしいな……?

 お祭り騒ぎかと思う程、この港町は活気に溢れていた。

 何より驚くべき事は、人と魔族が普通に共存している事だ。

 例えば大通りの露店の野菜売り。


「おい! この野菜高くないか!?」


 と、ゴリラのような、太くて長い腕を持つ魔族が店主に詰め寄っている。

 今までの町での経験で言えば、あんな風に魔族に詰め寄られれば、人間は「も、申し訳ありません」と土下座する勢いで謝り、ただで魔族に売り物を持って行かれる……のだが、この町では、この国では違った。


「ぁあん!? ウチの母ちゃんと御袋ちゃんがせっせと作った野菜だぞ!? 其処等の野菜と一緒にするんじゃねえやぃ!」

「いや、一緒だろ!? 一緒の土と水と種で作ってるじゃないか!!」

「馬鹿野郎! 野菜に賭ける情熱と愛情が違うっつーんだよ! ほれ、1個食ってみろ!」


 言うと、人間の店主は売り物のトマトのように見える野菜を1つ掴み、魔族にグイッと差し出す。

 その勢いに負けて、ゴリラの魔族が一口齧る。


「んッ……確かに、旨いなこの野菜……」

「だろう? この味が分かるってんなら、少しは安くしようじゃねえか」

「そうか、それは助かる」


 と、こんな感じのやり取りを当たり前のようにしている。

 その店だけではない。

 通りには、魔族と人が楽しそうに喋りながら歩いているし、酒場の外では昼間っからグデングデンになった酔っ払いの人間を、魔族が甲斐甲斐しく介抱していたりする。

 レティが「魔族と人間が共生している国だ」なんて言ってた時は、正直半信半疑だったけど……マジだったんだなぁ?

 魔族が人間を尊重してるってのは、恐らくこの国を支配している魔王のギガースが「そう言う風にしろ」って言ってるからだと思うけど……魔族に強制されてる感じは一切無い。少なくとも、この港町にはそう言った魔族はどこにも居ない。

 驚く……と同時に「凄ぇな」と、素直に感心してしまう。

 今まで俺の頭の中にあった、人間を見下して蔑む、横暴で暴力的な“魔族像”がガラガラと崩壊して行く。

 …………こんな国も、あるんだなぁ……。

 船場で町を眺めてボーっとしていると、いつの間にか魔族が目の前に立っていた。

 思わずビクッとする。

 ここまで近付かれるまで気付かないとは、どれだけ気が抜けてたんだ俺……。まあ、船旅終わって安心したのと、この国の在り方にビビったのでダブルパンチだったし、仕方ないって事で。

 で、目の前の魔族。

 虎のような……いや、ようなってか、もう虎じゃん? 完全に虎じゃん? 皮剥いだら、金持ちの家の床に敷けるくらい、ガチの虎じゃん?

 虎が二足歩行してるだけで、普通に虎じゃん? もう、魔族じゃなくて虎でよくね?

 そして虎も猫科なせいか、妙に親近感を覚えてしまう俺であった。


「剣の勇者殿ですか?」


 (おれ)自身は微動だにしなかったが、心の動揺で思わず【仮想体】の腕がピクンッと反応してしまう。

 いや、これだけ目立つ金鎧に、腰に旭日の剣ぶら提げてれば、誰だって俺が剣の勇者だって気付くだろう事は分かってたんだが、あまりにも落ち着いた声で言われたから動揺してしまった。

 魔族に「勇者」呼びされる時は、大抵怒鳴り声でブチキレられてるからなぁ……。

 なんつーの? 新感覚?

 いや、言ってる場合じゃねえよ。

 相手が敵意を見せていないのに、「魔族だから」と、コチラがいきなり攻撃をぶち込む訳にも行かない。

 友好的かどうかはともかく、落ち着いて会話をする相手にはちゃんと落ち着いた言葉と態度を返すのが大人の礼儀だ。

 魔族の問い掛けに、【仮想体】が無言で(当たり前だが)頷く。


「やはり! 『猫の使い魔を連れた、太陽の如き黄金を纏う騎士』と吟遊詩人が謳っていましたが、正しくその通りでした」


 何それ? 俺の歌とかあんの?

 聞きたいような、聞きたくないような……やっぱ恥ずかしいから聞きたくねえな。

 まあ、それはともかく――――何の用だ?


「我が魔王ギガース様の命により、剣の勇者殿が来るのをお待ちしておりました」


 え……出迎え?

 まあ、アッチの呼び出しで来たから、出迎えが居る事自体は別にええんやが……船で来るなんて伝えてねえけど? それに何時来るかも。

 って事は何か?

 何時(いつ)来るかも、そもそも船で来るかも分からない俺を、ここでずっと待ってたってか?

 ご苦労さんです。

 船場で人が待ってたって事は、もしかして俺が別のルートで来る事も予想して、そっちにも出迎え役が待ってるって事かな? だとしたら、無駄に待たせてゴメンなさいだな。まあ、別に俺が悪い訳じゃないけど……。


港町(ここ)に用事が無いようでしたら、早速ですが魔王様の元へ案内させて頂きます」


 え? そんなに早く?

 着いて早々に殺し合いに突入するのは勘弁して欲しいんですけど……。

 こちとら、魔王に関する情報収集してねえし、戦う為の準備もしてねえしで、色々足りてない。

 そんな俺の「戦う準備してねえよ……」な空気を察したのか、虎君がハハハっと笑いながら言う。


「ご心配なく、まずは魔王様がご挨拶をしたいと」


 あら、礼儀正しい。

 「挨拶」かと思ったら「会い殺」だったなんてオチじゃなければ、だが。

 どうしよう……。

 行くか、断るか、の選択肢。

 行くにしても、軽く準備してから――――いや、でも準備つっても、魔王の情報が格闘得意ってくらいしか無いしな……。対策の立てようが無い。

 じゃあ、断るか?

 心証悪くない? 魔王相手に気にする事じゃないかもしれないが、ここの魔王が友好的って可能性が無い訳じゃない。なんたって人と魔族の共生を成功させてる魔王な訳だし。

 もし本当に友好的で、今回会うのが本当に挨拶の為だとすると、それをスルーするのは、これから先の展開をバッドルートにしかねない……。

 いや、いやいやいや、でも俺がこの国に来た理由を思い出せ!

 ここの魔王に決闘状送りつけられたからだぞ? そんな魔王が友好的か? いや、ねえだろう……。

 俺がどうしようかと唸っていると、


「あの……もし、万が一にも魔王様との戦闘になるのでは、と警戒しているのでしたら、とりあえず魔王様がいらっしゃる首都ブルムヘイズに移動しませんか? アチラに着いても会うのが嫌だと言うのなら、その有無をお伝えして御手紙での挨拶にして下さるように私からお願いしますので」


 なんか、凄い気を使われたわ……。

 元の世界で営業として、取引相手に気を使っていた時の自分を見ているようで、凄く「ゴメンなさい」の気持ちが湧いて来る。

 

「ミュゥ……」


 ふぅ……。

 しゃーない、覚悟決めるか。

 どうせ魔王と戦う時は、毎回行き当たりばったりだしな?

 それに、戦うと決まった訳じゃない。魔王が友好的である可能性に賭けるって事で。

 もし、戦闘になったら……そん時はそん時だ。

 【仮想体】に頷かせる。


「良かった! では、馬車の手配をして来ますので、先に町の入り口に行っていて下さい。あ、勿論何か買い揃えたい物などが御有りでしたら、それからでも構いません。町の入り口は、この大通りを突き当りまで進んで右に折れた先です」


 礼儀正しく、キチッと頭を下げてから去って行く。

 デキる会社のデキる社員って感じだな……まあ、見かけは完全に虎だが……。

 魔王がそう言う風に躾けているのか、元々そうなのかは分からんが、好印象なのは間違いない。


 フゥッともう1度大きく息を吐く。

 辺りを見回せば、人も魔族も分け隔てなく、仲良く笑いあって、助けあっている光景。

 魔族と人間が共生する国……アルバス境国、か。

 こんな国を作った魔王とは、出来れば戦いたくねえなぁ……なんて事を思いながら、町へ歩き出した。



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