9-2 この国の話
馬車に揺られてパカポコパカポコ。
船に続いて、今度は馬車かぁ……。
徒歩でゼェゼェ言いながら、魔王の元へと走っていたのが懐かしく感じるな。
虎君の手配してくれた馬車は、とてもではないが豪華とは言えない。
皮張りの荷台で、板張りの床に直に座っている。
ぶっちゃけ、乗り心地はクソ悪い。人間の体で乗っていたら、間違いなくゲロ吐いてたくらいに悪い。
……はぁ、なんか、旭日の剣とオリハルコンの鎧一式を貰った(盗んだ)時の事を思い出してしまう。まあ、あの時は逃げる方法考えるのに一杯一杯で、馬車の旅を楽しむ余裕なんて無かったけど。
馬車と言えば、レティと会った時に乗ってた馬車は豪華だったなぁ。あの時のレティは子豚だったけど、流石元王族。
この国の支配者である魔王に呼び出されて来たんだし、もうちょいVIP対応でも良いんじゃない? とも思うのだが……まあ、アッチは来るかも分からん俺を船場で待ってた訳で、そこにわざわざ専用の馬車を用意しておくってのもアレな話しだし……文句を言ってはいかんな。
等と、どうでも良い事を考えながら、無駄口1つ言わない御者越しに前を見る。
街道の先に、大きな町が見えた。
かなり大きい……が、魔王が住んでいるっぽい雰囲気が無い。何故って、魔王と言えばお決まりのように、どいつもコイツも阿呆のように大きな城やら塔やらを住処にしている。
だが、遠目には町にそれらしい物が無い。
しかし――――その代わり、町のど真ん中には円形の巨大な……なんじゃありゃ?
まるでそんな俺の疑問が伝わったかのように、向かいに正座していた虎君が説明してくれた。
「見えてきましたね? あれが首都ブルムヘイズです。町の真ん中にあるのは、闘技場なんですよ。立派でしょう? 我が国のシンボルですからね!」
闘技場……ね。
なるほど、確かに言われてみれば、歴史の教科書で見たローマのコロッセウムと雰囲気が似ている。
でも、闘技場と言うと、アレでしょ?
罪人同士を戦わせて、血がブッシャーってなるのを、周りで観客達がワーワー言いながら見ているってアレでしょ? 正直、あんまり良い趣味の物とは思えんなぁ。
まあ、だからって、他人様の国がやってる事に、横から口出しする気はないけど。
「闘技場と聞くと野蛮に思えるでしょうが、この国には必要なんですよ?」
この虎君は、本当に俺の思考が読めてるんじゃないかと思うくらいに、俺の頭の中を察して来るな……。
「このアルバス境国では、暴力に対して重い罰を科しています。あっ、勿論自己防衛や、やむを得ない状況の事でなら仕方ないですが、それ以外での暴力を基本的には禁止しています。ただ、そんなルールの中でも血の気の多い奴はいるもので……恥ずかしながら、特に魔族には」
まあ、でしょうね。
今まで見て来た魔族連中は「暴力こそ正義!」みたいなのばっかりだったし。この国の平和主義っぽい魔族の方が異常なのは、どう考えても疑う余地は無い。
「あの闘技場は、そんな連中のガス抜きの為の施設って訳です。『暴力振るいたいなら、闘技場で振るって来い』って訳ですね」
なるほど。
全面暴力禁止にすれば、流石に魔族連中の反発も凄かっただろうが、ああしてそういう連中の為の用意がされているのであれば、文句を言う奴も少なかろう。
それに、闘技場には当然戦いたい奴が集まって戦う訳で、戦いや暴力を好まない一般人が無用に巻き込まれるって心配もない。
んー……こうして考えてみると、闘技場もそう悪くない物に思えて来るな?
「それに何より、強い者が偉いのは人も魔族も共通ルールですからね? 闘技場で結果を残せば、魔族は魔王様から名前を賜れる可能性がありますし、人間は結構な地位を用意して貰えるって話ですよ?」
へぇ。
魔族だけじゃなく、人間の戦士にもちゃんと評価がされるのか。
流石、人と魔族の共生国。変に贔屓とかは無いんだな。
「まあ、中には、闘技場の覇者である魔王様に挑戦したいが為に戦ってる者達も居るらしいですがね?」
マジで!? 魔王が闘技場のチャンピオンなの!?
誰も勝てねえだろ、それ!?
「魔王様は、当然ですが1度も負けた事は無いですし、まともに傷を負った事もないんじゃないかなぁ?」
ですよね!? だと思った!
魔王に勝てる奴がいたら、そいつが代わりに魔王をやるべきだし! 若しくは勇者をやるべきだし!
続いて、虎君は闘技場の上の方を指差す。
空。
闘技場の真上の空に、何か浮いていた。
目測だが、上空50mってところかな? ビルの高さで言えば20階建てくらい。かなり高いな……。
大きくて……ゴツゴツした……岩の塊? いや、でも上の方はツルっとしてるっぽいかな? 岩ってか、抉りだされた大地が浮いてるって感じか?
空に浮かぶ大地の大きさは、多分400mくらいか? ちょい大きめの運動場ってところかね?
「あれが、チャンピオン……つまり魔王様との戦いの時にのみ上がる事の許される、戦いの舞台。天空闘技場です」
おお、恰好良いな! なんか、「決戦の舞台」って感じで。
いや、恰好良いのは大いに結構なんだが、なんであんな大きな土と岩の塊が空を飛んでるの?
そんな疑問も、無自覚に俺の考えを察する虎君は答えてくれた。
「なんでも、天空闘技場は元々浮遊大陸の一部だったらしいですよ?」
浮遊大陸?
何それ? ラピュ●? バル●すんのバ●ス?
「あ、ご存じかも知れませんが、浮遊大陸と言うのは文字通り、空に浮かぶ大陸なんですよ。なんでも、不思議な“浮遊する岩盤”の力で飛んでいるらしくて、一定周期で同じルートをグルグル回ってるんです。半年に1度くらいこの国の上も通り過ぎて、その時期に合わせてお祭りしたりしてるので、この国の者達は幸運と豊穣の象徴みたいに思ってるみたいですよ?」
ほうほう。
しかし、空に浮かぶ大陸なんて、色々浪漫があるなぁ。
まさに異世界! まさに大冒険! 襲い来る数々の罠! 最奥に眠るお宝! みたいな。
この件が一段落したら、その浮遊大陸とやらを探して乗り込んでみるのも面白いかもなぁ? 普通の人じゃ行けない空の大陸なんて、凄いアイテムが期待できそうだしね?
「でも、間違っても浮遊大陸に行こうなんて考えてはダメですよ?」
は? なんで?
そんな面白そうな場所に行かない理由が無いじゃろうが!
「浮遊大陸は、10年前から魔王ゴルド=G・ブラッドオーバー様の支配地ですから、無暗に立ち入れば、その怒りを買う事になります」
また魔王か……。
どこもかしこも魔王だらけだな? まあ、この世界は魔王に支配されてんだから当たり前っちゃ当たり前だが、まさか空の上まで支配されてるとね……。
浮遊大陸を冒険するには、そのゴールドだかコールドだかの魔王と話しつけなきゃいかんってか? まあ、話しつけるっても、どうせ最終的には殺し合いで決着付けるんだろうけども。
先の事より、まずは目先の事――――とは思うが、目の前の問題を片付けた先に次の目標やら楽しみやらがあった方が、気合入るし、テンション上がるしな。
っつー訳で、まずは目先の魔王の事だ。
俺に会いたいってのが、本当に挨拶の為か、俺を自分の懐に引っ張り込む為の方便か……。
「さあ、もうすぐ着きますよ」
虎君の言葉に【仮想体】が頷き、猫は気を引き締める。
どっちにしろ「決闘状」の呼び出しに応じてこの国に足を踏み入れた以上、国の支配者たる魔王との戦いは避けられない。
「ミャァ……」
小さく息を吐いて、心を硬くする。
「おや? 猫君は馬車に乗っていて疲れてしまったかな?」
優しく言って来る虎君に、心の中で「そうね」と返しておいた。




