8-29 グッドラック
船の残骸が海中へと沈んで行く。
船首が立ち上がるように、その頭を天に向け、海の中から手を引かれ、ユックリと沈む。
ああ、昔観た映画でこんなシーンあったなぁ……タイ●ニック懐かしい……。
どうでも良い事を考えながら、海面すれすれの所に【空中機動】で見えない足場を作り、トコトコと没する船の元へ戻る。
にしても、我ながら、気持ちの良い程木端微塵にしたな……? 【魔王】の特性から来る破壊衝動も、この光景に満足したのか、ピタリと大人しくなってるし。
さてさて、骸骨船長はどこかな、っと。
別に、ちゃんと倒せたかどうか不安だから死体を確認したい、と言う訳ではない。って言うか、奴さん元々肉体的にはとっくに死んでるし。
用があるのは骸骨船長自身ではなく、野郎の装備していた諸々のアイテムだ。
特に――――あの銃はコレクターとしてではなく、銃のある異世界から来た者として大変興味がある。
まあ、興味云々もそうだが、あんなオーパーツを野放しにしておくのも気分が悪い。
だって、恐らく、あの銃は“俺等側”の誰かが作った物である可能性が高いから……。
銃のジの字さえ無いコッチの世界で、あそこまで完璧な形のクイーン・アン・ピストルを作れる訳が無い。って事は、銃の存在を知っている異世界人が作ったって考える方が自然だ。
あの八咫烏は、恐らく俺と同じで中身は異世界人……だと思う。俺等2人だけが特別って訳はないだろうし、他にもコッチの世界に異世界人が紛れ込んで居る可能性は十分有り得る。そして、その内の誰かが銃を作った……と。
そうなると、やっぱ同じ異世界人として、責任感的な物を感じますやん?
あの銃がどこかの誰かに拾われて、何かのはずみで火薬と銃弾を使う本物の銃を作ってしまう可能性だって有る訳だし…………まあ、そんなの宝くじ1等当てるより低い確立だと思うけども。それでも、そう言うヤバい可能性が有るのは確かだ。
っつー訳で、ここで回収できるならしてしまおうって訳よ。
アクティブセンサーで位置を確認。
お、居た。
少し大きめの船の残骸の上で、骸骨船長が横たわっていた。
しかし、帽子とコートは何処かに吹き飛んだのか、それとも爆発の衝撃で消し飛んだのか、まっ裸だった。まあ、骸骨が服着てる方が不自然だったと言えば、そら、そうなんだが……。
ストンッと、俺も残骸の上に着地。
近付いてみて分かったが、骸骨船長自身も相当ガタガタになっていた。
所々骨が圧し折れ、炭化した部位もある。
髑髏は特に酷く、半分に割れ、辛うじて顎と右目の部位を識別出来る程度。
しかし、幸運にも銃は手放さなかったようで、右手に持ったままだった。ついでに、バングルとアミュレットも……あ、でも両方共ひびが入って宝石も欠けてる……まあ、いっか。収集箱に放り込んで【自己修復】かけとけば直るし。
にしても、骨も装備品も再生されてねえな? やっぱり、俺の読み通り、帽子かコートが再生能力持ってたのか……だとすると、吹っ飛んだのか消し飛んだのか、どっちにしろ消失してしまったのは痛いな……。
まあ、無い物は無いんだから仕方ねえわな。
さてと、おっ死んだなら、もう物理透過が無くなって触れられるかな? いや、だから、おっ死んだって元々死んでるんだけどね?
銃に触れようとした途端、
―――― 突然骨の腕が動き、俺をガっと握りしめた。
「ミャァっ!」
うぉぁっ!
ビックリした! お前、まだ生きてるのかい! いや、だから元々死……ああ、もう良いかそれは。
堅い骨の手が、俺の体を握る。
だが、力が入ってない。……違うな? 力が入ってないんじゃなくて、力がもう無いのか。
「――――随分、小サい……ナ?――――」
俺の小ささを確かめるように、弱々しく骨の手を握ったり開いたり。
どうやら攻撃の意思も、その為の力も無さそうなので、俺もされるがままにしておく。
「――――冥府カラの使イか……。ようヤく、向かエが、来テくレタノか――――」
残念ながら、冥府なんて物騒な場所から斡旋された人じゃないです。
ただの通りすがりの猫ですが何か?
「――――猫ガ、冥王ノ使い魔ト聞イた事ハあッタが……まさカ、本当ダッたトハ――――」
え……? 何? コッチの世界だと、猫ってそんな扱いなの?
……いや、今までそんな扱いした奴と会った事ねえし、アンタの聞いた話ってガセネタじゃない?
そもそも、なんで猫が冥王とやらの使い魔よ? 世界中使い魔だらけって事になるやん? そこら中で冥王ハーデ●十●宮編が始まってしまうやん? 心の小宇●が燃えるやん?
「――――あア……アベル、レーブ、ログナ、クリス、ビリー……皆……ようやク、オ前達ノとコロに……――――」
俺を握っていた手から力が抜け、コトンッと硬い音をたてて残骸の床板に落ちる。
「――――奴ヲ……倒せナカっタ事ダケが、心……残……リ……スマなイ…………み、ん……な――――」
今まで普通の肉体と同じように繋がっていた骨が、繋いでいた糸を切られたようにバラバラと別れ、力無く転がった骨達は波の揺らぎに誘われて、次々に海へと落ちて行く。
最後に残った、頭半分無くなった骸骨。
コロンっと転がり、俺の前脚にコツンッと当たってから、先に落ちて行った骨を追いかけるように、海へ没した。
俺の足元には、骸骨船長が置き土産のように落としていった、装備品だけが残った。
……アイツ、最後に謝ってたな……?
骸骨船長が、どうして幽霊船と共に彷徨っていたのか? 過去に何があったのか? どれだけの時間を彷徨っていたのか?
俺は、それを知らない。
けど、これだけは分かる。
何かしらの意思を持って、何かを成そうとしていた。
それは、自身の為では無く――――最後に謝っていた誰かの為の“何か”。
本人が海に没して、共をしていた船も粉々になった今となっては、それが何だったのかを知る事は出来ないが…………まあ、少しだけ推測する事は出来る。
幽霊船が現れるのは、魔族の乗った船。そして、骸骨船長自身が魔族を侮蔑するような事を口走っていた。
その事から、アイツの目的は魔族への復讐……そんなところか?
謝っていたのは、復讐の発端になった魔族と因縁のある人……若しくは、“人達”にって感じだろうな?
まあ、だからと言って、あの骸骨に対して同情する訳じゃないけど……黙祷くらいは、しても罰は当たらんだろう。
目を閉じて、暫く波の音に耳を澄ます。
「(良い死出の旅を、船長)」
フゥっと一息吐いてから、骸骨船長の置き土産を貰う。
『【断魔の守護 Lv.111】
カテゴリー:装飾品
サイズ:小
レアリティ:A
所持数:1/20
魔法耐性(強)・天術耐性(強)・魔力攻撃耐性(強)を付与』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:中)』
『【魂護のバングル Lv.52】
カテゴリー:装飾品
サイズ:小
レアリティ:B
所持数:1/20
浄化無効を付与』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
アンタがどこの魔族に復讐したかったのかは知らないけど、もしかしたら、俺の行く先でそいつに出会う事もあるかもしれない。
アンタの代わりに、その因縁を引き受ける――――なんて言うつもりは微塵も無い。
ただ、俺が魔族にエンカウントすれば、必然そいつはブッ倒す対象になる。だから、もしその時が来たら、勝手にそれを見届ければ良い。
その為に、アンタの愛銃を貰ってくよ。
『【魔銃エクセリオン Lv.122】
カテゴリー:武器
サイズ:小
レアリティ:★★
所持数:1/1』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:大)』
魔銃……。
魔剣とかと同じ類の肩書かしら? それとも、ただ単に魔力を撃つ銃だからって意味なのか……まあ、どっちでも良いか。
ん? まだ、ログが流れてる?
『条件≪210種類のアイテムをコレクトする≫を満たした為、以下のうちから1つボーナスを選ぶ事ができます。
・肉体能力強化(効果:極)
・マスタースキル【 】の枷を1つ外す
・新しいスキルを取得する(ただしランダム)』
おっとぉ、久々の選べるボーナス。
あ、肉体能力強化が(大)から(極)に変わってる……地味にボーナス内容がパワーアップしてるのか。
スキルガチャは毎度の事として…………真ん中の奴は何だ?
マスタースキル【 】は、俺の言うところの【収集家】の事だと思われる。その枷を外すってなんだ?
何かしらの能力制限を受けてて、それを1つ外すって事かな?
…………なんだろう? 漠然とした、だが、確かな――――危険な予感。
八咫烏の言っていた【収集家】の本当の名前云々の事があるから、多分、これが“本当の名前”に近付く為の物のような気がするが……うーん、一旦保留。




