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猫だってアイテムを収集すれば最強になれます!(旧題:猫だってアイテムを収集すれば最強になれます)  作者: 川崎AG
8章 幽霊ですか? いいえ、ただの船旅……えぇぇ幽霊船!?
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8-9 勇者達のアレコレ

 戻って来ましたグラムエンド。まあ、街中じゃなくて街の外の近くの木陰だけども。

 ………なんか、今日はあっちゃこっちゃ行ったり来たりだな……。

 戻って来るのにも転移使ったから、地味に疲れた……。【全は一、一は全(レギオン)】噛ませて消費100分の1にしてるから、まだまだ余裕があるけども、流石に転移をバカスカ使うと疲れる。

 今度移動する時は転移門(ゲート)使って移動しよ………。

 ん? 待てよ?

 転移門って、確か【転移魔法(テレポート)】と違って、行った事ない場所でも飛べたよな? コレ使ったら、レティの言ってた“なんとか山脈”飛び越せたりしねぇかな?


「師匠、街、行く、ない、ですか?」

「(ん~、ちょっと試したい事があるから、ちっと待って)」

「はい。待つ、です」


 御散歩に行くのを待つ子犬のように、待つ姿勢になるバルトを横目に、目を閉じて収集箱(コレクトボックス)のリストを開く。

 はい、どこ●もドアー。

 青い狸の真似をしてから転移門を出す。

 ドンッと突然現れた扉に、一瞬バルトがビクッとする。

 ビビんなっつうの。いきなり武器が現れるのに比べれば扉が出るくらいなんだ。

 で、えっと……場所を選ぶところで、山脈の向こう側―――表示されている地図をスクロールさせる事が出来ない。

 山脈の向こう側には転移じゃ行けない……のか? いや、ただ単に転移門の移動範囲外ってだけの可能性もあるか。

 どっちにしろ、転移門での山越えは無理そうだな?

 世の中、そう簡単に楽はさせて貰えねえやね。

 転移門を収集箱に戻す。


「(すまん、もう良いや)」


 バルトの肩の上にヒョイヒョイとジャンプして戻る。

 しかし、バルトはそこから動こうとはしない。


「あの……師匠?」

「(何? その微妙そうな顔は……?)」

「師匠……と、言うか、剣の勇者様、居る、方が、良い、ない、ですか?」


 黄金の鎧を出しとけってか?

 いや、別に今は要らんだろ。


「(え? なんで? 邪魔じゃん?)」


 自分のもう1つの体に対してだから、結構容赦ない俺。

 まあ、でも、邪魔な物は邪魔なんだから仕方ない。


「でも、剣の勇者様、皆、とても、心配、する、ました」

「(ああ、そう言う話?)」


 アザリア達には、腹に風穴開けた黄金の鎧―――剣の勇者の姿を見せて、そのまま後始末押し付けてドロンしてしまったからなぁ。

 「皆がそれで心配してるから、剣の勇者の無事な姿を見せてやった方が良いんじゃないか?」って提案してる訳ですよ、ウチのお弟子さんは。

 言われてみりゃぁ、そら、そうだわな? 心配かけっ放しで放置するのも目覚めが悪いし、後でバルトの口から「無事でしたよ」って報告させるのも、それはそれで、なんかアザリア達に失礼な感じだし。

 だったら、港の場所を聞きに行くついでに、無事な姿を見せてやった方が良いだろう。……ついでにアザリアに(おれ)がニャンニャン言わされそうな気がするけど……そこは、目を瞑ろう。


「(まあ、お前の言う事はもっとも。それなら出して行くか)」


 収集箱から鎧一式を出して、創り出した【仮想体】に着せる。

 はぁ……また熱せられた鉄板の如き鎧に乗らなアカンのか……。

 渋々バルトの肩から【仮想体】の肩に跳び移る。

 出したばかりなのに、直射日光を浴びたせいで既に微かに、じんわりと鎧が熱を持っている。


「師匠、の、無事、姿、皆、見せる、あげる、ましょう!」

「(そうね……)」


 皆が喜ぶ姿を想像したのか、心底嬉しそうなバルトと、対照的に鎧に乗ってテンション駄々下がりの俺。

 軽い足取りのバルトに連れられるようにグラムエンドの街に入る。

 やたらと目立つ金鎧。

 住人達の視線が痛い。

 だが、前のような嫌悪感の混じった視線じゃないのが救いかな? 悪魔の一件で、勇者の評判はちゃんと上がってるようで、好意的な視線が結構多い。

 まあ、でも、やっぱり期待とか尊敬の混じった視線には慣れないけども。

 5分程歩いて、アザリア達が泊っている宿に到着。

 宿のランクとしては、ギリギリ中級ってところかなぁ? 勇者なんだから、もうちょい良い場所泊まれば良いのに……。とか思いながらバルトと共に戸を潜る。

 宿屋に入ると、受付で女将と話している見慣れた人達がいた。


「剣の勇者」「槍の勇者」


 双子だった。

 さっき教会で会ったけど、俺等が網走教会行ってる間に、コッチに移動して来たのか。


「また、お会い、した、ですね」


 バルトが律義にペコっと双子にお辞儀をする。俺も元社会人として、バルトに続いて【仮想体】に会釈をさせる。

 双子もやたら丁寧な動作でペコっと頭を下げて返して来る。


「他の勇者達に」「謝罪と」「改めて挨拶を」「しに来ました」

「挨拶、ですか?」

「はい」「私達も」「許されるのなら」「勇者として」「戦いたい」


 ええんちゃう?

 双子が勇者一行の仲間になる事について、俺は特に思う事はない。敵対していたアザリア達としては色々あるかもしれないが、俺としては「双子も勇者なんだから、一行に加わるのは自然じゃん?」くらいしか思う事はない。

 いや、だって、別に俺は勇者一行と行動共にする事もねえし……。なんつうか、言い方はアレだが「ま、適当に頑張れ」って感じです。

 俺が他人事のように話を聞いていると、双子がジッと俺―――ってか【仮想体】を見ている事に気付く。

 何さ?


「ミ?」

「剣の勇者」「貴方は」「私達が」「「護ります」」


 いえ、結構です。そう言うのは間に合ってます。

 街中で宗教勧誘にあった時とまったく同じ返しを心の中でする。


「貴方は世界の守り手」「貴方は世界の救い手」「決して失われてはいけない存在」「決して死なせてはいけない存在」「だから」「私達が」「貴方を護る」「盾となり剣となる」


 ……いや、そんな決意に満ちた視線を向けられても困るんだが……。

 俺を護るたって、基本単独行動するから、護るもへったくれもねえし。そもそも強敵と戦う時に近くに居られると色んな意味で邪魔だし……。主に正体を知られる、って意味で。


「師匠、護る、僕、役目、です!!」


 ウチの子犬が無駄に張り合っている。

 いや、ここは張り合うところじゃねえだろ……。


「(……どうでも良いから、さっさとアザリア達のところ行こうぜ……)」


 元の世界で鍛えられたスルー力で、話をぶった切って階段に向かう。

 俺としては、誰にも護られる気は無いから、そんな話はするだけ無駄だっつうの。俺を護ると言うのなら、少なくても魔王相手にタイマンで勝てるくらいに強くなってからにしてくれ。

 無駄にライバル心を燃やして睨み合う双子と弟子を連れて階段を上がると、アザリアの部屋の前で腹パン族……じゃない、シルフさんが居た。


「お、剣の勇者だ。やっぱり無事だったじゃないか、お前程しぶとい奴が、そう簡単に死ぬ訳無いって言ってるのに、杖の奴がやたらと心配してたぞ」


 そうか、やっぱりアザリアの奴は心配させてたか………っつか、オメェはもう少し心配しろっつうの。いや、別に心配されたい訳じゃねえけども。

 俺が若干反省していると、俺の横を風のようにすり抜けて飛び出したバルトが、本調子ではないのが嘘のような鋭い踏み込みから、シルフさんに向かって……


 全力の腹パン!


 ドゴンッと中々良い感じの打撃音と共に、シルフさんが乳を揺らしながら吹っ飛ぶ。


「フゲブッ―――!?」


 ナイス腹パン。

 【仮想体】がグッとサムズアップする。


「これで、腹パン族、今日も、元気、です!」


 俺にサムズアップを返しながら、最高に「良い事した!」な笑顔を向けて来るバルト。

 いきなりの出来事に、後ろで双子が同じ角度で首を傾げながら、目をパチパチさせている。


「何故」「短剣の勇者を」「殴ったのですか?」

「彼女、腹パン族、だから、です!」

「腹パン」「族ですか?」

「腹パン族、言う、のは、1日に1度――――」


 バルトが懇切丁寧に腹パン族に対して説明をしだして、それをやたらと真剣な顔で聞く双子。

 ……なんか、話が広がっとる……。

 そしてシルフさんゴメン。もしかしたら、双子からも腹パンされるかもしれない毎日になるかも。

 廊下で打ち上げられた魚みたいになっている短剣の勇者を見ながら、ちょっとだけ現実から目を逸らしたくなった俺だった。



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