8-2 届いた手紙
3日前―――。
ベリアルをブッ転がした俺は、ツヴァルグ王国のレティの所に帰って来た。
そんな俺を待っていたのが……
「(魔王からの決闘状……?)」
思わず問い返した俺に、レティが「だから、そう言ってんじゃん?」的な感じで、元気よく「はい」と頷く。
「(マジで?)」
「マジです」
「(デジマッスか?)」
「出島? はい、そうです……?」
今この子、良く分かんないのに適当に頷いたな……。いや、俺が無茶ぶりしたからだけどもさ。
にしても、魔王からの挑戦状?
そんな物を貰う理由は………むっさたくさん有るな……。
俺―――と言うか、剣の勇者が、今までアドバンス、ガジェット、バグの3人の魔王を“食った”事は、その後継ぎが出て来ない事から、恐らくバレている。
って事は、この決闘状を送りつけて来た魔王は、その仇討ちに挑んで来ようとしてるって事かな?
いや、でも、魔王って、基本戦闘狂じゃん? 「周りの事なんざ知った事か!?」な自己中共の集合体じゃん?
そんな奴が仇討ちなんて、真っ当な事するか?
………絶対しない気がする。
とすると、決闘状ぶん投げて来たのは、単純に俺と戦いたかったからか?
つってもなぁ……手紙寄越したのが魔王だぜ? 基本的に悪の帝王よ、魔王って? 決闘状に招かれて、ノコノコ出て行くじゃない? すると「ふははははっ、かかったな勇者め!!」なんて展開が目に見えてんじゃん?
つまり、決闘状なんてスルー推奨って事よ。
「(一応伝えてはみるけどさ? 剣の勇者は行かないと思うよ?)」
「え? どうしてです? 勇者様ですよ? 魔王討伐するんですよ?」
いや、別に望んでやってる訳じゃないけどね、コッチは?
アビスと戦える力を得る為の、最短の道だから魔王転がしてるってだけで。
まあ、若干……若干ね? 強くなるのが楽しいとか、その強さを、もっと強い奴にぶち込んでみたいとか、そう言う気持ちが無い訳じゃねえけどもさ。
「(だって、魔王からの呼び出しなんて、どう考えたって罠じゃん。俺は……剣の勇者は、危険だと分かってる所に突っ込む程バカじゃねえよ………多分)」
自分はバカじゃない、と信じたいが……。
今までの自分の行動を省みると、確かに危険地帯に突っ込んで行ってるんだよなぁ……俺。
………もしかして、俺って自覚が無いだけで、結構バカなのか……?
止めよう。
ヤメヤメ!! 馬鹿の話題禁止!
考えると、若干死にたい気分になって来るから!!
「でも、『罠は有りません』って書いてありますよ?」
「(は?)」
言われて決闘状らしい紙を覗き込む。
だから、読めねえっつうの……。
「(………レティ、書いてあるところ読んで……)」
「良いですよ」
言うと、細くて白い指で、読むところを指差す。
「『尚、決闘を受けて下さる時には、我が国までご足労願う。その際、我が国からの攻撃、妨害などの行為の一切を禁じる事をここに誓う』って書いてありあるんです」
誓うって、何に誓ったんだろう……。
いやぁ、そう書かれているからって「じゃあ安心だな!」とは、なりませんよね? むしろ「嘘だバァカ!」と攻撃して来る予感がビンビンである。
「心配しなくても、大丈夫だと思うんです?」
俺の心の中の不安を見透かしたように、レティが俺を軽く撫でながら言う。
ああ、ヤバい……。この子、俺を撫でる事に慣れて来て、撫でる手がむっさ気持ち良い。
………少女に撫でられて気持ち良くなってる俺は、色々な方面からド変態扱いされるかもしれない……。
まあ、それはともかく。
「(その根拠は?)」
「この手紙を出したのはギガース=レイド・E様なんです」
それが、魔王の名前か。
強そうな名前してんなぁ……俺も“ブラウン”から改名できねえかしら? いや、別に嫌な訳じゃないけど、なんつーの? 恰好良さが足りないっつうの? アレだよアレ。この名前って単純な感じじゃん? 日本的に言えば「ポチ」とか「タマ」と同レベルじゃん?
まあ、だからと言って「田吾作」とか名付けられたら、それはそれで泣くけど。
「(ふんふん、そいで?)」
「ギガース様が治める国はアルバス境国なんですよ」
「(その国に何かあんの?)」
「何か有る……と言うより、この国だけなんです」
「(何が?)」
「魔族と人間の共生に成功していると言われているのが、です」
「(魔族と人間が共生!?)」
共生って、強制じゃないよね?
強制的に共生してますって、ギャグか! 低レベルなギャグか!?
いや、でも、そんな事が可能なのか?
だって、魔族は人間を下等な存在と思っていて、10年前の戦争で人間が負けてからは、ずっと人間を奴隷扱いしてきたんじゃないの?
人間の方だって、魔族に対しての憎しみや恐怖心は、そう簡単に消える物じゃない。
それなのに………共生?
お互いを尊重し合って生きているってか? マジで?
でも―――でも、本当にそんな事が出来ているとしたら……それは夢のような世界じゃねえかな?
「(マジで?)」
「マジです」
「(デジマで?)」
「出島です」
……この子やっぱりデジマの意味は分からんで返してるな……まあ、良いけど。
「国の支配者たる魔王ギガース様は、魔王とは思えない程清廉潔白な方だと聞きますし」
清廉潔白とな……?
随分と魔王に似つかわしくない言葉が飛び出したもんだ。
だが、まあ、事実はどうだか知らないが、そう言う噂がお姫様のレティのところまで届く程度には、信用出来る相手って事か。
………魔族と人間が共生する国の魔王、か……。少し、興味が出て来た。
ギガース=レイド・E。
魔王の名前の中にあるアルファベットは、その魔王の古さを示す物だって爺ちゃん先生言ってたよな?
A、B、C、D、E……5番目に古い魔王。
前に戦ったバグの野郎はH……8番目。
魔王は生きていた時間がそのまま戦闘力に直結するから、魔王の中で5番目に強いって事で、多分間違いない。
次の相手としては申し分ないレベルだと思う。
「(他にも、その魔王に関する噂話とか無い?)」
行くか、行かないかは別として、相手の情報は少しでも得ていて損は無い。
「えっと、なんでも、アビス様が居なかったら、ギガース様が肉弾戦最強になっていただろうって」
肉弾戦……って事は、アビスと同じく肉体能力に物を言わせてくるタイプって事かな?
その情報は、正直俺にとっては凶報だな……。
肉弾戦は、正直俺が1番苦手とする戦いだ。
武器を使う相手なら、収奪で武器を奪う事で、相手の戦力を削ぎつつ隙を突ける。
魔法が得意な相手なら、【全は一、一は全】の超防御力と魔法を無効化出来る【魔滅の盾】を上手い事使えば崩せる。
だが―――肉弾戦はダメだ。
己の拳のみで、パワーとスピードに物を言わせてガンガン突っ込んで来る相手は、捌き辛いし、受けに回ればタコ殴りだ。距離を詰められれば、俺が得意とする物量戦術も使い方が限られるしね……。
だが、考え方によっては、これは良いチャンスではないだろうか?
俺の最終目標は、アビスを倒して平穏な生活を送る事。
って事は、アビスとの対峙は絶対に回避出来ない。そして、アビスの奴が得意とするのは、正しく肉弾戦だ。
どこかで、肉弾戦の“苦手”を克服しておく必要がある。
その相手としても、克服するタイミングとしても、これは良いんじゃないかな? 仮に、このギガだかメガだが言う魔王を倒せたとすれば、俺とアビスの間には3人の魔王しか居なくなる。
そろそろ……野郎との戦いも、視野に入れて行かねえとな?
「あっ、もう1つ有りました!」
「(何?)」
「弟子、です」
「(弟子? 誰の?)」
「アビス様ですよ」
「(は?)」
「最強たるアビス様が、唯一弟子と認めた、たった1人の魔族。その魔族が魔王になったのが、ギガース様だって聞きました」
え? マジで?
あの戦闘狂の弟子なの?




