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猫だってアイテムを収集すれば最強になれます!(旧題:猫だってアイテムを収集すれば最強になれます)  作者: 川崎AG
8章 幽霊ですか? いいえ、ただの船旅……えぇぇ幽霊船!?
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序 船は進む

 ゆらゆら、ゆらゆら。

 揺れる。

 静かに揺れる。

 波が揺れて、船が揺れる。


 時に荒々しい姿を見せる海が、今日はやけに静かだ。


――― 海は良い。地に広がる青、空に広がる青、心が洗い流されるようだ。


 男は船尾に立って思う。

 長い、長い船旅だった。

 数年、数十年の、本当に、長い、長い、船の旅。

 男が港を()ったのは、何十年前の事だっただろうか? それは誰にも分からない。男自身ですら、もう忘れてしまった。


――― 月日の流れは無慈悲だな。もはや、地を歩いて居た頃の記憶などおぼろげで、まともに思い出す事も出来ん。


 男は静かに船室に入り、音も無く移動しながら部屋の中を覗き込む。

 整った部屋だった。

 ここは船乗り達の部屋だ。もっと雑然としているのが普通なのだが、時々男の片腕とも呼ぶべき痩せ細った男が部屋の掃除を、頼みもしないのにやっているらしい。


「アベル……」


 掃除をした張本人の名前を呼ぶが、返事は無い。

 どこか別の場所に移動したらしい。

 その後も、大きな船の中をフラフラと男は移動し、様々な部屋を覗き込む。

 船長室も、食堂代わりの大部屋も、武器庫も、食料庫も、くまなく船を見回った男は、再び船上に出る。


「そうか、皆、今日は疲れてるのか……」


 船は静かだ。

 大酒飲みのベルガや、“うわばみ”が静かなのも、昨日の戦闘で疲れたからだろう。

 昨日の戦いは、確かにちょっと大変だった。

 どこぞの魔王の支配する国から渡って来た大型船で、大量の魔族が乗っていた。

 あと一歩で沈める事が出来そうだったのに、時化(しけ)のせいで、結局取り逃してしまった。

 せめて、魔族共が護っていた、ふさふさの毛に覆われた狐のような魔族だけは捕らえたかったな?

 何やら大切そうに持っていた手紙のような物も気になる。


「なんとか、奴だけでも倒せていればな……」


 あの狐魔族だけでも倒せていれば、今頃は祝杯でもあげていたのだろうが、逃がしてしまっては、酒もただのやけ酒になってしまう。

 そう言う酒は苦くて嫌いだ。

 後悔するのは別に良い。

 海を漂う数十年の間に、数え切れないくらいして来た。


「ふぅ……そろそろ太陽が沈むな」


 日が傾いて、闇と夜が駆け足で世界を塗り潰そうとしている。

 夜になれば、他の連中も起き出して来るだろう。


「静かな時間は終わりだな」


 1人で呟くと、男は音も無くスゥッと消えて行った―――……。





 曰く―――東の大陸の船乗り達の間では、昔から伝わる噂がある。

 魔族を船に乗せて沖に出ると、霧が視界を閉ざし、現れるのだ、と。

 大昔に魔族との戦いで命を落とした、伝説の海賊―――キャプテン“ザルア”の乗る幽霊船が。



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