7-33 切り札
「ミィミャ」
相変わらず可愛らしい鳴き声の地声に、涙を流しそうになりつつ、俺はせっせと作業をする。
作業。
そう、作業だ。
どんな作業かって?
決まってるじゃん。
アイテム回収の作業だよぉ!!!
ベリアルをブチ転がした後に、俺が目をつけたのは、中央の、例の“暗黒製造装置”から伸びるパイプに繋がれた魔道具達だった。
“暗黒製造装置”は、虹の器に黒い光を吸い取られた事で、完全に機能を停止しているようだし、このまま魔道具を繋げて置いても意味は無い。
じゃあ、俺が貰っても良いんじゃん?
ここの魔道具は、教父の姿でベリアルが集めた物でしょ? って事は、この魔道具は扱い的にはドロップアイテムじゃん? つまり、ベリアルを倒した俺の物って事じゃん?
そう言う訳で、これは盗みでは無い。
例えベリアルが魔道具を盗って来ていたとしても、それはそれ、これはこれ、俺には一切関係ない事で、所有権は俺に有る訳でござる。
え? 都合良過ぎるって?
………そうだよ? 世の中ってそう言う物だもん。俺のせいじゃないもん。世間が悪いんだもん。
疑問は世に問え。
俺を断じたければ、世の理を変えて見せろ!
ヨシ、俺良い事言った。
だから、アイテムは全部俺の物ね。
子猫の足でチョコチョコと歩き、魔道具のある高さまで「どっせいぃい!」とジャンプしてタッチ。
張り付け状態だった魔道具が消えて、俺の収集箱に放り込まれる。
『【火炎刃 Lv.22】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:D
所持数:1/20』
『【水湧く水瓶 Lv.3】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:C
所持数:1/60』
『【天光器 Lv.31】
カテゴリー:素材
サイズ:大
レアリティ:B
所持数:1/60』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
それ以外にも、様々な物が手に入る。
武器は、まあ、属性と形で使い道が分かるが、この“天光器”とか、“光閉ざす傘”とか、使い道が不明の物がやたらと混ざっている。
そいで、1番意味不明なのが、装置の心臓部的な場所に収まっていたコレだ。
『【暗黒へ誘う光玉 Lv.100】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:★
所持数:1/1』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:大)』
装置の真ん中に据えられて居たって事は、多分暗黒を生み出していた元凶的な……奴、だと、思う、多分、きっと、うん。
まあ、色々と手に入ったけど、レアリティAは無かった。
唯一の魔道具も、この良く分かんない“暗黒へ誘う光玉”とやら1つだったし。
っとそう言えば、レアリティ★の道具を収集すると、特性の【星の加護を持つ者】の効果が開示されて――――無いか、残念。
まあ、次の魔王に挑む為の前哨戦としては、まあまあの収穫かね。
ぶっちゃけアイテム自体には、それ程期待して無かったし。
おっと、そう言えばキング●タルはどれぐらいの経験値をくれたのかしらっと。
『【魔王 Lv.32】
カテゴリー:特性
レアリティ:A
能力補正:魔力(効果特大)・筋力(効果大)・感覚器官(効果大)
付与スキル:【フィジカルブースト】【ダブルハート】
効果:魔法使用可
暗黒/深淵属性超強化
魔法使用時の詠唱、ディレイをキャンセル
魔法使用時の魔力消費10分の1
能力値限界突破
所持する様々な能力の経験値上昇』
おお、元々のレベルが27だったから、5レベルも上がってる!?
まあ、でも、雑魚の悪魔も一杯倒したから、これくらい貰っとかないとね。
『派生スキル【隠形 Lv.4】のレベルが上がり【隠形 Lv.5】になりました。自分を相手の認識から外す事が可能になりました』
おっとぉ、近頃音沙汰無かった【隠形】さんのレベルが上がったぁああ!
認識から外す……?
どう言う事? ええっと……相手が目の前に居て、俺が【隠形】を使っていると、“俺が居る事を認識させない”って事? つまり、自分の存在を道端の石ころや雑草と同列に出来るって事かね?
其処に居るのに、相手はそれを認識出来ない。
見えているのに、見えなくする。
つまり―――知覚騙しか。
良いね。
潜入や不意打ちに重宝する。
【隠形】は俺の行動支援スキルとしては超優秀だからね、レベルアップは嬉しいし、期待通りに能力が優秀になって行くから、有り難い事この上ない。
瞼の裏のログを上って行くと、何やら見た事無い文言が並んでいた。
『悪魔侯爵ベリアルの討伐完了』
『おめでとうございます』
『世界を破壊する存在の1つを排除したご褒美に以下から1つプレゼントします。
・強力なレアアイテム
・強力なスキル
・1度だけ使える、“世界の理”を破る権利』
なんじゃこれ?
収集箱さん、テンションがいつもと違わない?
不自然過ぎる。
何か………“外”から操作されてる感。
誰が?
1人しか居ない。
俺に、この【収集家】の能力を寄越しやがった、転生職員だ。
おい、テメェ、聞こえてんのか?
……………答えは無い。
聞こえてる感触も無い。
って事は、この文言は、元々【収集家】の中に仕込まれてた物なのかな?
まさか……“転生職員は、俺がベリアルを倒す事を知っていた”……のか?
いや、若しくはただの偶然か?
もしもの時の為に、偶々仕込んであっただけかな?
……うーん……止めた。こんな物考えるだけ無駄だ。
どっかで転生職員に接触する機会があった時にでも、直接訊けば良いや。
とにかく、選択肢が出たのならば、とりあえず選んでみるのがゲーマーとして正しい行動でしょう? まあ、俺は言う程今はゲーマーじゃないけど。
ええっと、レアアイテム、強スキル……最後のは、なんじゃこれ?
詳細情報でも出ないかと色々やってみるが、説明文的な物は一切出ない。
ええぇ……こう言う時は、細かい説明する物なんちゃうの~?
ったく! 俺を転生させた時と言い、説明が足りな過ぎだろ、あのコンチクショウは!
まあ、怒りは一旦引っ込めてっと……ビークール、ビークール。
どれ選ぼうか?
レアアイテム、超欲しい。
強スキル、超欲しい。
うーん……直接的な恩恵を考えれば、この2択にしちゃって良いんだが……どうにも、最後の選択肢が引っ掛かる。
選択肢に書いてある“世界の理”ってのは具体的に、どの範囲まで……ってか、どんな事を言ってるんだ?
例えば、死人を蘇らせる。
例えば、対象を強制的に死亡させる。
例えば、海を割る。
例えば―――世界を終わらせる。
どの辺りが該当するのかが、まったく分からない。
だが、待てよ?
何が出来るかは分からんが、切り札として持って置く価値は有る気がする。
俺は目下アビスに絶賛命を狙われ中だし、そうじゃなくても、他の最古の血とエンカウントしたらアウトらしいし……。
だが、これが本当に“世界の理”を捻じ曲げるのなら、これを使えばアビス達に狙われても、逃げる事が出来る可能性がある。
本当の意味でも“切り札”。
………持っておくか。もしかしたら、緊急回避的な事で使える可能性は有るし。
って訳で、1番下の奴で。
『≪1度だけ使える、“世界の理”を破る権利≫を選択』
『収集箱に、“切り札”が追加されました』
『【切り札】
カテゴリー:素材
サイズ:-
レアリティ:★★★★★★★★★★
所持数:1/1
備考:1度の使用で消滅する
世界の理を1度だけ無効にする事が出来る力。
魔王ブラウン以外では能力の行使は出来ない』
うわぁ……星10個だよ……。
レアリティ半端ねえな……。
ってか、名前“切り札”ってまんま過ぎじゃない? 大丈夫? もうちょっと格好良い名前にしなくて平気なの?
「う……?」
おっと、寝かせたまま放置していた教父爺が目を覚ましたようだ。




