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7-29 そして怪物は吠える

 ベリアルの爪を弾き返す。

 コッチの攻撃が通じなかろうが、【全は一、一は全(レギオン)】によって底上げされた、俺自身の超防御力には関係ない。

 強化された俺の体は、魔法だろうが、天術だろうが、物理攻撃だろうが、容赦なく、平等に、弾き返す。


「な……にッ!?」


 誰が想像できるだろうか?

 こんな小さな子猫が、これ程の、凶悪なまでの防御力と攻撃力を備えているなど。

 誰も出来るわけない。

 だからこそ、俺は不意打ち、あるいは暗殺と言う点において、卑怯な程に“最強”なのだ。


「(無駄なのはそっちだ。その程度の威力の攻撃なら、1億発食らったって俺の体には1mmもダメージは与えられねえぜ?)」


 別に今のはイキった訳ではない。俺が口にしたのは、全て真実なのだから。

 俺の言葉を聞き、空気が変わる。

 どこか驚いたような、どこか(ひる)んだような、どこか―――恐怖したような、そんな空気。

 攻撃が止む。

 俺の予想外の能力値に野郎が引いてくれたのかもしれない。

 だったら、今のうちですな?

 トトンッと踏み込み、砲弾のような速度で走り出す。


「(さあ、着いて来な?)」


 走る。

 走る。

 更に早く、更に速く、もっと、もっと、空気の壁を貫く程の速度で。

 例の機械までの距離を一気に詰めにかかる。

 残り、5m

 4m

 3m

 2m

 1――――

 最後の一歩で飛び上がり、闇色の光に触れる。


「無駄と言った。何者もそれに触れる事は出来ないと言っただろう!」


 ベリアルの言った通り、フワフワな毛に覆われた丸い俺の手が、スカッと黒い光を擦り抜ける。

 クソっ! これをどうにかしねえと、話になんねえってのに!!

 だが、俺にとっても、ベリアルにとっても予想外の展開が起きた。


 俺の収集箱に収まって、タンスの肥やしになっていた物―――虹の器。

 魔神の洞窟の中で手に入れた、武器ではなく素材に分類されていた、意味不明なアイテム。

 その灰色な刀身の剣が、突然、勝手に、収集箱から飛び出す。


「なんだ……それは?」

「(なんで、勝手に!?)」


 ベリアルが意味不明な行動に首を傾げているような声。実際にやってるかは視認できないが。

 一方俺は大慌てである。

 アイテムが、俺の意思に反して勝手に出て来るなんて初めての事だ。……いや、まあ【全は一、一は全(レギオン)】を初めて使った時もそんな感じだったけど、今回はあの時とは明らかに違う。

 俺は何もしてない。スキルも、魔法も、何も使っていない。

 俺自身は何のトリガーも引いていないのに、アイテムが自動で、勝手に出てきた。

 どうして―――?


 虹の器は、俺の焦りなんて気にする事もなく、その灰色の刀身を闇色の光に突き立てる。


 その瞬間――――


 バチンッと、小さな、黒い火花。

 次の瞬間、虹の器が、闇を吸い込みだした。

 

「何!?」


 急速に部屋から剥げ落とされる闇。

 シュルシュルとブラックホールのように虹の器が闇を吸い込み、取り込む。

 部屋の闇が消えていくと、それに同調するように虹の器の刀身が黒く染まっていく。

 時間にしておよそ10秒。

 たった10秒足らずで、部屋を満たしていた闇が消えた。

 そして、闇を取り込み終わった“虹の器”が、また勝手に動いて収集箱の中に戻る。

 瞼の裏に出されるログ。


『素材アイテム:≪虹の器≫の中に、“深淵の黒”の光が吸収されました』


 取り込んだ。

 そう言えば、虹の器のアイテム説明に「光の数」的な表示があった事を思い出す。

 って事は、これで、その光とやらと1つ手に入れたって事か?

 自動で動く事も含めて、つくづく意味不明なアイテムだな? 流石魔神の処からかっぱらって来たアイテムだ。


 まあ、だが―――これで、闇が晴れた。


「馬鹿な、有り得ん! 俺の“闇夜”が、こんな、馬鹿な!! どういう事だ、貴様、何をしたァ!!!!」


 青白い体を更に青くして、ベリアルが吠える。

 だが、俺も知らねえよ。

 むしろ、何が起こったのかはコッチが知りたいくらいだ。

 けど、これは好機。わざわざ話す必要もない。


「(ご自慢の装置を無効にされた気分は如何かな? ベリアル侯爵殿?)」

「天使如きがァぁあああああああっ!!」


 ベリアルが飛び掛かってくる。

 速い―――けど、攻撃が見えてるなら回避するのは可能だ!

 猫らしい俊敏な動きでステップして、ベリアルの超速の爪を避ける。


「(今度は、コッチが攻撃のターンだ!)」

「馬鹿が! 貴様が武器を自在に操る事は知っている! そして、貴様の武器では、俺を捉える事は出来んと理解しろ!!」

「(言ったろ? 俺の進化はマッハだぜ?)」


 空中の武器たちが渦巻く。

 ベリアルを狙いながら、武器がクルクルと部屋を回る。


「まさか、これが貴様の“とっておき”か? だとしたら―――」


 嘲笑うベリアルの言葉を遮るように天術を発動する。


夜の帳(ナイトアウト)


 黒い波動が周囲に広がり、次の瞬間には何事も無かったように静寂が戻ってくる。

 相手の幻術避けや、魔眼無効を“無効”にする天術。

 これで下準備は完了。

 さあ、俺の進化を、その目に焼き付けな!


 魔眼―――【偽物(イミテーション)


 ランク3の魔眼。

 今まで1度も実戦で使う事無く、レベルが上がってしまった悲しい魔眼。

 いや、だって、この子使い道が今まで思いつかなかったし。

 この魔眼の効果は単純明快。

 視界の中に、“偽物”を作る能力。

 作り出した物は精巧で、まじまじと見ても本物と見分けがつかない程だ。

 しかし、この能力には決定的な弱点がある。

 触ると砕け散るのだ。

 叩いたりするまでもなく、チョンッと触るだけでもバリンッとガラスが砕けるような音をたてて消える。

 そんなだから、攻撃にも防御にも使えないクソみたいな能力だと思っていた。

 だが、それは間違いだ。

 ようは使い方の問題。

 【偽物(イミテーション)】によって、偽物を作り出す。


 作り出す物は―――総数400を超える武器たち!


 空中で旋回していた武器の数が倍になる。

 そう、ようは相手に本物か偽物か分からなくすれば良いのだ。

 偽物の中に混ざる本物。

 本物の中に混ざる偽物。

 【偽物(イミテーション)】の偽装能力は最強だ。【夜の帳(ナイトアウト)】と組み合わせれば、偽物を見破れる奴はまず居ない。

 だが、作り出した偽物に攻撃力は無い。触れただけで砕けるから。

 しかし、そんな物関係ない。

 相手は偽物だろうが、本物だろうが、ダメージを受けたくないなら“全部”避けるしかないのだから。


「チぃ!?」


 ベリアルが慌てて闇の中に逃げ込もうとする。

 甘い、まだ俺の“全部”見せてねえんだぜ?

 更に、魔眼を発動。


欺瞞と虚構(ザ・フィクション)


 今空中を旋回する武器、偽物、本物、全部を幻で、更に―――倍に増やす。


「は………?」


 部屋を埋め尽くす程の……1600以上の武器たち。

 本物はその4分の1。

 だが、そんな物関係無い。

 敵にとっては“全部”が本物も同然だからだ。


「これは、なんだ……? いったい、何が起こった……?」

「((つたな)い技でスマンね? 俺の進化―――じっくり味わってくれ。まあ、「お前が味わえる程の余裕があるのか」、「それまで生きてられるのか」も、知った事じゃねえけどな?)」





 魔王として、その持ちうる力を覚醒し始めた怪物が、“ちっぽけな”悪魔に襲い掛かる。


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