7-30 太陽の祝福あれ
剣が舞う。
ドンッと部屋中に衝撃波が広がる。
舞う。
華吹雪のように、舞う。
そう、それは散って行く花弁の如く。
「(剣嵐―――)」
舞い踊る剣の動きが繋がる。
連鎖機動。
刃をべリアルに向けたまま、武器達がべリアルを囲い込む。
円形になりながら、高速で回転し続ける刃。
さながらそれは、剣の竜巻―――いや、それは刃の檻!
回る。
回る。
刃が回る。
「チィ……!!?」
べリアルは逃げない。
逃げられない。
影も、闇も、刃の檻の中には存在しないから。
これが、俺なりのべリアル封じ。いや、この技なら、大抵の奴は“詰み”に出来る。
相手を詰みにして、後は煮るなり焼くなりご自由に、ってね!
「(剣嵐―――刃波!!)」
べリアルの周囲を回転していた刃が動く。
ヒュンっとベリアルの足元を1本の槍が通過する。
「なんだ……?」
槍を皮切りに、無数の刃がベリアルを取り囲む“檻”から飛び出し、悪魔の体を狙う。
数が増えるごとに、剣が“檻”から飛び出すスピードが増す。
高速―――から音速へのシフト。
檻の中に居るベリアルが必死に攻撃を防ごうとする。
だが―――無駄な事だ。
ベリアルが自身の頭を狙って飛んで来た槍を撃ち落とそうと爪を振る。
しかし、それは幻。
爪は幻の槍をスカッと通過する。
「チィ!!」
その隙を狙って心臓を狙って剣が迫る。
「クッ!」
咄嗟に腕を振るって迎撃。
途端、触れると同時に剣がバリンっと砕け散る。魔眼【偽物】で創り出した偽物だ。
2つの攻撃を凌ぎ、3本目、4本目、5本目と、矢継ぎ早に攻撃が飛んでくる。
瞬間―――ベリアルが迷ったのが分かった。
野郎が迷った理由は考えるまでも無い。
――― この攻撃は本物か? それとも偽物? いや、幻と言う可能性も……。
そう、この1600以上の刃は、4分の1の本物でしかダメージにならない。
だから、奴は思ったのだ。
――― 残り4分の3は避ける必要が無い。と。
だが、それを迷うのは間違いだ。
何故なら―――テメエは【夜の帳】の効果で、偽物も幻も、見破る事が出来ないから。
お前の選択肢は1つ。
“全部”捌く。
それ以外に生き残る選択肢はねえ。
俺が若干の憐みでベリアルを見ている間に、更に刃の速度が増す。
刃の嵐―――。
音速を越えて飛び回る刃が、ベリアルを貫き、斬り、殴打する。
偽物が当たれば砕け散り、幻が当たれば擦り抜ける。
それがベリアルを更に混乱させ、回避を鈍くする。
そうだ、それこそが狙い。
相手に的を絞らせず、物量の暴力と見せかけて、精密に相手を潰す為に組まれた1つの流れ。
そして、ベリアルの生命を凄まじい速度で削り落としながら、もう一手。
殴打系の武器を天井に叩きつける。
一撃ごとにドンッを部屋を揺さぶる程の衝撃。
それを―――何度も、何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も続ける。
天井にひびが走り、破片や瓦礫が雨のように地面に降り注ぐ。
ベリアルが疲弊してヘロヘロになり、残り生命がレッドゾーンになったっぽくダランっと動きが鈍くなった頃―――ようやく、天井に穴が開く。
小さな穴だ。
猫がようやく通れるが通れないか、その程度の小さな穴。
その小さな穴から―――光が差し込む。
何より力強い光。
太陽の光―――。
外の闇が晴れているのかは賭けだったけど、賭けは勝ちだ!
あれだけ大規模な暗闇を操作してたのは、恐らくあの魔道具の塊だ。だから、アレの機能を止めれば、外も元通りになると踏んだが……大正解じゃねえか!
小さな穴から差し込んだ光がスポットライトのように、ベリアルを照らす。
「グッガ、ォォオオオオオオオオ、クソックソが!! 太陽の光だとぉ! バラハシュムの光の祝福の力か!!?」
顔を覆い、吠える。
吠える声が大きくなるのと同調するように、体を形作っていた黒い靄が、ベリベリと、シールのように一気に剥がれて行く。
ところでバラハシュムって誰だろう? いきなり知らん人の名前叫ばれても、コッチは困惑するばかりなんだが。
そんな事を呑気に思って居ると、ベリアルの胸の辺りの靄がブワッと噴き出し、何かがそこから突き出される。
人の手だった。
ベリアルの青黒い腕ではない。
ちゃんと、人の肌で、肉のついた、本当の人間の腕。
ベリアルの中から出て来る腕の正体なんて決まっている。ベリアルに取り込まれている教父爺しかいない!!
待ってたぜぇ、この瞬間をッ!
ベリアルを閉じ込めていた刃の檻を解除。
命令を出した途端に、クルクルと回っていた武器達が一気に弾かれたように周囲に散る。
檻から出たベリアルが、途端に陽の光から逃れようと動き出す。
だが―――この好機を、逃がさん!!
収集箱から出された、腹に穴の開いた黄金の鎧を纏う【仮想体】が、ベリアルの前に現れ、陽の光から逃げようとしていた悪魔の前に立ち塞がる。
そして、金色の籠手を無造作に手を伸ばし、ベリアルの胸から突き出た手を掴む。
「グぁああああッ!? 貴様、まさか、最初から教父を助ける為に!?」
最初から狙ってた訳じゃねえよ。
俺が教父を助けるタイミングを狙い始めたのは、テメエの造ったポンコツ魔動具をぶっ壊した時からだ。
「もしかしたら、悪魔の弱点の陽の光を当てれば……」と言う考えが思考を過ぎったからだ。
助けられる者は助けるし、無理ならさっさと見捨てる。
ただそれだけだ。
そして、教父は助けられそうだから助ける。
単純な俺の自身の行動基準に従ってるだけだ。
ベリアルが抵抗しようと、顔を覆って居た青黒い手を伸ばそうとする。
しかし、それを天井から降って来た神器―――黒土の剛拳がグシャッと叩き潰す。
「ギィィいいいいいいッ!!?」
超神聖属性の神器の攻撃で痛みを感じたのか、耳を覆いたくなる程の“気持ち悪い”悲鳴をあげる。
その隙に―――【仮想体】が教父爺の手を引っ張って、若干太っている男の体を、悪魔の体から引き摺り出す。
爺の体を抱えてスタッと軽やかに【仮想体】が着地する。
ヨシ!
「クソックソガぁアアアアッ!! ガっ、クッ、寄り代が無くては力が……!!? グゴぁああああっ!? 境界が……闇の境界線が……!?」
尚も陽の光を食らい続け、いよいよ限界が近いのか、青白い体が下級悪魔のように黒い靄の姿に変わる。
だが、輝く太陽の中で素直に死なせてやる程、俺は優しくない。
テメエが死ぬなら、経験値を俺に置いて行きやがれ!!
「(剣嵐―――)」
再び、武器達がベリアルを閉じ込める檻へと変じる。
さあ、野郎を殺す為の―――詰めの一手。
空中を飛ぶ、“本物”の旭日の剣に【隠形】を付与。
旭日の剣の気配が消え、飛ぶ際に起こる風の音が掻き消える。
飛び回る1600を越える刃。
それは正しく荒波の如く。
その荒波の中に忍ばせる、小さな、たった1つの“凪”―――。
「(剣嵐―――紅刃凪)」
ベリアルの背後。
その気配に気付く事なく、その近付く音に気付く事なく、ベリアルの心臓を的確に貫く。
「ぁ?」
貫かれて尚、自分に刃が刺さった事への実感が無い。
だが、これは現実。
ダメージは偽物でも幻でもない。
人間ならば血が噴き出す。悪魔侯爵たるベリアルは、血の代わりに胸から、体を構成する黒い靄を噴き出す。
「ガッ、ググッ、ウボァアアアアアアッ!! なんだぁッ!? 何がァあッ、起こったぁあ!?」
口からも靄を吐き出し、体が溶けるように無くなって行く。
吐き出した黒い靄を、太陽の光が浄化するように消し去り、ベリアルの手が、足が、体が消える。
「おのれッ、おのれ天使が!! 覚えて置けぇ!! 必ず……必ず貴様等を根絶やしに―――……」
最後まで言う事が出来ず、頭がボシュンッと音をたてて黒い靄に代わり、太陽の光に当てられて消える。
「(だから、俺は天使じゃねえ)」
最後の“闇”が、太陽に消し去られるのを見送る。
「(俺は―――ただの猫だ)」
旭日の剣が、カランッと地面に落ち、太陽の光を受けて輝いていた。




