6-20 師と弟子
うーん……。
バルトの元へとトコトコ戻りながら、俺は悩んでいた。
何を悩んでいたかっつーと。
敵が弱過ぎた。
ダメだ。
あんな雑魚じゃダメだ。
【全は一、一は全】に慣れておきたいのに、敵が弱過ぎて訓練になりゃしない。
有る程度、コッチの攻撃に対応してくるレベルの敵じゃないとやる価値が無い。
出来れば、次の魔王とやり合う前に、もう少しこの魔王スキルに慣れておきたいんだけどな……正直、魔王スキルが強力な上に、俺自身が無茶苦茶強化されるから、訓練になる相手が中々居ないってのは、必然と言えば必然。
だが、まあ収穫が無かった訳じゃない。
『【魔王 Lv.18】の特性レベルが上がり【魔王 Lv.19】になりました』
レベル上がったのは有り難いけど、1つだけか……。
旨味がねぇなぁ……。
それと、ついでにバルトに見せる証拠として、白い狼の残った骨を回収して来たのだが、普通の魔物素材として処理されるかと思いきや、
『【上級魔物の骨 Lv.36】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:C
所持数:5/30』
普通の魔物の素材と違う処理をされた……。
今まで収集箱に突っ込んだ魔物は、骨も“魔物の肉”として一纏めにされていた。だけど、今回は骨として処理された。
それに、“上級魔物”?
そこらの魔物と違いますってか? それなら燃え尽きる前に肉やら牙やら爪やら毛皮やら、色々貰っとけば良かったな。
クリムゾンジャイアントも、もしかしたら上級魔物だったかも知れないし、「大き過ぎるから」と放置して来た事が悔やまれる。
ま、それはともかく、だ。
今回の“訓練”も、まあ一応無駄ではなかったかな?
スピード潰しや【転移魔法】を絡めた戦術は、かなり有効だってのが分かった。
特に転移を交えた戦い方は、かなり“アリ”だと思う。
敵の攻撃の緊急回避。間合いを一瞬で潰す。操る武器を転移で敵の目の前に出すってのアリかも知れない。
これも魔王スキルの“魔力消費100分の1”の効果があってこそ。通常時の俺じゃ、転移1回しか使えないからね。
魔王スキルを操る経験値が圧倒的に足りないのは……まあ、どうせ俺は放って置いても、面倒事に巻き込まれるんだろうし、その時に積むさ。
はぁ……。
心の中で溜息を吐いてから、一旦思考を切って現実に戻る。
バルトが心配してるだろうし、ちんたら歩いてないで、とっとと転移で戻るか。
【転移魔法】
視界が抽象絵画みたいな歪み方をして、1秒後には鮮明な視界に戻る。
そして目の前には、唖然と口を開けるバルト。
「師匠……?」
「(おう、ただいま。オメェの仇はとっといたぞ)」
白い狼の骨を収集箱から出してポイっと放る。
驚いた顔のまま地面に落ちた大きな骨を、恐る恐る手にとって、見る。
ぶっちゃけ、骨だけだと本体分かんないんじゃない? 凄い驚いてるけど、もし俺が偽物の骨持って来てたらどうすんのよ? ………コイツはそれでも信じちゃうか。本当に詐欺に引っ掛からないように気を付けて欲しい。
「師匠、フェンリル、倒した、ですか?」
「(フェンリル? あの魔物、そんな大層な名前だったの?)」
「はい、特級、魔物、1匹、です。大昔、魔王、食べられた、言われている、凶暴な、魔物、です」
アレが魔王を食べる?
いや、あんな雑魚が魔王食べるとか無理過ぎるだろ。絶対それ、誤って伝わってる情報だって。
だって、現に魔王の俺が圧倒しちゃったし、秒殺しちゃったし。
「師匠、今、転移、使った、ですか?」
「(ああ。移動が面倒臭かったからな)」
「す、凄い、です!! 転移、とても、とても、難しい! それに、魔力、一杯、消費、使える、とても、とても、凄い!」
ああ、そりゃそうか。
俺は収集箱から魔法や天術を取り出すだけで発動できるが、普通の人間や魔族は詠唱してその場で術式を編まなければならない。
俺の手持ちの中では、【転移魔法】と【ドラグーンノヴァ】が桁外れに術式が難しく、魔力消費が激しいらしい事は知っている。
そう言えば、【全は一、一は全】を咬ませれば、究極魔法の【ドラグーンノヴァ】使えるんじゃね? まあ、あの破壊力と効果範囲を考えたら、使いどころ凄い狭いけど……。
まあ、それは後で考えよう。
「それに、武器、一杯、空、飛ぶ! 師匠、武器、一杯、使う! 魔物、何も、出来ない! 師匠、凄い、強い!! 一杯、一杯、強い!!」
「(ああ、まあな? あれが全力……)」
全力か? さっきの戦闘は正直7割か8割じゃない?
………ま、いっか。
「(……全力だ。ただ、俺が喋れる事と同じで、あんまり人に知られたくねえから、この事も黙っといてくれ)」
「はい! 師匠、秘密、絶対、喋らない!」
両手で口を塞ぐ。
………相変わらずポロっと喋ってしまいそうな仕草をする。
バルトの場合、自分から喋る事は無さそうだけど、相手の口車に乗って簡単に口を滑らしそうな危うさがある。
まあ、なんつうか、馬鹿正直だし。
俺のような小狡さを身に付けろとは言わんが、もう少し「人を疑え」とは教えたい。
……言ったところで聞かない気がするけど。
無条件の人の好さは、バルトの弱点ではあるが……それ以上に、コイツの長所だ。それを潰す様な真似は、出来れば俺だってしたくはないが……魔族と人間のハーフである半魔って出自を考えるとなぁ……。
「僕、師匠、ずっと、付いて行く!! 武器、一杯、使う、術、きっと、覚える、ます!」
「(いや、それは無理だから)」
「僕、弟子、です! 師匠、の、秘術、絶対、覚える、ます!!」
やる気出してるところ悪いけど、絶対無理だから……。
秘術っちゃぁ秘術だけど……魔王スキルは俺専用だし、そもそも収集箱を持ってないと意味無いスキルだし。
いや、でも、待てよ? バグみたいに、まったく別のスキルでも似たような事が出来るって可能性はまだ有るか。
「(まあ、そこまでやる気あんなら、頑張ってみな)」
でも、もしバルトが俺と同じような事出来るようになったら、超強くない? 魔族の能力プラス精霊の加護があって、魔法も天術も使える……。うん、かなりヤバいな。
コイツなら、そのうち魔王と1対1の勝負で勝てるようになるかもな?
「はい!!」
バルトの足の傷がようやく癒えたようで、気持ちのいい返事と共にビシッと立ち上がる。
足、もう大丈夫かな? 良く分かんないけど、俺の治癒天術を精霊が強化してくれてたみたいだし、大丈夫かね?
「(これからどうする? 俺としては、この森でやる事やったから一旦帰ろうかと思うんだが)」
「村、人達、に、魔物、居ない、知らせ、に、行きます」
……マジかお前?
あの村の連中は、魔物に怯えさせときゃ良いじゃねえか―――と、俺は思うのだが……。この馬鹿素直なお人好しは、怯えてる村人を放っておけねェよな。
「(良いよ、俺も付き合うよ、それ)」
「師匠、来てくれる、ですか?」
「(おう)」
村人がバルトにどんな反応するのか目に見えてるからな……。
流石に放って置けねえだろ。




