6-19 師匠の戦い
間に合った? 間に合った?
バルトが結構なボロボロ具合だけど、少なくとも死んでないよな? じゃあオッケー!
精霊達に死ぬほど急かされて、【空間機動】で空中飛んで来たけど、間に合ったなら頑張った甲斐があったね。
で、だ。
この狼共が、村人達が怯えてた“白い魔物”か?
まあ、確かに、白い。
毛が真っ白な狼。
なんか、地味にデカイ。
クリムゾンジャイアント並み……かな?
まあ、デカさなんざ関係ねえけどな。体の大きさで強さが決まるなら、俺は間違いなく世界最弱の部類だ。
だが、この世界において体の大きさにどれ程の意味があるのか。
その意味を―――教えてやるよ!
白い狼と向き合う俺。
そして、それを取り囲む30を越える―――あ、白いのが鳴いたらまた増えた。50くらいかな?
あの白いのがワンワンする度に増援が来るってか? ゲームのボス戦でよく見る“無限手下呼び”的な奴かな?
まあ、とりあえず―――背後に居るバルトに、
【ヒール】
と
【リジェネレーション】
バルトの体が治癒の光に包まれ、傷がキラキラと光るエフェクトを放ちながら消えて行く。
「師匠! 僕、も、戦う、ます!」
立ち上がろうとするバルトを言葉で制する。
「(大人しく座っとけ。足の傷、まだ治りきってねえだろうが。ここで無理して傷が一生物になったら馬鹿馬鹿しい)」
とか言ってる間に白いのが更にワンワンと鳴いて手下の黒い方の狼を呼び出す。
これで約70くらいか?
さて、そろそろ行くかね。
「(バルト、お前運が良いぜ?)」
「え……? どう言う、意味、です、のだ?」
どう言う意味か?
決まってんだろ。
「(俺の全力を見れる人間なんざ、今の所お前1人だからなッ!!)」
抑えて居た力を解放、
【全は一、一は全】
バチンッと狼達の目の前で火花のような光が散った―――そんな錯覚。
その光が狼達の視界から消えた、次の瞬間。
天を覆い尽くす程の武器が、狼1匹1匹を逃さず狙っていた。
武器総数420オーバー。
10日間の監禁生活とレティの添い寝した日を使って、せっせと武器を“不思議なポケットの法”を使って大量生産した結果の、圧倒的な物量。
70の狼達が―――白い狼が目の前の事態を理解出来ずにオロオロする。
そして、後ろに居るバルトも一緒になってオロオロする。
「(物量戦術大いに結構。だが―――本物の物量の圧殺力ってのを、見せてやるよ!)」
俺の言葉を理解した訳ではないだろうが、オロオロしている手下の狼達を叱咤するように白い狼が一際高い鳴き声を出す。
声に引かれて黒い狼が更に20程湧き出て来るが―――その数で、俺に挑むってか? 上等じゃねえか!
その意気やよし、ってね!
何秒持つか、試してやんよ!!
狼達が動き出す。
いや、動き出そうとした、その一歩目を―――目の前に武器を突き立てて制す。
ドンッと地面を抉るように突き立った刃に、狼達がビクッとなって動きを止める。
まずは―――敵の動線を潰す。
狼達が一旦退こうと動こうとした瞬間、逃げる方向に更に武器が突き立つ。
自分が踏み出そうとした場所に刃が突き刺さり、慌てて黒い狼達が同時に足を引っ込める。
そして―――逃げ道を封じる。
2本の武器で狼達の動きが一瞬完全に止まる。
それを、待ってた。
動き回られれば、バルトを狙われる可能性があるし、村の方に抜けられる可能性もある。
故に、敵の動きを一斉に止め、そんで
とどめの―――必殺の刃を、敵の頭と心臓にぶち込む!!!
避ける間も、受ける間も無い。
的確に貫かれる頭と心臓。
アクティブセンサーの情報によれば、コイツ等は数が大きくなる程能力値にプラス補正がかかるらしいが、そんな物俺には関係ない。
どんなに能力値が高かろうが、俺の【魔王】の力と、各特性の能力補正、ついでにいくつかの武器に付いている攻撃力増しの装備効果、常時サポート術式、そして【属性変化】と【エレメントブースト】があれば、相手が上位の魔王級でもなければ余裕で対応出来る自信がある。
そこら中で黒い狼の血飛沫が舞うと共に、400を越える武器は死体に興味を無くして即座に俺の頭上に戻り、残った1匹―――白く、巨大な体の狼に刃を向ける。
「師匠……凄い……!! これが、師匠、本気、力……!?」
後ろから、何やらキラキラした視線を感じるが……まあ、気付かない振りをしておこう。
「(さあ、残るはお前さん1人……いや、1匹か。まあ、ともかくテメェだけだ。仲間を呼びたいんなら、どうぞご自由に。出た瞬間に殺すけどな?)」
苦々しげに「グルルぅ」と唸る。
覚ったからだ。
――― どう足掻いても、「俺には勝てない」と。
そこからの白い奴の行動は早かった。
フイッと後ろを向いたかと思えば、凄まじい―――音速のような速度で逃げて行く。
「(あらら、逃げるのね)」
「師匠、敵、追い払う、ましたか?」
「(そうな)」
答えながら、4本の脚にグッと力を込める。
「(ま、逃がすつもりなんてねえけどな)」
ドンッと地面を跳ね上げて走り出す。
同時に、動物の群れのように、空中を彷徨っていた400以上の武器達が、一斉に森の中に逃げて行った白い狼を追う。
景色が凄まじい速度で後ろに流れて行く。
今までの俺なら、【アクセルブレス】の加速を使わなければ出せなかった音速の領域を、生身の4本の脚だけで飛び越える事が出来る。
地面を走ると障害物になる物が多いな……。人ならば気にも止めない小さな石や枝も、俺にとっては邪魔な障害物だ。
って訳で、空中を走る事にする。
ダッシュからジャンプして、【空間機動】で空中に足場を作り、超音速で飛び抜けて行く。
ヤベェ、今の俺ゲッ●ー機動みたいな事してる!! テンションが無駄に上がるわ!
だが、そんな俺よりも、俺の操る武器達の方が速い。
まるで「ヘイヘイ、そんなチンタラしてんのは、俺のケツを見たいからか?」とでも言うように、俺の横を剣や槍や斧が、滑るように空中を駆け抜けて行く。
まあ、武器は肉体的な制限一切無いから、拓けた場所ならマッハ5くらい出せるしな? とは言っても、武器の耐久性によって出せるスピードはまちまちだが。
さてさて、白い狼さんは何処かしらっと。
精霊が霧の道を開いてくれたお陰で見通しが良い。その上アクティブセンサーが有効になったので、敵を見失う事もない。
50m先だ。
木々が邪魔で見えないが、既にいくつかの武器が追い付いて交戦しているらしく、そこから先に逃げるような様子は無い。
ぶっちゃけ、追い付いてるのは耐久力の高い強い武器達だ。とすれば、追い付いた途端に滅多刺しにしてぶち殺せる。
それを敢えてやらないのは、俺が追い付いて来るまで待ってるからだ。
流石並列思考の俺! 本体にとどめ譲るとか分かってるぅ!
超音速で空中を飛び回る俺にとって、50mなんて目の前も同然だ。
2秒で白い狼に追い付く。
障害物の木が無ければ1秒だったんだけどねぇ。まあ、この手のタイムアタックは、暇を見つけてやる事にしよう。
「(ハーイ? ご機嫌いかが?)」
俺の操る武器達―――主に神器達との交戦よって、既に全身の白い毛が血に塗れていた。
自由に飛び回り攻撃して来る武器達を器用に避けながら、白い狼が殺意に満ちた目で俺を睨む。
いやいや、睨まれるのはお門違いじゃない?
先にうちの弟子に手を出したのは御宅でしょ? だったら、ボコり殺されたって文句言えないでしょう?
「(折角パーティーに来たのに、踊ってくれないなんて酷いじゃねえの? 責任とって相手してね?)」
武器達が退いて俺の頭上に集まる。
神器達と、一部の音速での移動に耐えられる耐久力の高い武器達。そして俺に遅れて現場に到着した武器達が次々に白い狼に狙いを定める。
全部の武器がこの場に揃うまで1分もかからない。モタモタしてると状況が悪くなるぜ?
「(さあ、一緒に踊ろうぜ? テメェのは死の舞踏になるだろうがな!!)」
応じるように、狼が吠える。
「ガアアアアアァァァッ!!!」
ビリビリとした空気の振動と共に、微かに地面が揺れる。
良い気合いだ。まあ、殺すけど。
同時に踏み出す。
地面が爆ぜ、土が空中を舞う。
速い。
相手の動きに付いていけない―――とか言うとでも? 悪いけど、【全は一、一は全】発動中の俺は無敵だぜ?
相手の間合いに入るや否や、空気を裂いて前脚の爪が迫る。
それを―――ステップで避け、飛び上がってその血に塗れた横っ面を、丸くてフワフワした前脚でぶん殴る。
猫パンチ(極)!!
ゴガンッと凄まじい打撃音と共に、狼の顔が横に跳ね上がり、大きな口から大量の血を吐き出す。
しかし―――倒れないし、吹き飛ばない。
猫パンチの衝撃を受けつつも、後ろ足で踏ん張ってその場に留まり、空中で、しかもパンチの出し終わりで体勢の崩れた俺をギロリっと2つの目が睨む。
目が死んでない―――!?
次の瞬間、狼の前脚が俺を捉え、そのまま地面に押し潰すように押さえつけられる。
防御力増し増しだから潰される心配は無いし、爪も一切食い込んで来ない。
……ドラマで男が女をベッドに押し倒すシーンを思い出して、無駄にドキドキしてしまった。
いやいや、俺は押し倒されるより、押し倒したい男子ですし。
特に意味の無い事を呑気に考えていると、狼が動けない俺に向かって大口を開ける。
あら? 何? 俺を食べようって?
歯が折れるだけだと思うのだけど、大丈夫かしら?
口が閉じ始め、牙が俺に届く―――前に、
【転移魔法】
その場から俺が消失し、5m程離れた場所に現れる。
残された狼の牙がガチンっと空を切り、「あれ?」と動きが止まる。
ダメだよ、追い駆けっこの最中に脚を止めたら。
――― 刃の雨が降る
ドス、グシャっと何本もの刃が狼の背中に突き刺さる。
逃げようと脚を踏み出せば、その瞬間に脚を貫く。
たった数秒で、背中に大量の武器を生やした“針鼠”のような姿になった。
しかし、それでも狼はヨロリと動こうとする。
まだ、これ程のダメージを受けながら死んでいない。
まともな奴なら5回は殺せるくらいのダメージは与えている。それなのに、尚動こうとする。
成程。
手下呼びの能力も、音速の機動力も、全部この耐久力と生命力の前には霞んでしまう。つまり、この“しぶとさ”がコイツの1番の厄介さって事ね。
正直俺としては、「ゴキブ●かよ」とツッコミを入れたいところだ。
「(良く耐えた―――と言いたいが、まだ突き刺さってる武器達の属性効果が残ってるぜ?)」
【属性変化】の効果によって付与されている属性は……“虹”。
【星の加護を持つ者】の効果によって付与する事が可能になった、全属性を内包する究極の属性。
どんな感じに力が発揮されるのかは……まだ試してないから謎だ。って訳で、コイツで実験。
――― 火
狼の体が燃え上がる。
転げ回って消そうにも、背中から突き出た武器が邪魔で転がる事が出来ない。
部下に消させようと、口を開けて咆哮しようとするが、その前に口の中に炎が捻じ込まれる。
肉体を焼かれる。
口内が焼かれる。
内臓が焼かれる。
刺さっている武器の分だけの属性効果が発揮され、さながら地獄の業火。
相手を消し炭にするまで消える事のない、告死の炎。
数秒、もがき続けた白い狼は、炎に焼かれ黒い灰といくつかの大きめの骨を残して、この世から焼滅した。
ありゃ? 炎だけだったな?
いや、でも、かなり苦しんでたし、もしかして弱点属性が炎だった?
って事は、どう言う事だ?
……もしかして、虹属性って、相手の弱点属性を勝手に見極めて、その属性の効果のみを発揮するって感じなのかな?
俺の方で弱点属性探す必要が無いのはありがたい。
とりあえず、この属性さえ付与しておけば、勝手に弱点突いてくれるって事だもんな。
うん、これは良いかもしれない。
「(火葬代は、俺の弟子が世話になったから無料にしておくよ)」




