6-4 望郷……ではない
教会の殺風景な廊下を1人……1匹でトコトコ歩く。
人と擦れ違う時の為に、一応【欺瞞と虚構】を魔眼にセットしておく。
右目に魔眼の輝きが宿る。
さってさて、階段は確かコッチの方に……おっと。
曲がり角を曲がろうとして、その先に人が居る事に気付く。
簡素な扉の前で何やら話しこんで居る2人。
「では、見間違いではないのか?」
「ああ、どうやらそうらしい」
「あの迷いの森の先に村が在る事は知っていたが……そこに、勇者が……いや、勇者候補が居るのか?」
「うむ。迷い込んだ先でそれらしい男を見たと言って居る」
勇者?
今まではその単語を聞くと、「仲間か?」と素直に思っていた物だが、今回の一件で、どうやら勇者=味方ではない事が判明したので、警戒心が先に立つ。
そいつも俺の敵かどうか、それが重要だ。
正直に言えば、そいつが敵であるのなら先手を打って排除してしまいたい。敢えて「勇者候補」と言ったって事は、そいつは神器を持って居ない可能性が高い。であるのなら、“勇者を殺した事で起こる面倒”は大分少なくて済む。最悪、魔族や魔物の仕業にしたって良いしな。
……あ、ヤバい。今の俺超黒いわ。
別段善人を気取っているつもりは無いが、簡単に人を殺すとか考えるのは流石にどうなのさ俺。
若干自己嫌悪しつつ、「まあ、これも【魔王】の特性のせいだな」と納得しておく事にする。
で、だ。
問題は扉の前の2人だ。
俺が入りたいのはあの扉だ。あの扉の先に地下に降りる階段がある筈。
相手が魔族なら問答無用でぶち殺しても良いんだが、相手は“一応”人間だからな。
できるだけ穏便に行くか。
収集箱から石を投射して、軽く壁に当てる。
2人の話声以外は静かだった廊下にコンッと音が響く。
「!?」
「なんだ?」
2人がコチラに近付いて来た所で、俺が歩いて来た廊下の先に向かってもう1つ石を投げる。今度は距離があるから若干強めに。
カツンっと廊下の先で音が鳴り、異変を感じた2人が急ぎ足で廊下を曲がって音の正体を確認しに行く。
途中俺と擦れ違うが、魔眼を発動して俺の姿は隠蔽してある。
俺に気付く事もなく扉から離れた2人の背中を見送り、素早く【仮想体】に扉を開けさせて、その隙間に滑り込んで扉を静かに閉める。
よし、ミッション完了。
いや、完了してねえよ、こっからが本番だよ。
ヒョイヒョイッと飛んで階段を下りる。そう言えば、クルガの町で魔族の屋敷に侵入した時には階段を下りるだけで苦労したっけ……。
しみじみと思い出しつつ、軽い足取りで地下に到着。
広い部屋。
その中心に、何かの魔法陣? のような物が描かれている。
見覚えがある。
いや、無い訳がない。
ここは
――― 俺がこの世界で目を覚ました場所だ
巨人かと誤解した2人組に起こされ、捨てられた場所。
見間違う筈も無い。
そうか、やっぱり俺を召喚で呼びやがったのは、七色教の連中って事で間違いなさそうだ。
まあ、だからと言って何をするつもりもないが。
っと、あんまりノンビリしてると、上に居た2人が不審に思って地下を確認しに来るかもしれんな。
ちょっと急ぐか。
魔法陣を囲むように扉が3つ。
1つは、俺が捨てられた“どこでもド●”が有る部屋だろう。
残りの2つを確認して行こうか。
まず1つ目。
暗いな……明かりくらい付けとけっての。まあ、猫の目なら普通に見えるから良いけど。
お、早速深淵の匣見っけ。
開けられた形跡はねえな? まあ、専用の鍵か【魔王】の特性がないと、開けたら死ぬしな、この匣。
多分これは、俺がバグと戦ってる間にクソビッチが持ち出した奴だな。じゃあ、元々所有権は俺に有るじゃん。
中身の確認は―――後回しにするか。今はアイテム回収して逃げる事優先で。
1つ目の部屋は武器庫なのか、様々な魔武器が置かれていた。
『【巨人の槌 Lv.22】
カテゴリー:武器
サイズ:大
レアリティ:D
付与属性:土
所持数:1/20』
『【ドラゴンキラー Lv.33】
カテゴリー:武器
サイズ:大
レアリティ:B
付与属性:無
所持数:1/20』
『【テンペストエッジ Lv.22】
カテゴリー:武器
サイズ:小
レアリティ:B
付与属性:風/水
所持数:1/20』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
その他諸々。
いやー、何か見た事も無い武器一杯で有り難や有り難や。
防具も方も、
『【アダマンタイトの鎧 Lv.11】
カテゴリー:防具
サイズ:大
レアリティ:B
付与属性:無
所持数:1/20』
『【抗魔の盾 Lv.22】
カテゴリー:防具
サイズ:中
レアリティ:C
付与属性:火/水/風/土
所持数:1/20』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
その他にも高ランクのアイテム一杯……。
凄ぇな。どんだけお宝溜めこんでんのこの教会?
集めに集めたりレアアイテムってか? まあ、それを全部横から掻っ攫って行くんですけどね。
いや、でもこれ泥棒じゃないから、うん、本当。アレだから、俺を殺そうとした慰謝料とか治療費とか、そんな感じの奴を現物払いして貰ってるだけだから、うん、本当に、マジでマジで。
誰にしてるのか分からない言い訳をしながら、2つ目の扉を開ける。
コッチの部屋には、武具以外の魔道具が有るのか?
とりあえず手近な所に有ったランプのような物に触れてみる。
『【魔動ランプ Lv.3】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:D
所持数:1/60
使用者の魔力を消費する事で、半永久的に光を灯すランプ』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
他にも、火がなくても温まる鍋やら、水の湧き出る水差しやら、果ては空飛ぶ鍋蓋なんて物もあった。
正直、この部屋の中に有る物は、有用な物とそうじゃない物の差が激しい……。
って言うか、「何に使うのコレ?」的な物の方が多い気がする。
水を注ぐと吸収するコップとか、何にも刺さらないフォークとか……何の目的で作られたのか意味不明な物が大量に出て来た。
まあ、どれも魔道具なので一応貰っておくけども……。
あ、でも転移封じの魔道具が見つからねえんだよなぁ? どこか別の場所に保管されてんのかな?
逃げる時は【転移魔法】でパッと帰ろうかと思ったけど、当てが外れたな……。
まあ、別に普通に逃げれば良いだけなんだが。
さぁってと、最後の3つ目の扉に入る。
俺が初めてこの世界に来た時に通った冷たい廊下。
懐かしい……と思うと同時に、あの時感じていた、自分が猫になった事への恐ろしさが少し蘇って来る。
今となっては、この子猫の姿にも慣れた物だが、あの時は現実を受け止めきれずに騒ぐ事しか出来んかったなぁ。
そんな俺も、今やこの世界の支配者たる魔王を狩る化け猫だ。
懐かしさと今の自分の差に、色々複雑な思いが浮き上がって来る。
色々考えてるうちに廊下の突き当たり―――俺を森の中に捨てやがった“どこでも●ア”が静かに佇んでいた。
古臭い木の扉。
小さな装飾の施されているだけで、何処にでもある普通の扉に見える。
扉に触れる。
『【転移門 Lv.55】
カテゴリー:素材
サイズ:大
レアリティ:A
所持数:1/60
別の場所への門を開く。
ただし、門を開ける場所は魔力濃度の高い場所に限る』
はい、来たどこでもド●!!
ペケぺペン(BGM)どーこーでも●アー(大山のぶ●風)。
よし、これでいつでも青い狸ごっこが出来るぞ。
一応言っておくが、俺は別に水●わさび否定派ではない。どちらかと言えば古い方の青い狸が好きと言う、それだけの話だ。
これで粗方回収できたかね?
転移無効の魔道具を探しに行きたいところだが、あんまりノンビリしてると地下室のアイテムをゴッソリ盗―――貰った事がバレるかもしれないし、ある程度のところで手を打ってケツ巻くるか。
さってと、そうとなったら地下室に仕掛けをしておかないとね?
後々調べられたら「剣の勇者が盗んだ」なんて因縁つけられるかも知れないし、証拠隠滅に地下室は潰す準備が必要だ。
【ファイアトラップ】
壁と床と天井と扉、至る所に魔法を張りつける。
発動条件設定―――「俺がこの教会を離れたら」。
ついでにアドバンスの残党が持っていたガソリンの入った樽を3つばかり置く。
これで良し。
そそくさと俺は地下室をあとにした。




