6-5 猫は「ただいま」する
どこで●ドアこと転移門を使って脱出ってのは考えたが、それだとちゃんと地下室大爆破できているのか確認出来んしなぁ。
そもそも転移無効の阻害を受けないって保証もねえし。下手打って地下室の現状を見られる方が面倒臭い。
と言う訳で、徒歩で脱出する事にした。
地下室の脱出は、特に見張りも無くアッサリ出来た。
その後も、アクティブセンサーで先に見取り図を頭に入れて居たお陰で、迷う事無く出入り口に到着。
人と何度か擦れ違ったが、誰も俺に気付かない。
まあ、この手の隠れんぼなんて御手の物だ。なんたって、コッチの世界に来てからは、こんな事ばっかりやってるからな。もはやプロですよプロ。
心の中で微妙に「ふふんっ」と天狗っ鼻をしつつ出入り口を出る。
その瞬間
――― ドンッと地面の下から轟く爆発音と衝撃
はい、地下室爆破完了。そして俺の盗みの―――盗みじゃねえよ、慰謝料だよ慰謝料。その慰謝料徴収の証拠隠滅完了。
そして教会の中で皆様が大騒ぎしている怒鳴り声が聞こえて来る。
ま、この騒ぎで監禁されてる俺(もう脱出したけど)の事を気にしてる余裕なんてねえだろうし、監禁部屋に放置して来たクソビッチが目を覚まさない限りは気付かれる事もねえだろう。
さぁて、一杯お土産も貰ったし、レティの所に帰るか。
人に見られないように植木の陰に隠れる。
【全は一、一は全】
武器は出さない。
いま必要なのは、魔王スキルの“MP消費100分の1”の効果だけだ。
これなら【転移魔法】を使っても大した消費にならない。今までは1日1回が限界だったが、【全は一、一は全】を咬ませれば1日10回は使えるって訳よ。
いやー、ありがたい。魔王スキル様様ですな。
っつー訳で、サラバだ七色教の阿呆共。
これに懲りたら俺に喧嘩なんぞ売ってくんじゃねえぞ? 東の大陸最大派閥の宗教だか知らねえが、俺が本気出したら速攻で壊滅やからなテメェ等。
とか、脅しの言葉を吐けたら、いっそ楽なんですけどねぇ……。
ま、良いや。
じゃ、そう言う訳で。
【転移魔法】
体が黒い魔力光に包まれ、俺はその場からオサラバした。
* * *
視界がグニャッとなり、次の瞬間にはジャハルに在る王族が暮らす若干ボロな屋敷の前だった。
ゴッソリとMPは持って行かれたっぽいけど、今までのように体が重くなる感じは一切無いし、疲れもしない。
今から「全力戦闘しろ」と言われても、「余裕じゃけんのう!」と、エセ広島弁で返せるくらい余裕だ。
流石MP消費100分の1は伊達じゃねえ……。
【全は一、一は全】を解くと、じんわりと汗が滲んだ。
うーん……。【全は一、一は全】使用後は微妙に体が疲れてる気がする……。スキルの説明書きには何も書いてないけど、微妙にMPの代わりに体力消費してない? このスキル? 使用時間に応じて体力を消耗するんだとしたら、長時間の使用は命取りかな……。
ま、良いや。それで魔王スキルの有用性が落ちる訳じゃないし。
とりあえずレティの所に戻ろう。
庭に回り、レティの部屋のバルコニーにジャンプする。
「(よっ……と)」
ヒョイッとジャンプしただけなのに、バルコニーを飛び越しそうになり、慌てて柵に爪を引っ掛けて止まる。
……危なっ。
自分で思ってる以上に、バグとの戦闘で能力値が上がってるらしい。気を付けよう。
っと、一応魔眼は外しておくか。
目を閉じて収集箱のリストを開き、魔眼のリストから【欺瞞と虚構】を選んで装備から外す。
【バードアイ】で自身の姿を確認すると、右目から魔眼の輝きが消える。
これでよし。
部屋の中は……誰も居ないか。
じゃあ【仮想体】出しても大丈夫かね?
鉄の籠手を付けて窓を開ける。
「ミィミ」
ただいま、っと。
開いた窓の隙間からスルッと中に入り、俺に続いてフヨフヨと空中を走って追いかけて来た【仮想体】の籠手が窓を閉める。
ご苦労さん俺。
【仮想体】を籠手ごと収集箱に放り込む。
さて……レティを探しに―――って、もしかして王族のお仕事中かもしれないし止めとくか。
どうせ待ってれば、そのうち部屋に戻って来るだろうしね。
………それにしても、心なしか部屋が片付いて居る気がする。
いや、片付いてるってか、物が目に見えて少なくなってる気がする。
あっ!
そう言えば、一ヶ月後くらいには城の方に移るって話だっけか? 俺がここを離れてからもうそれくらい経ってるのか。
本当は10日くらいでサクッと帰って来るつもりだったけど、七色教の監禁生活で無駄な時間をとられたからな。まあ、そのお陰で収集箱の中身充実させる時間が持てたけど。
ま、良いや。とりあえず果報は寝て待てってね。
床に置かれた若干香ばしい匂いのするバスケットの中で丸くなる。
ああ、木の上や倉庫のベッドでも普通に寝てたけど、やっぱり自分の寝床ってのは心地良さが違うね。ここでならグッスリと眠れる事が確信できる。
「お休み」っと目を瞑ると、ガチャッと扉が開き、そこには金色の髪のお人形さんみたいなお姫様が立っていた。
「ブラウン?」
呼びかけられて顔を上げる。
「(ん、レティ早かった――)」
と言葉を続けようとしたら、泣きそうな顔をしながらレティが走って来て、ドレスが汚れる事もお構いなしに跪いて俺を抱き上げる。
「もう、もうっ、何処に行ってたんです!」
「(何処って……まあ、色々)」
帝国の町とか、魔王の居城とか、七色教会とか。
………ぶっちゃけ、どこも碌な所じゃねえな……。営業で歩き回った時ですら、こんなしょうもない所ばかり回った覚えは無い。
「心配したんですから!」
そう言って、ポロポロ泣きながら俺を頬擦りするように顔に寄せる。
「(ゴメンて。なんか、変な人達に絡まれてさ)」
丸い手で、力を入れないようにしながらポンポンっとレティの頬を撫でるように叩く。
本当に、変な連中だったな。
正直、これ以上関わり合いになりたくねぇ。
まあ、落とし前をつけたいって気持ちは有るが、宗教家に手を出すと何かとウルサイのが世の中って物だ。しかも相手はコッチの大陸最大派閥、下手に突くと絶対面倒臭い事になるのは目に見えている。
「ずっと帰って来ないから、心配したんですからね」
「(だから心配かけてゴメンて)」
レティの涙を肉球の手で拭う。
あ、手の先が濡れて不快感が……猫の体じゃ、満足に女の涙も拭いてやれんな。とか恰好良い事を言うが、俺に女性経験は無い。
「(可愛い顔が台無しだ。さっさと泣き止んでくれ)」
「です……」
早く泣き止んでレティ。
可愛い顔云々はともかく、扉の前で俺に殺意の波動を飛ばして来るメイドさんがマジで襲いかかって来そうだから、本当に早く泣き止んで!!




