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5-28 魔王スキル

 魔王スキル。

 魔王の特性を持つ者にしか使う事の出来ない、ある種の究極たるスキルの1つ。

 このスキルは、持ち主に合わせた物が用意される。故に、1つとして同じ物は存在しない。

 戦い方、性格、性癖から癖に至るまで、持ち主の全ての情報から、最も適した能力が生み出される。

 まさに、持ち主の為に生み出された、持ち主のみに与えられた超常的な力。

 その力は、例外無く他のスキルの性能を凌駕し、物によっては国1つを容易く滅ぼすような力を持つ物すら存在した。

 その超常的な力を振るえば、当然のように持ち主の魔王を象徴する力となる。

 では―――子猫に与えられた、象徴となる力とは何か?



*  *  *



 瞼の裏に浮かび上がったログ。


『魔王スキル【全は一、一は全(レギオン)】の作成が終了しました』


 ああ、来ましたよこの野郎。

 来るなら、もうちょっと早く来て欲しいんだけど……。

 来るのが遅いから、俺はもう瀕死だし、MPも尽きそうになってるし。

 出せる手札は全部出した。

 それでもバグには届かない。

 だったら、もう、コイツに賭けるしかねえだろう。もし、糞みたいな能力だったら、俺は終わりだな……。

 祈るように、心の中で生まれたての魔王スキルを起動する。


 【全は一、一は全(レギオン)】


 カチンッと体の中の何かがはまる感覚。

 パズルの最後のピースで穴が塞がったような、不思議な“完成した”感覚が体の中に広がる。

 俺の中に有る、小さくて大きな箱。

 収集箱(コレクトボックス)。

 その蓋が開き、中身が飛び出す。

 時間にして1秒足らずの自身の中での独り言。それを終えて、スッと目を開く。


 目の前には、鎧兜を身に纏う緑と青の羽の魔王バグなんたら。

 そして、魔王を守るように宙を舞う武器達。


――― それを取り囲む、60を越える武器。


 鉄の剣、同槍、同斧、バルディッシュ、ファイアソード、アイスランス、風鳥の羽(ゲイルフェザー)、灯の槍、その他諸々。

 知っている。

 全部、俺が今まで収集して来た武器だ。

 その全てを、俺の意思で動かす事が出来る。……いや、でもちょっと変な感じ。俺の脳味噌が、浮いている武器の数だけ分裂して、それぞれが勝手に思考して、勝手に動いている。

 並列思考……的な感じの奴かな?

 だが、これは良い。とっても良い。

 正直武器や鎧を操るのは、俺には【仮想体】1つが限界だが、これならいくらでも同時に動かす事が出来る。

 いや、でもコレ、どんな力だ?


『【全は一、一は全(レギオン)】

 魔王ブラウン専用の魔王スキル。

 収集箱に存在する全てのアイテム、能力を全て装備した状態になる。

 能力を発動中は、魔力の消費が100分の1になる』


 凄い単純な説明書きだわ……。

 正直、説明だけを先に見たら俺はきっとがっかりしていた。いや、だって説明だけ見るとハズレ能力としか思えないし……。

 しかし、今目の前に有る光景がそれを全て否定してくれる。

 この能力は、俺にとっての超大当たりだ! ガチャで言えばSSR……いや、URと言って良いかもしれない。

 それに、発動中は魔力消費100分の1!?

 つまり、【魔王】の特性に付いている魔法の消費MP10分の1の完全上位互換。

 天術も魔法も使い放題って事じゃん!!

 ……いや、しかし、この説明書きで1つだけ納得行かないのは「魔王ブラウン」って……レティに貰った仮の名前が俺の正式名称っぽくなってる……いや、まあ、別に良いんですけどね……。


「なんだ、これは……?」


 バグが呟く。

 その声から伝わる戸惑い、そして―――微かな恐れ。

 今まで俺を圧倒していた野郎が、俺の能力に多少なりともビビっているのは気分が良い。

 少しだけ笑ってしまう。

 だから、さっきバグに言われた言葉をそのまま返してやる。


「(さあ、似たような能力を持つ者同士、仲良く殺し合おう(あそぼう)ぜ)」


 いける。

 確証は無いのに、今なら勝てると言う確信が俺の中に有る。

 何故か?

 知らん。

 強いて言うなら体が軽いからか?

 それに、さっきまで痛くて寒かった体が、今は痛くないし寒くない。

 どう言う事や? と体を見てみると、傷口がキラキラと光って塞がっていた。

 治癒の天術……だよね、このエフェクト?

 しかし俺は何も使って居ない。

 アレ? これ、ああッそうか!

 “アイテムと能力を全部装備”って、魔法や天術も含まれてるのか!? 攻撃系の物は流石に違うようだが、支援や治癒系の魔法や天術は常時発動しっ放しになるのかコレ!?

 って事は、このスキル発動中は、重ね掛け出来る限界まで支援術が常にかかって、ダメージを受ければ勝手に全快になるまでオートで回復してくれるってか!? なんじゃそりゃ!? こんな便利機能有って良いのか!?

 そんな無茶出来るのも、消費魔力100分の1の効果があってこそだ。

 このスキルヤベェ……!

 これが魔王スキル! 俺の為に用意された、俺専用のスキル!?


 よし……ヨシ!

 【全は一、一は全(レギオン)】の効果はボンヤリと理解した。

 これ以上は、実戦で試す。


「(悪いけど、ちょっくら俺の新しい力の犠牲になれ)」


 途端―――空中で静止していた、収集箱から出された武器達が、狼の群れのようにバグに襲いかかる。


「クッ―――!?」


 自身の支配する武器で迎撃するが、数が違う。


 ああ、そうだ。

 自分が凡人である事を今更ながら思い出す。

 煌めく様な才能は無い。磨き上げた技術も無い。

 だったら、どう戦えば良いのか?

 決まっている。凡人の戦い方はいつだって単純明快だ。


――― 数の暴力


 天才と言う個を、物量の力で圧殺する一般人らしい戦い方。

 剣が舞う、槍が舞う、矢が放たれ、斧が敵の武器を叩き折ろうと振り下ろされる。

 バグが捌き切れなかった武器が、その体に届く。


「チッ」


 舌打ちしながら回避する―――が、その先には別の武器が待ち構えている。

 逃がしゃしねえよ。

 武器1つ1つには俺の意思が通っている。しかし、それぞれが別の意識の元に動いているから、どれもこれもが殺意を持ってバラバラに動き、時に連携して相手を追い込む。

 さながら動物の群れの動き。

 敵を確実に追い込み、喉元に食らいつくタイミングを全員が狙っている。

 追尾弾のように、俊敏な動きでコチラの攻撃を避けるバグを追う。

 2手だ。


 1つ目を回避させ、体勢を崩す。


「クッ!」


 2つ目で、野郎のどてっ腹を抜く!

 が―――ガキンッと、バグの青い鎧にアイスランスが弾かれる。

 アイスランスには当然魔力を通している。それなのに傷1つつけられなかった。

 むぅ……中々良い防具使ってんじゃねえか!

 相手も当然のように鎧に魔力を通している筈だ。だとしたら、生半可な火力では鎧を抜けない。

 だったら、鎧を脱がせれば良いじゃん?

 野郎の鎧を引っ剥(ぺ)がしてやる!!


 飛び出す。

 体が軽い。

 元々軽い体だが、体が羽のように軽く感じる。

 魔法や天術の支援術式が限界までかけられてるからかな?

 バグが攻撃を受けながらも猫(おれ)の動きに気付き、何かを叫んだ。


「無駄だ! どれだけの攻撃を積み重ねようが、余の体に傷をつけられる筈もなかろうが!!」


 その鼻っ柱、5秒で圧(へ)し折ってやる!

 入り混じり、刃をぶつけ合う俺とバグの武器の間を縫って全速力で突っ込む。

 後4m

 3、

 2、

 1―――


「さっきの二の舞だな?」


 バグが今まで使う事のなかった、自身の腰に提げて居た剣を抜く。

 青白い刀身。多分、魔剣と呼ばれる部類の剣。

 俺は構わずに突っ込む。

 そのタイミングに合わせ、抜き付けの1撃で俺を狙って来る。


「終わりだ!」


 青白い刀身が俺を捉える。

 体が両断―――されなかった。


 ギィンッと、俺の体に当たった剣が弾かれる。


「なっ!?」


 俺の魔王スキル【全は一、一は全(レギオン)】の効果は、収集箱内に有る全てのアイテムと能力を装備する事。

 武器は今も絶賛空中を飛び回り中。

 では、防具や装飾品は何処に行ったのか?


――― 俺だ。


 目には見えないが、俺の体は収集箱内の全ての防具と装飾品を装備した状態になっている。

 つまり―――手持ちの防具全てを合計した耐久力、硬度、耐性が俺の体に付与されているって事だ。


「(悪いけど、もうテメェの攻撃も魔法も、俺には効かねえぜ?)」



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