5-13 猫も合流する
無事に帝国で合流を果たした俺と、若干……いや、大分胡散臭い狐目の姉ちゃんことシルフさん。
正直、俺はこの人をあんまり信用していない。
ただ、まあ、1度協力すると言った以上は、最後までやりますけどね? 途中で投げ出すのは気分悪いし、途中放棄は元サラリーマンとしての矜持に反する。
………いや、「矜持とかそんな恰好良い物お前にあったっけ?」とか言われると、自分でもかなり疑問だけど……。
ともかく、協力する以上は全力は尽くす。
俺だって魔王の城のレアアイテム欲しいし。
信用は出来ないが、お互い利害は一致しているので力を合わせる。まあ、そんな感じの関係です。
で―――、シルフさんが掴んだ情報を元に移動を開始した訳だが、いつまでも猫は隠れて居る訳にもいかん。
いや、だって、もし気付かれたらそれこそアレじゃん? 「変な猫が着いて来てる……」ってなるやん? だったら始めっから姿見せてた方が、幾分か気が楽だ。
タイミングを見て、「始めから居ましたよ?」風を装って【仮想体】の肩にチョコンッと乗っかる。
シルフさんがすぐさま俺に気付き―――
「……おい、猫が肩に乗ってるぞ?」
知ってます。とだけ短く返す。
「随分懐いてるけど……まさか、お前のペットか?」
そうです。と適当な返答。
まあ、本体コッチですけどね。とは流石に言えないので、それは聞こえないように言う。
「お前……そんな目立つ恰好な上に、ペット連れて気付かれずに行動するって……素直に凄いな……」
いやー、それほどでも。
実際は子猫の体1つでの移動ですし。
そんな感じに、道中世間話を挟みながら進んで―――夜。
薄暗いどこかの森の中。
ぶっちゃけシルフさん先導でここまで来たので、帝国のどの辺りに居るのかは分かって居ない。そもそも帝国の地理なんてまったく分からない。俺が分かるのは、ツヴァルグ王国の国境から合流地点の村までの道中だけだ。
ってな訳で、どこか分からない、どっかの森の中。
周囲に動物の気配も魔物の気配も無い。
多分俺の気配にビビってるからだ。って言うかそれ以外に無い。
「ここら辺は魔物が少ないな? 丁度良いから、今日はここで野営しよう」
宜しいと思います。
俺もいい加減疲れたので……。まあ、俺は歩き疲れたんじゃなくて、シルフさんに正体バレないようにする気疲れの方だけど……。
2人……正確には1人と1匹で、薪になる木の枝やらを集め、手早く天術で火を灯す。
はぁ~、暖かい……。
寒いの苦手な猫の体は、正直帝国の夜の寒さは堪える……。
焚き火の傍で足を折って丸くなる。
猫が炬燵で丸くなっている理由が良く分かります、ええ、本当に。
俺が焚き火の暖かさで癒されていると、そんな俺の和んだ意識を受け取った【仮想体】が俺の横に腰かけて焚き火にあたる。
「その鎧いい加減脱いだらどうだ? ここら辺は魔物の気配もねえし」
やめておく。
って言うか、脱いだら多分アンタ腰抜かすで? なんたって中身空っぽやし。
心の中でエセ関西弁でフフッと笑って居る間に、シルフさんがどこからともなく鍋を取り出して、さっきの薪探しに出た時に見つけたらしい食べられる野草を放り込んで行く。
「言っとくけど、味は保証しない」
大丈夫です。
どう考えても料理できる女性には見えないから、始めっから期待して無いです。
袋から取り出した肉をナイフで適当に小さく切って鍋に放り込むシルフさんを見ながら、そう言えば店以外で女性の手作り料理ってコッチじゃ始めてかも……。
……?
シルフさんの腰の袋、ただの皮袋にしか見えないけど、明らかに取り出した肉の方が質量大きくない?
……もしかして魔法の道具か?
青い狸の腹のポケット的な、質量無視してアイテムを入れる事が出来る奴かしら? ま、どんなマジックアイテムだろうと魔法、天術、なんでもござれな俺の収集箱の方が断然優秀ですけどね(ドヤッ)!
……中身入ってる状態のあの手のアイテムを収集箱に放り込んだら、どうなるんだろう?
好奇心がムクムクと湧いて来た。
大量にアイテムが入ってたら、一気に収集出来たりするのか?
いや、いやいや、待てよ? 旭日の剣の入った深淵の匣を放り込んだ時、収集されたのは深淵の匣だけで、中身の旭日の剣は収集されなかった。
って事は、“何かに入っている”アイテムは、収集されないって事か。でも、それは逆に言えば、所持数限界以上にアイテムを持てる可能性が有るって事じゃん?
つっても、今のところ、そこまで大量に持ち歩きたいアイテムもねえけども。
色々考えていると、【仮想体】の操作が疎かになって、黄金の鎧が無言のままシルフさんを睨むような形になっていた。
その視線が気まずかったのか、シルフさんが鍋を混ぜながら話し始める。
「睨むなよ……別に毒なんて入れねえから」
いや、別にそんな心配はしてない。
そもそも毒入れられても【毒無効】有るから、何食っても死にゃしないし。
「お前が俺の事を信用してないってのは……まあ、何となく分かってるけど……」
うん。まったくちっとも信用してないです。
ってか、信用されてないって自覚はあったんかいアンタ!? 絶対我が道を行くタイプだと思ってたけど、多少は周りに向ける目はあったんか!?
ちょっとだけ評価を改める。……ちょっとだけな。
「そんなだと、こっから先に行動に支障が出るだろ? 少しくらい打ち解けた方がお互いの為じゃね?」
信用されないのは自分の言動と行動のせいだって自覚はねえのか……。
改めた評価を、再び最低辺に付け直す。
とりあえず信用されたいなら、少しは自分の事を話せよ。とまったく話せない自分を棚に上げて言っておく。
「自分の話しなぁ……」
少し何を話すか迷ったのか、細い狐目を更に細くして思考している様子。そして、思考はしながらも鍋を混ぜる手は止めない辺りは流石と言うべきだろうか?
5秒程の沈黙の後、ポツポツと話し始めた。
「俺さあ、本当はコッチの人間じゃねえんだよ」
コッチとな?
どう言う意味でのコッチだコンニャロウ。
シルフさんは、クルクルと回る鍋の中身をボンヤリと眺めながら、つまらなそうに、それでいてどこか悲しそうに話す。
「七色教の連中……あ、分かるよな七色教?」
東の大陸の最大宗教なんだっけ?
爺さん先生の授業で何やら話していた気がするが、宗教に興味無いから聞き流してたんだよなぁ……。
俺が分からないってのを雰囲気で察したらしく、「ハァ……」と深い溜息を吐かれる。
……ええやん別に。宗教なんぞに頼らなくても、俺は生きていけますし。そもそも猫だから宗教もへったくれもありませんし。
「まあ、ともかくさ、その七色教の連中は勇者を手元に欲しかったらしくてよ。なんての? 勇者を呼び出す召喚儀式? とか言うので、俺が呼び出されたのよ」
―――召喚儀式?
フラッシュバックする、俺がこの世界に始めて降り立った時の光景。
雷に打たれたように頭の中で流れて行く、あの場に居た男達の会話。今までテンパってて曖昧だった記憶が、嘘のように鮮明に思い出される。
『わ、私にも分からん!? まさか、これがもう1人の勇者か…?』
『召喚に失敗した、と言う事ではないか?』
あの会話で状況を推理すると、あの男達は勇者を召喚しようとして失敗し、代わりに俺が呼び出されてしまった……って感じだろう。
とすると、だ。
この人、もしかして、俺と同じ
――― 異世界人か……!?




