5-12 黄金の勇者は短剣の勇者と合流する
木の下をコソッと歩いて行くシルフさんを一旦見送り、アチラから見えない木の陰でオリハルコンの鎧一式を着せた【仮想体】を創る。
わざと木の枝を踏んで音をたてると、それで【仮想体】に気付いたシルフさんが、慌てて振り返りながら腰の短剣に手をかける。
両手をあげて降参を示す【仮想体】。
それでようやく警戒を解いて、シルフさんが小さく息を吐く。
「なんだ、お前かよ……どれだけ気配消すのが上手いんだ……」
その鎧は気配消してるんじゃなくて、元々中身無いだけですけどね……。
シルフさんが短剣から手を放して金色の鎧に近付く。
……っと、この人は【妖精の耳】で俺の思考が読めるんだった。思考を外に漏らさないように気を付けねえとな……。
「まあ、そんな目立つ恰好で動いているお前なら、気配断ちが上手くなるのも当然の事か……」
すんません、それ一切関係ないです。
「来るのが随分早かったな? 絶対俺の方が早く着いたと思ったのに……」
そら、まあ猫の身1つで移動してますから、身軽なもんだ。
「……? お前、本当に何か特別なスキルか何か使ってないか? 前は辛うじて見えたのに、【妖精の耳】を使ってもお前の思考が見えないぞ……?」
特に何も使って無い。
強いて前と違う点をあげるなら、俺が“思考を読まれる事を拒否している”って点だ。
でも、そうか。それで勝手に思考を読まれる事は防げるのか。
こんな簡単に防げるなら、そこまでビビる必要はねえな?
良かった……思考する事まで制限しなきゃならんかと思ってたけど、これなら大丈夫そうだ。
ただ、これだと会話もできやしないので、ある程度はコチラから見せて行く必要がある。
とりあえず、「問題無い」とだけ思考で返して置く。
「いや、問題は無いが……」
納得して無い顔。
だが、それ以上深く追求して来るような事はなく、話を進め始めた。
「ともかく、まずは無事に合流出来て良かった」
うん、そうね。
こちとら、アンタが裏切ったんじゃないかと不安になってたもの。
素直に頷く黄金の鎧の先に立って歩き出すシルフさん。
「で、早速だがここからの話だ。俺達の目的は魔王バグリースと戦う事じゃないってのは前に話したよな?」
うん。
シルフさんの後をトコトコと黄金の鎧が着いて行き、ついでに俺も木の枝をヒョイッと移動して後を追いかける。
「俺達の目的は、あくまで魔王の居城へ侵入して目的の物を手に入れる事だ。つまり、魔王のエンカウントは絶対に避けて通るべき事態だ」
異論無い。
この国の魔王が俺に倒せるレベルの相手ならば、何かしら作戦をたててぶち殺すって展開もあったかもしれないが、今回は相手が悪い。
帰還組が本当にアドバンス達新参組の3倍近く強いなら、ぶっちゃけ俺に手を出せる相手ではない。
……いや、でも実際に相手の力を見た訳じゃねえしな?
今の所、事前情報だけで及び腰になってるけど、実際に見たら結構大した事ねえ相手かもしれないし。
……でも、絶対ヤバい魔王スキル持ってるよね……?
格下のアドバンスとガジェットの2人が持ってて、帰還組が持ってないって事はねえだろうし。
「で、具体的にどうするのかってーと、まずは魔王バグリースを城から引き摺り出す」
良い手なんじゃん?
魔王の居る城に忍び込むよりは、圧倒的にリスクが少なくてとってもヨロシイと思いますです。
「この村に辿り着くまでに、少し情報を集めて来たんだが、どうやら魔王のところのペットだか部下だか……まあ、ともかく魔王バグリースにとって何かしら意味のある奴が国を回ってるらしい」
なんじゃそら?
町を巡って支配状況を視察して回ってるとか、そんな感じの話か? まあ、あれだけ徹底した奴隷体質を刷り込むような魔王だ。何かしら小さな綻びが出て居ないか神経質なくらいに気にして居るのかも知れない。
「で、だ。そいつを俺達勇者が仕留めたとすると、どうなると思う?」
そりゃぁ……魔王が黙って無いだろう?
って言うか、怒る?
その、国を回ってる部下だかペット(?)だか、そいつが何をしているのかは知らないが、少なくても何かしら魔王の命令を受けて行動している事は間違いないだろう。
って事は、魔王から信頼されている奴だ。
そいつをブチ転がされたら、そら魔王だって顔真っ赤だろう。
しかも、それをやったのが勇者だってんなら―――ああ、なるほど、そう言う作戦か。
「気付いたか? そいつを勇者が狩ったとなれば、直接魔王が出張って来るって可能性が高い」
で、魔王が釣り出されて城から離れたら、その隙に忍び込んじまえって話ね。
「そう言う事。簡単だろ?」
簡単か……?
まあ、直接魔王とエンカウントしないし、正面切って乗り込むのに比べれば簡単っちゃ簡単か……。
「で、差し当たって、その国を回ってる奴を探しださなきゃ話にならん」
まあ、そら、そうね。
「それとなく情報を集めて当たりはつけて来たけど、実際に居るかどうかは行ってみなきゃ分からない」
結構行き当たりばったりなのね……。
まあ、俺もどっちかと言えば計画性無い人間だから、あんまこの姉ちゃんの事を言えねえけども……。
「で、先に言っておく。その目的の奴とエンカウントした時は、お前に相手を頼みたい」
………えー……。
「文句言うな。仕方ないだろ? 俺は顔が知られてないから、そこまで魔王の警戒心を煽れない。でも、既に魔王2人を倒してるお前なら、バグリースだってその行動を無視出来ない」
言うてる事は分かりますけども……。
え? じゃあ、アンタはその時何してんの? 俺の援護?
「後ろで応援してる」
オメェ、ぶっ飛ばすぞ。
人が必死こいて戦う時に何してんだこの野郎。
「力いっぱい応援するぞ?」
違ぇよ!
力の入れ具合云々の話じゃねえんだよ!
俺は1人で戦う方が戦いやすいとかそういう話じゃなくて、勇者名乗るなら一緒に戦えって言ってんだよ!?
「いや、こう言う場合は1人で戦った方が、相手に与えるインパクト強く無い?」
強くねえよ。
仮にそうだとしても、勇者1人より2人居るってアピールした方が魔王が釣り出される可能性は高くなるじゃん。
「……じゃあ、仕方ない。近くの住民の避難誘導とかしてるよ」
この野郎、何が何でも作戦の1番面倒臭い部分である、「魔王の使いと戦う」ってところを俺に押しつけるつもりか……!?
コッチはテメエの作戦に協力してやるって立場なんだから、少しは働くところを見せろっての。
一方的に仕事を押しつける奴は会社じゃやってけねえんだからな! まあ、勇者は会社じゃねえけど! そもそも仕事じゃねえけど!
若干心の中でキレながらも、それを外に漏らさないように頑張る俺は、つくづく日本のサラリーマンだなぁ、と実感してしまう。
ただ、思考は読ませなくても、俺が怒ってるの雰囲気で何となく伝わったようで、シルフさんが少しだけ「悪かった」と言う顔をする。元営業マンの評価としては、多分この顔は作ってるだけだ。内心は欠片も悪いと思ってねえ奴だコレ。
「まあまあ、役割分担って奴だよ。俺は情報収集や侵入は得意だけど、どちらかと言えば戦闘は苦手な人間だし。逆にお前はそんな目立つ恰好じゃそう言う事は出来ないだろ? お互いの得意分野で力を活かしましょうって、それだけの事だよ」
いや、別に俺は情報収集や侵入も普通に出来ますけど?
戦闘もそこそこ得意ではあるけども、1番の得意分野は隠密活動ですし。
………いや、でも、まあこの人の言う事ももっともか……。
この国を歩いては見たけど、この国の人や魔族のどの辺りに地雷が有るのかとか、俺には分かんないし……。
そう言う意味じゃ、確かにこの人の情報収集能力は侮れない。
……しゃーない、ここは俺の方が折れるか……。
ただ―――この人は、あんまり信用し過ぎない方が良いかも?
俺の中のシルフさんの好感度は、元々あまり高くなかったけど、更に低くなった。




