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1-10 荷馬車

 おや? 変異因子にビビってる間にログが流れてる?


『条件≪自身で討伐した魔物の素材をコレクトする≫を満たした為、以下の派生スキルが解放されました。

隠形(おんぎょう)


 隠形…?

 まあ、説明みなくても何となく効果は想像付くけど、一応確認しておくか。


 【隠形 Lv.1】

『周囲から気配を悟らせにくくさせます。

 レベルが上がると、視覚や聴覚からも存在を隠蔽する事が可能になります』


 ですよね。

 名前通りの効果で安心した。

 …っと、いつまでも留まってると血の匂いを嗅ぎつけて何か来るかもしれん。さっさと移動しよう。

 丁度良いから、【隠形】の効果確かめてみるか?

 スキルの発動ってどうすんだろう? ショットブーストは勝手に発動するパッシブスキルだけど、これって自分でオンオフしなきゃいけないアクティブスキルだよな?

 いや、難しく考える必要はないな。

 手を開く時にどこの筋肉にどう言う命令を出せば良いか? なんて一々考えたりしないのと同じ。使うと思えば無意識にスキルのスイッチを勝手に入れる事が出来る……多分。


 スゥっと体が重くなったような錯覚―――


 ん?

 これは、スキルを発動してるって事だろうか? 体が重く感じるのは、スキルの反動か、もしくは何らかのエネルギー(まあ、仮にMPとしておこう)を消費し続けているからって事かな?

 どちらにせよ、あんまり長時間使っていて良い物じゃい気がする…。

 とりあえず、そのままこそこそと移動する。

 途中、血の匂いに釣られたらしいクビナガイーターを見つけたが、3mくらいまで近付いてみても一切俺に反応する気配が無かった。どうやら、隠形の効果は確からしい。

 ただ……スキルを解いた途端にどっと疲れた…。

 スキル使用中に感じる体の重さは、やはりMP消費的な事らしい。まあ、スキルにレベルの表示が付いてるって事は、使っていればそのうち慣れて良くなるだろう…多分。

 ああ、ダメだ…。体がだるくて動く気力が湧いてこない。

 歩いて疲れている状態で、魔物との初戦闘、そしてスキル使用によるエネルギー消費…。子猫の体じゃなくても動けねえっつーの…。


 なんとかなけなしの体力を振り絞って木に登って休む事にする。



*  *  *



 冷たい風に吹かれて目を覚ます。


「ミ…」


 寒…。

 見上げると、生い茂る木々の隙間から星空が見えた。

 眠った時には太陽が真上辺りだったから多分昼頃、そして今は真っ暗な夜…。少しだけ休むつもりが、がっつり眠ってしまっていたらしい。

 うぅーよく寝た!

 体を伸ばして調子を確かめる。

 腹が空いてる以外は万全。やっぱり睡眠は健康の最大要因だよなぁ。枝の上も慣れてみるとそこそこ寝心地が良い……いや、やっぱ良くねーわ。

 鳶職のような身軽さで地面に降りる。

 食べかけの干し肉とリンゴで腹を満たし、これからの事を考える。

 夜だ。むっさ暗い。

 日中だって日の光が通り辛くて結構暗いのに、もう真っ暗と言っても良い位だ。ただ―――猫の目だと以外と見えるんだよなぁ。

 今までは敢えて暗がりの移動を避けて来たけど、少し行ってみるか? 魔物だろうが肉食獣だろうが一応戦えるっぽいし。まあ、それ以前に【隠形】で戦闘を避けるようにすればいいしな。

 暗い森の中を、川下に向かって歩きだす。

 虫の鳴き声…。

 リンリンピーピーと、寒い風が吹いてるのに頑張って風情だしとりますなぁ。

 おっと、そうだ! 魔物の死体を収集箱(コレクトボックス)に入れた時に思ったんだが、生きてる状態で放り込む事って出来んのかな? もし出来るんだったら、この能力は攻撃能力として最強じゃない? だって、触れるだけで殺せるし。

 とは言え、いきなり魔物相手にそんな実験をする度胸は無い……ので、とりあえずそこら辺の虫さんに尊い犠牲になって貰おう。

 虫の鳴き声を辿って行くと、すぐに鈴虫っぽい羽で音を出している黒い虫を発見。即座に捕まえて収集箱に入れようとしてみたが…


『“生きている”と判定される物は収集箱に入れられません』


 普通に拒否された。

 やはりダメか…。まあ、そんな都合の良い一撃必殺みたいな能力あるわけねーわな。

 捕まえていた虫さんを「すまんね」と心の中で謝って解放する。

 あっ、虫も殺したら死体はアイテム扱いになるんじゃん? とか思ったけど、茂みの中に消えて行った虫を追う気にはなれず、川下りに戻る事にする。


 ………


 ………………


 ……………………


 1時間程歩いた頃―――開けた場所に出た。

 木が伐採され、雑ではあるが整地されている。それが、森を貫くように一直線に続いている。

 これは、つまり…道、だよな?


「ミャア!」


 今まで追っかけて来た小川の上にかけられた簡素な橋で、思わず歓喜の声をあげてしまった。

 よーし、これ良い流れなんじゃん?

 これで、後は道なりに進んで行けば人の住んでる場所に出るって寸法よ!

 さて、どーちーらーにー行ーこーうーかーなーっと。


「……?」


 あれ?

 道の先でチラッと光が揺れた。そして、光の周りに複数の人影…それと? うーん…暗さと距離で判別出来ないけど、多分馬車…かな?

 どうしよう?

 あの人達になんか良い感じに拾って貰って、そのまま近くの町まで連れて行って貰えるって言うのがベストな流れ。ただ、最悪の展開として、あの人達に命を狙われるって事も有り得る。……まあ、「子猫の命を狙わなきゃならない状況ってどんなや?」とか思わなくもないけど。

 どうしよう…。接触してみるか? それとも関わらないように逃げるか…?

 …いや、何にしても、コッチは子猫で言葉でのコミュニケーションは望めない。対応は相手がどんな人達なのか見極めてからにしよう。

 道を盗み見れる程度の所まで森に入る。

 一応【隠形】を使って気配も消しておく。……やっぱ微妙に体が重くなった感じがするのが気になるわ…。


 ……


 5分程待つと、ちゃんと姿が確認出来た。

 荷馬車だった。

 2頭の馬に引かれる荷馬車。皮張りの荷台には何か大事な物…もしくは大事な人でも乗って居るのか、周りに護衛らしき奴等が10人近く居る。


 そして、全員が―――人ではなかった。


 馬車に吊るされた頼りない明かりに照らされた姿は、どれも異形と称していい物ばかりだ。

 薄紫色の肌をした牛のような角を生やした奴。羽のように腕を背中から生やしている奴。鉄球のような形状の尻尾を生やした奴。顔が鼠そのものな奴。全身が赤黒い鱗に覆われた奴。

 1人残らず武器や鎧で武装している。

 ……なんだコイツ等…? どう見ても人間じゃない。

 もしかして、コッチの世界ではあれが普通の人間だってオチはねえよな?

 うん、ないな。俺がコッチの世界で目を覚ました時に見た2人は普通の人間だった。って事は、この連中が異常なのね、やっぱり。

 【隠形】を維持したまま、少し近付いてみる。


「ったく、面倒臭いよなぁ…!」


 先頭を歩いていた4本腕の異形が言うと、同意した牛の角の異形が答えた。


「本当だぜ。荷物運びなんて、人間共にやらせればいいだろうが!」


 それに対し、不快感と怒りを隠そうともせずに御者の鼠頭が言う。


「魔王様の(めい)は絶対だ。まさか、逆らうつもりか?」


 魔王…? え? 何? コッチの世界にはそんなファンタジーの大物が居るの? いや、待てよ? そう言えば、俺がコッチに来た時に会った2人が「勇者」がどうのこうのって言ってたな?

 もしかして、勇者と魔王の間で、光と闇の戦い的な物が勃発してる真っ最中なのかしら? だとしたら絶対に関わり合いたくないわ。

 「魔王」の名前はこの異形達には絶対的な物のようで、その名が出た途端に不平を口にして居た4本腕と牛の角の表情が固まる。


「ま、まさか! 魔王様に逆らうなど!」「お、おう! その通りだ!」

「だったら良い。この“荷運び”がどれ程重要な事かはお前達とて理解しているだろう?」


 ぐうの音も出ない2人を不憫に思ったのか、馬車の横を歩いていた鉄球の尻尾を持った異形が口を挟む。


「そう責めてやるなよ。これだけ張り合いのない護衛任務では、愚痴の1つも言いたくなるさ」


 その言葉に、他の護衛達も「うんうん」と頷く。


「魔王様がこの荷を奪われる事を危惧している事は理解出来るが、今更奪おうと行動を起こすような者も居ないだろう?」

「まあ、その点は概ね同意するが…だからと言って可能性が無い訳ではない」

「そうだな。だからこそ俺達が護衛についている」

「それに、何も人間だけの話ではない。予想だにしない強力な魔物に襲われる可能性もあるしな」


 会話から察するに、この異形共は魔王の手下って事か?

 何か大事な物を運ぶ命令を受けて移動中。んで、その大事な物は、人間に渡してはいけない物で、人間が欲しがっている物……で良いのか?

 ってか、魔物に襲われる? 俺はてっきり魔王とやらが人間への嫌がらせに魔物を放ったんだと思ったんだけど……そうじゃないのか?

 ………危険に首突っ込む気はなかったけど、ちょっと興味が出て来た。

 魔王が大事に運ばせている物。そりゃ、どう考えたってレア物だろう。


 狙ってみるか、そのお宝―――!



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