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1-9 猫の力

 走る。

 乱雑に生える木々を間に挟むようにして、俺と魔物が並走する。

 言っておくが駆けっこをしている訳ではない。

 投射(スリングショット)で石を放つ。

 即座に魔物が攻撃の予兆を感じて木の後ろに隠れる。俺の投げた石は木の横を通り過ぎて背後にあった木にめり込んで止まった。

 くっそ…。

 お互いに動いている上に、野郎が俺の攻撃を必要以上に警戒してやがるから、当たる物も当たりゃしねぇ…。

 もっと動物的に本能のままに突っ込んで来てくれる方が攻撃を当てやすいんだが…。まあ、突っ込んで来られたら、それはそれで怖いんだけども…。

 走りながらでも補充が利くって言っても、撃ち出せる石には限りがある。時間をかければ奴のダメージが抜けて動きが戻るだろうし、対して俺の方は根本的に体が小さいから体力切れで状況が悪くなる。

 短時間でちゃっちゃと終わらせるのが理想的。

 ある程度の危険は覚悟して、距離詰めるしかねえか…!

 木の陰から出て来ようとする魔物に向かって石を放ち、先手を打って魔物が動こうとするのを封じる。

 魔物が踏み出そうとした足を引っ込めるのを確認してから一気に突っ込んで距離を詰める。

 正直、近付くのは怖いけど―――言ってる場合じゃねえ!

 魔物の隠れている木の右側……魔物の尻尾が見えている方から回り込んで近付く。

 後ろから全力でケツ()(ぱた)いて終わらせる!

 木で死角になっていた魔物の体を視界に捉えた瞬間―――魔物の首が襲って来た。


 は?


 何事かと思った時には黒い毛に覆われた巨大な口が目の前まで迫って居た。

 視界を埋め尽くす魔物の口。1秒後には、子猫の体はその口の中に入るのは間違いない―――。

 ヤバい…!

 危険を対して、頭が何をするのかを考える余裕はない。だが、猫の野生の感覚は、その時の最善行動を勝手に実行した。

 迫る魔物の大口に向かって、収集箱からウッドシールドを投射する!

 目の前に突然現れ、時速150kmで突っ込んで来る木の盾。縦向きに現れた盾は、魔物にとってはさながら壁。

 避けられる訳がない。


「ィガルァッ!?」


 衝突の衝撃で魔物の大口が大きく横に吹き飛び、長い首に引っ張られて地面に落ちる。

 首の周囲に白い物が飛び散った。ダメージに耐え切れず抜けたり、折れたりした牙だ。

 一方木の盾は、割れも欠けもせず丈夫な姿のまま俺の背後にぶっ飛んで行った。回収は後だ。今は―――とどめを刺す方が先!!

 魔物がヨロヨロと俺から離れようと動く。

 今になってようやく自分が“狩られる側”である事を理解したらしい。

 だが、もう遅い。

 最初のダメージを受けた時に逃げ出さなかったのは失敗だったな!


 容赦なく石を投射して魔物に叩き込もうとした―――瞬間、良心が頭を(もた)げる。


 本当に、このまま命を奪うのか?

 元の世界での俺の常識が、『殺す』と言う行為に対して強い拒否反応を示している。相手は人間ではないのだから…と割り切ろうとする自分が居るのだが、それでも忌避感が拭えない。

 したつもりだった覚悟が鈍る。

 馬鹿か!? 迷ってる場合か! 敵は目の前に居る。もう一押しで倒せる!

 コイツを殺さなきゃ俺が殺されていた。弱肉強食は自然の絶対ルールだ。だったら、俺がコイツを殺す事に何の躊躇いがある?

 人間の時だって、自分の手で殺さなくても豚や牛や鶏の命を散々食って来た。

 今感じている物を理性と言うのなら、俺はここで、それを―――捨てる!


「ミィっィイイイイイイッ!!!!」


 石をよろつく魔物の体に叩き込む。

 一発目で足が空中を泳ぎ、体がくの字に折れる。

 二発目、三発目が空中で当たり、ゴシャリっと腹と首元で骨が砕ける音。


 迷うな―――命を―――狩れ!!!


 心の奥の方が冷たくなって行くのを感じながら、ダメ押しに横っ腹に向かってアイアンナイフを投射。

 すでに逃げるどころか、避ける力さえ残って居なかった魔物に、ナイフが深々と突き刺さる。


「……ギャブゥ…ぁ…ッ…!」


 毛皮を貫いて、刃が根元まで埋まっている。そうなるのにどれ程の威力だったかは、我ながら少しだけそら恐ろしくなる。

 数秒間苦しんだ魔物は、やがて力を失って絶命した。

 ……殺…した…。

 俺が………命を……奪った…。

 心が重くなる。

 …いや、いやいや、ダメだ。これじゃダメだ。これから先、何十、何百とこんな事をしなきゃいけないかもしれないんだ。

 俺が人間の時の記憶を持っていたって、人間として生きられる訳じゃない。どっかで今までの自分と、猫である自分に線引きをしなければダメだ。

 頭を振って気持ちを切り替える。

 まあ、ともかく……戦闘は俺の勝ちだ。

 血の匂いに釣られて他の魔物が来るかもしれないし、早いところ貰う物貰って移動しねえとな。

 おっと、先に吹っ飛ばされたウッドシールドを回収してっと…。よしよし、まだまだ使えるな。

 で―――魔物は死体はどうしたもんかな?

 ゲーム的に、死んだらアイテムとお金をドロップして死体は綺麗に消える……なんてある訳ないしな…。貰える物って言ったって、この死体から何を貰えば良いんだ?

 まあ、とりあえず刺さったままのナイフは返して貰うとして。

 塞ぐ物がなくなった傷口から血が溢れ、地面を赤く染める。

 うーん…。とりあえず、そのまま収集箱に放り込んでみるか? ダメならダメで良いし、何か素材に出来る部分があるのなら、そこだけでも収集箱に入れてくれるだろうし。

 体温の抜けていない魔物の死体に触れる。すると―――


『複数のアイテムが混ざっています。このまま収集箱に入れた場合、それぞれのアイテムに強制的に分離させますが、アイテムレベルは1になります。このまま実行しますか? Y/N』


 複数のアイテム? えーっと? さっさとここから離れたいし、イエスで良いや。

 イエスを選んだ途端、魔物の死体が丸ごと消えて収集箱に放り込まれた。


『【魔物の肉 Lv.1】

 カテゴリー:素材

 サイズ:大

 レアリティ:F

 所持数:1/30』


『【魔物の牙 Lv.1】

 カテゴリー:素材

 サイズ:小

 レアリティ:F

 所持数:15/30』


『【魔物の毛皮 Lv.1】

 カテゴリー:素材

 サイズ:中

 レアリティ:F

 所持数:1/30』


『【魔物の爪 Lv.1】

 カテゴリー:素材

 サイズ:小

 レアリティ:F

 所持数:10/30』


『【変異因子 Lv.1】

 カテゴリー:素材

 サイズ:微

 レアリティ:C

 所持数:1/30』


『新しいアイテムが5種類コレクトされた事により、それぞれに肉体能力にボーナス(効果:微)』


 お、一気に5種類だ! これは能力ボーナスがおいしいな。これでこそ危険侵して戦った甲斐があるってもんだ。

 ……って、“魔物の肉”。やっぱりアイツは魔物だったのか。

 少し気になって魔物の肉の詳細を表示してみる。


『【魔物の肉 Lv.1】

 カテゴリー:素材

 サイズ:大

 レアリティ:F

 状態:血に塗れている

 加工:無し

 所持数:1/30

 クビナガイーターの肉。

 世界中で食べられるポピュラーな食材。

 臭みが強いので、香草等で味付けされる食べられ方が一般的』


 クビナガイーター? あの魔物の名前だよな…多分?

 木や草と違ってちゃんと種類が表示されてる。あれ? もしかして木材とかも種類ごとにもう少し詳細な情報参照出来たりすんのかな? 俺がサボってただけか?

 ってか、ポピュラーな食材って事は、もしかして魔物の中じゃ最低辺の強さって事じゃね? 魔物の素材全部レアリティFだし。

 まあいいや、とりあえず―――って、あれ? 最後の奴なんだ?

 変異因子?

 コイツだけ、レアリティが高い。Cって事は、多分上から3番目って事だよな?

 最低辺と思われるクビナガイーターに、なんか不釣り合いなレアな物がくっ付いていたって事か?

 一応詳細確認しておくか。


『【変異因子 Lv.1】

 カテゴリー:素材

 サイズ:微

 レアリティ:C

 状態:活性化

 加工:無し

 所持数:1/30

 物に付与する事で形状や性質に強制的な変化を齎す因子。

 一定の熱の中でしか存在出来ず、空気に触れる事で消滅してしまう。

 また、生物に付与した場合、100%の確率で魔物化する為注意が必要』


 ……え? 何それ超怖い!?

 取り出した時に間違って触ったら、その瞬間に俺が魔物化しちゃうって事でしょ!? 怖すぎるだろコレ!? 絶対関わりたくねえわ!!



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