4-10 新天地
皆様こんにちは。チリ紙交換くらい毎度おなじみの子猫の俺です。
豪華な馬車に揺られる事2日、俺達は馬車の目的地に辿り着いた。
広大な牧草地に囲まれた町―――ジャハル。
それ程大きくはないが、この国の象徴であるお城を擁する王都に近い場所という事もあり、活気に満ちた町……と言うのは、10年前までの話で、現在は人々が暗い顔で、半分死んだ目をしている静かでおどろおどろしい町……ってのが、俺の印象だ。
なんか、クルガの町に初めて着いた時にも似たような事感じてた気がするな……。
もしかしなくても、こっちの世界の町って大半がこんな感じなのかしら?
「どうですかブラウン? ここが私達がお世話になっているジャハルなんです」
俺の隣で、外から見られないように体を縮めていた子豚ことレティシア姫が訊いてくる。
「(死にかけてない? この町? 姫様の言ってた“活気のある町”には程遠いんだけど?)」
俺の返しに、子豚がプゥッと頬を膨らませる。……まあ、元々顔パンっパンだから分かりづらいけど。
「(何?)」
「気軽にレティって呼んでくれて良いって言ってるんです!」
この2日、馬車の中で色々話して仲良くなるうち、この豚姫ことレティシア姫が随分と俺の事を気に入ったようで、「愛称で呼んでも良いんです」と言ってきた。まあ、俺の事を気に入ったっつか、自分と同じ“話す獣”だからってのもあるだろうけど。
呼んで良いと言うのなら別に愛称で呼んでも良いんだが……その呼び方すると向かいに座っている目力の強いメイドさんが俺を睨んでくるんだよなぁ……。メイドさんには俺の言葉は「ミャァミャァ」としか聞こえない筈なのに、なんで分かるんだろうなぁ……。
……まぁ、良いか。
「(……レティ)」
「はい」
嬉しそうに返事をする。
そしてメイドさんがギンッとレーザーでも出そうな視線を俺にぶん投げてくる。ぶっちゃけむっさ怖いのでそっちの方は決して見ないようにする。そして気付かない振りをしつつ話を逸らす。
「(それで、これから王様達が軟禁されてるお屋敷に戻るんだっけ?)」
「ええ、そうですよ」
レティの話曰く、牛にされた王様と鶏にされた王妃様らしいけど……。色々想像つかんなぁ、元とは言え王様が牛って。いや、まあ、目の前に豚にされた姫が居るっちゃ居るんだけど。
「(俺も着いて行って良いの? 元つっても王様でしょ? 謁見には云々かんぬんあるんじゃないの?)」
「大丈夫ですよ。ブラウンは猫ですし」
………まあ、そりゃそうですよね。
喋るつっても子猫はただの子猫ですし。人間と同じような対応を求める方が馬鹿だ。つまり、俺はそういうのを気にしなくて良いって事だ。
それに、王様達も獣の姿になってるってんなら、レティと同じく喋る獣の俺に親近感を抱いてくれるかもしれないしね?
レティが狙われたのがこの国を支配する魔王の仕業かどうかは分からないが、少なくても元王族を監視しているって点は間違いない。
王族達と仲良くしておけば、魔王に近づくチャンスや、その情報に触れられる可能性は高い。
レティの話によると、この国を支配しているのは………名前なんだっけ? いかんな。アドバンスに続き、魔王の長ったらしい名前は全然覚えられん。アビス・Aくらいシンプルで短いなら覚えやすいんだけどな……。
えーっと……確かガジェット…? うん、そうそうこんな感じの名前。
……もう良いや、面倒くさいからガジェットで。
ともかく、そのガジェットとやらが俺の倒せる相手か否か。そこが重要。
魔王を狩って力をつけるのが俺の目的だが、勝てない勝負はしない。戦いを挑むのなら勝つ。その為には、まずはガジェットがどの程度の相手なのかを見極める必要がある。
「お父様もお母様もきっと驚くんです。喋る猫さんなんて」
まあ、かもしれんね。
俺が“剣の勇者”だって知ったらもっと驚くだろうけど。名乗るつもりは一切ないけどね。
「姫様、そうは言ってもその猫の言葉が分かるのは姫様だけですので」
「そうですけど」
ん? あれ?
「(王様達って牛と鶏になってるんだよね?)」
「そうですよ」
「(なのに、俺の言葉は分かんないの?)」
「分からないです、多分。そもそも動物の言葉が分かるのは私だけですし」
え!? そうだったの!? てっきり豚と猫で獣同士で会話できるとかそんな感じで話が通じてたのかと思ったけど、そうじゃないの!?
「あら、言ってませんでしたっけ? 私は生まれつき【神の門の塔】と言う、“全ての者と話せる”異能を持っているのです」
タワーオブバベル。バベルの塔……ね。
神話だか聖書だかの話はそこまで詳しくないが、ここまで知名度のある話ならば流石に俺でも知っている。
かつて地上は1つの言語で統一されていたが、神の元まで届く塔を人間達がおっ建てて神の怒りを買い、塔は叩き折られ、言語はバラバラにされて人間達はコミュニケーションがとれなくなった……って話だ。
その名を冠するスキルが“どんな相手とも話せる”ってのは、ある種の皮肉にも思える。
……まあ、どうでもいい話か。聖書の話っつっても、そりゃ俺の世界での話ですし。
ともかく、俺の言葉が分かるのはレティ1人だって事だけは確からしい。
「(便利なスキルで羨ましい……)」
まあ、でも、俺の【収集家】とどっちが欲しいつったら、やっぱり【収集家】の方が良いけど。っつか、話ができるだけのスキルじゃ戦えねえしな。アビス相手に対話でなんとかなるってんならそっちのが良いけども。
……いや、ダメじゃん? そもそも話せるスキルとか無くても、あの野郎は普通に俺と話が出来るし。
ああ、どっかに強いスキルとか武器とか落ちてねえかなぁ……って、それを手に入れる為に魔王に喧嘩売るって話じゃん。ダメじゃん。
「あ、ほら、見えてきましたよ」
レティに言われて窓からそっと外を見ると、丁度町の真ん中辺りの大きな屋敷に向かっていた。
大きな屋敷ではあるが、どこかボロい。おそらく、もっと酷い状態だったのを、姫の言うところの“元家臣の人達”が一生懸命修復してこの状態にしたのだろう。
体の良い鳥かご………いや、“家畜小屋”って訳ね。
分かっていたけど、この国を支配する魔王ガジェットは、相当性格が悪いらしい。会った事もないが、人を蔑んで笑っているのが色んな部分から見え隠れしているのは分かる。
少なくても友達になって楽しい奴じゃない事は確定。そもそも友達になれる気がまったくしない。っつか、友達になりたくない。
まあ、でも、良かった。
これなら、もし戦う事になっても、容赦なくぶち殺す事が出来る。




