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4-8 子豚と猫の事情

 世界を支配する12人の魔王。

 本当は13人だったけど、俺がアドバンスをぶっ殺して1人減らしたから現在は12人。その中でアビスを含めたエトランゼ? とデイトナ? とか言う3人は大昔に俺そっくりなマジンと因縁があり、エンカウントすれば殺される。

 だが、残りの魔王9人はどうだろう?

 アドバンスが極端に雑魚だったなんて事がない限りは、俺にも倒せる魔王が居たっておかしくない。

 たとえ今の俺が勝てる魔王が残り1人しか居なかったとしても、そいつを倒して強くなれば次の魔王に手が届くかもしれない。そしてそいつを倒し、また次へ……。ってな感じにやっていけば、手っ取り早く強くなれると思ったわけです。


 そんな計画に1番必要なのは“情報”だ。

 特に魔王の強さに関わる情報は重要度が高い。

 俺が魔王に挑むのは決定事項だが、返り討ちにあって死亡するなんて御免だ。勝負を挑む以上は勝てる戦いをする。

 “勝つつもり”ではなく“勝てる”戦いだ。

 負ける要素は極力無い状態で、ほぼ勝ち確の状態で戦うのが理想。ただ、魔王相手にノーリスクなんてのは高望みだから初めからするつもりはない。死なない程度のリスクは全部飲み込む覚悟がある。


 で―――、子豚ちゃんとの話。


「(魔王の力ってのはどういう意味だ?)」

「10年前の戦争で、魔王様達が世界を支配なさったのは猫さんも知っていますよね?」


 ぶっちゃけ詳しい事は知らない。

 俺が知ってるのは、10年前に大きな戦いがあって人間が敗北し、魔王が世界を支配したってボンヤリした情報だけだ。

 ああ、あと、勇者の武器がその敗北で奪われたって事くらい?


「(まあ、なんとなくは……)」


 俺の答えに、子豚ちゃんが項垂れるように首を下げる。


「魔王様の支配に、元々国を統治していた人間の王や貴族達は邪魔になります」

「(そう、だろうね……)」


 人間の王が生きていたら、魔王に反抗する意思がそこに集まる可能性だってある分けだし、魔王にしてみれば生かしておく理由がないだろうし。


「私達ツヴァルグ王国もそうです。ただ、魔王バジェット=L・ウェイル・ユラー様のお慈悲によって生きる事を許されて居るんです」

「慈悲などと!」


 子豚ちゃんの言葉に、メイドが突然声を荒げる。

 いきなりのヒートアップでビビったぁ……。何さ突然……。

 そんなメイドさんを若干悲しそうな顔で子豚ちゃんが見てるし……。

 外にいた護衛の騎士達も何事かと驚いてるしさ。


「ネリア……」 

「王や、姫様をこのような家畜の姿に(おとし)め、これのどこか慈悲だと言うのですか!」


 家畜の姿に貶め……?

 ああ、なるほど、ここでさっきの「魔王様の御力」の話に繋がるのか。


「(つまり、アレなの? 魔王の魔法だか呪いだかで王族が豚やら牛やら鶏やらに変えられたって話?)」

「は、はい。その通りです」


 蹄のついた手を一生懸命パタパタさせてメイドさんを落ち着かせながら子豚ちゃん……お姫様が答えた。


 なるほどなるほど、人間の王族を価値無しと殺すのは容易い。けども、敢えてそのバケットだかガジェットだか言う魔王は人間たちへの“見せしめ”として生かしておく道を選んだって事か。

 しかもただ生かすのではなく、家畜の姿に変えて……ってのがたちが悪い。「変な事をしたら、王族の姿は一生このままだぞ?」って言う反抗勢力への無言のアピールになるからだ。

 そうじゃなくても、今まで自分たちのトップだった王族がこんな姿になっているのを見せつけられたら、まともな精神なら心が折れる。

 つまり、お姫様達のこの家畜の姿は、元国民達を縛る鎖であり、反抗勢力の動きを封じる足枷でもあるって事か。たちは悪いけど、うまい事考えるもんだ……って、関心するのは流石に失礼だな。


 ……にしても、人間を動物に変化させる異能か……。

 まあ、俺自身は既に子猫だから、もしその能力を使われてもこれ以上どうにかなるって事はないだろうけども……。逆にもしかしたらアレじゃない? 人間の姿になれたりしないかしら?

 今までは特に人間の姿に固執してなかったけど、猫の姿のままだとマジンと間違われて色々面倒くさい事になるらしいので、ちょっと戻れない物かと考えてみた。

 まあ、仮に出来るのだとしても、魔王に「人間にして下さい」って頼むわけにはいかないんだけど……。


 でも、どうするにしても、お姫様の近くに居れば良いんじゃないか?

 王族なら魔王と接触するかもしれないし、そん時にこそッと観察して能力が測れたら儲け物だ。

 それに、さっき取り逃した魔族の事が少し気になっている。

 あんな場所で何をしていたのか―――さっきは興味なかったから適当に流していたが、考えるまでもない答えだった。

 馬車には元王族が乗っていて、その馬車を何かしらの情報を受けた賊が襲っている。そして、その賊を口封じするように殺した魔族。

 これだけの情報のピースが揃えばどんな馬鹿だって答えに辿り着く。


 賊に情報を渡したのは、あの逃げた魔族―――


 では、何故魔族が王族を襲わせていたのか?

 元とは言え、王族の生死は国の支配に関わる事だ。それを魔王の許しなく行ったとあれば、その魔族は恐らく魔王にぶっ殺される。

 ……あ、だから人間に襲わせたのか? 自分はあくまで影に隠れ、全て賊の仕業に見せかけるようにする為に。

 いやいやいや、そもそも根本的にただの魔族が、既に家畜にされて何も出来ない元王族を狙う理由が無いだろう。

 だとすると、お姫様が狙われたのは―――魔王が主導の計画……?

 そう考えれば色々納得がいく。


 いや、いやいやいや待て待て。

 多面的に考えろ。

 もしも、もしもさっき逃げた魔族がガジェットとか言う魔王“以外”の配下だったとしたらどうだ? 例えば、魔王同士のいざこざで、ガジェットの支配にひびを入れようと考えたとか……。


 うーん……いや、深く考えるのは今は止めておこう。

 そこを考えるには俺の手持ちの情報が少なすぎる。


 ともかく―――このお姫様に張り付いていけば、ガジェットにしろ他の魔王にしろ、何かしらのイベントに立ち会える機会があるかもしれない。


「(ところで話は変わるんだけども、どこに行くのか知らないけど、一緒に連れて行って貰えない? いや、貰えないでしょうか?)」

「え? あ、はい。(わたくし)もネリア以外の話し相手ができるのは嬉しいんです。それと、敬語は要らないんです? 猫さんの言葉は、どうせ私にしかわからないんですから」


 ああ、それもそうか。

 ……そう言えば、普通に喋ってたけどなんで喋れるんだ? 豚になったから猫語が分かるとか、そんな感じの話かな?

 まあ、いいか。話が通じる相手が居て困る事はないし。


「姫様?」

「ネリア、猫さんが私達と一緒に行きたいんですって。良いんです?」

「……猫であれば、姫様を害する心配がありませんから、姫様が宜しいのでしたら構いませんが」


 そこで言葉を切り、ビシッと俺を指さし、鬼ですら殺せそうな視線を突き刺してくる。


「おい猫! 姫様の御慈悲で連れて行って貰える事に感謝しなさい! そして姫様には猫であろうとも礼儀を尽くしなさい! できないようならば、私が生皮を剥いで馬車から捨てます!」


 怖ッ……!?

 生皮剥ぐってどんな拷問だっつうの。


「ネリア……怖い……」


 子豚姫に怯えた声で言われて、ハッとなったメイドが「失礼しました」と頭を下げる。

 いつもの調子に戻ったらしいメイドさんを見て安心したのか、姫様が豚っ鼻から若干荒い息を吐きながら俺に訊いてきた。


「そう言えば、名乗ってなかったんです?」


 メイドが若干鋭い目で、「姫様に先に名乗らすな!」と無言で脅してくる。

 いや、名乗れるものなら名乗りたいけど、俺自分の名前覚えてねえしな……。


「レティシアと申します。今は家名はありませんから、ただのレティシアです。宜しくお願いしますね、猫さん」


 多分、人間の姿だったなら、ドレスの裾をチョンッと摘まんで頭を下げていたんであろう動作を、小さい子豚の体で一生懸命している姫様の姿にちょっと微笑ましくて笑いそうになってしまった。


「(よろしくお願いします。コチラも名乗りたいのですが、生憎(あいにく)名無しですので、お好きに呼んで下さい)」

「あ、そうなんです? じゃあ、私が勝手に名前つけちゃっても良いんです?」

「(どうぞ)」


 相当変な名前でない限りは文句を言うつもりはない。野良猫なんて、餌を貰う先々で別の名前で呼ばれるもんですしね。


「えっと、えっと……じゃあ、ブラウン!」


 茶色(ブラウン)……。

 どう考えても、俺の毛の色を見て考えた名前だよね? まあ、名前としても変じゃないから別に文句はないけども。


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