3-30 リペア
最強。
その名はとても高くて、そして遠い。
この世の誰も敵わぬ者。
この世の誰より高みに立つ者。
それが“最強”。
その椅子に座れる者は常に1人しか居ない。
今現在、その椅子に座る者が―――最強の魔王、“アビス・A”。
奴は俺に言った
「次に会った時は俺を殺す」と。
野郎が何時俺に会いに来るかは分からない。アイツ自身も特に期限を決めた感じではなかったし、野郎の言う通りに「気が向いたら」だろう。
それは明日かもしれないし、来週かもしれないし、来月かもしれないし、来年かもしれない。まあ、もしかしたら50年先とか、下手すりゃ一生来ないなんて展開も野郎に関しては有り得る気がするけど……。
だからと言って“来ない可能性”を信じて今まで通りに暮らせる訳が無い。
俺を狙って来るのはアビス1人じゃない。
奴以外にもマジンと因縁のある2人の魔王……エトランゼとデイトナって言ってたっけ? ともかく、その2人も俺にとってはエンカウントすると終わりな相手らしい。
アビスがそいつらに俺の話をすれば即座に飛んで来てぶっ殺されるかもしれないし、やはりのんびりしている訳には行かない。
これ、無理ゲー過ぎじゃない?
ハードモードどころか、ヘルモードくらいの難易度なんですけど……。俺、前世で何かしたっけ? そら、信号無視とか、拾った500円ネコババしたとかは有るけど、それでこの仕打ちって酷くない?
大体、それもこれも、全部“マジン”とか言うクソ大馬鹿野郎が全部悪いんじゃん!!
魔王共相手に変な因縁作りやがって!!
………いや、そもそも、結局そのマジンとやらは何者なんだ?
猫が間違われたって事は、そいつも猫であった事は間違いない。そして、俺と同じ……もしくは似たような“収納”の能力の持ち主。
ついでに話も出来たっぽい事をアビスが言って居た。
……そんな猫がこの世に存在するだろうか?
断じて否だ。って事は、マジンの正体は恐らく俺と同じ―――
転生者。
俺のように別の世界から猫に生まれ変わったのかまでは分からないが、言葉が分かるって事はマジンの前世は人間か、それに近い知性を持った何かだったって事になる。
……だとすれば、話を聞いてみたい気もするな。とは言え、相手は大昔に魔王に喧嘩を売っていた奴だ。猫の寿命を考えれば、今も生きているとしたら、そいつは間違いなく化け猫だろうし……うん、やっぱり会いたくないかもしれない。
まあ、マジンの事は横に置いておき……だ。
今はともかく俺自身の事だ。
俺は、驕っていた―――。
「魔王の1人を倒した」と「俺は強者になったのだ」と。
アビスの野郎は、そんな俺の伸び切った鼻を、“これでもか”ってくらいにバッキバキに圧し折って行きやがった。
能力のカンストが999だと思って得意になってたら、ステータスオール9999の化物が現れたってんだから、そりゃもう……ねえ?
“自分が強者である”と言う認識は塵1つ残さず消し飛んだ。
コッチの世界に来たばかりの頃の、何もかもが恐ろしくて堪らなかった気持ちが蘇って来た気さえする程だ。
つっても、必要以上にビビってる場合じゃない。
俺はこれから、次のアビスとのエンカウントまでに、最低でも奴を退けられるだけの力を身に着けなければならないのだから。
「ミュゥ……」
はぁ……。
1度溜息を吐く。
空からは途切れる事無く大粒の雨が降り続けている。
鬱陶しさと同時に、猫の体が濡れた事への不快感を悲鳴のように訴えて来る。
荒野に降った雨が溜まり始め、アビスが【ドラグーンノヴァ】で抉って行った地面が川になりかけていた。
俺が居るのは“川”の底部分だ。
今はアビスが踏み砕いた地面の割れ目に水が落ちて行ってるから良いけど、このまま雨が降り続ければここも水に沈む。
仕方無く移動を開始する。
……っと、上に上がる前に、投げ出しっ放しのアイテム回収しねえと。
【仮想体】が死んでるから、遠くのアイテムを回収する事が出来ない。一々近付いて1つづつ拾って行くしかない。
旭日の剣、冥哭、オリハルコンの脛当て、同籠手、同兜。
そして、アビスの拳で穴を開けらられたオリハルコンの鎧と、ボロ布になった内側に着ていたインナー……。
………ゴメンな、俺が未熟なばっかりに、こんな姿にしちまった……。
それは、オリハルコンの鎧に言った言葉であり、今は消えている【仮想体】に対しての言葉だった。
この世界で生きて来た中で、俺の盾となり身代わりとなってくれた。そのせいで、アビスにやられた分を抜きにしても傷や焦げ跡が目立つ。
直してやれれば良いんだけど………ん?
『【破損した鎧 Lv.29】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:F
所持数:1/30』
『【破れた服 Lv.2】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:F
所持数:1/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
ああ、そっか……損傷が激しいから、普通のアイテムとして認識されなかったんだ……。
自分の弱さと情けなさを見せつけられているようで、泣きそうになってしまった。しかし、次に流れて来たログで流れそうになった涙が引っ込む。
『条件≪損傷したアイテムを4種以上コレクトする≫を満たした為、以下の派生スキルが解放されました。
・自己修復』
お、なんかスキルが解放された。
『【自己修復】
収集箱に入れている損傷、損耗したアイテムを修復させます。
修復させるには魔力を消費します。魔力の消費、修復にかかる時間は損傷の度合いによって変わります』
お、お、丁度良いのが来たんじゃない?
これが有れば、壊れたオリハルコンの鎧も直せるんじゃないか?
とりあえず………試してみるか。えーっと、損傷したアイテムってんなら、前に森の中の死体から貰った“破損した武器”も直せるか?
『収集箱内の“破損した武器”を修復します。
修復が終了するまで 00:00:10』
10秒で直るの!?
即席ラーメンだって目じゃねえスピードだな!?
修復には魔力を消費してる……のかな? 全然体が重くなる感じが無い。俺のMPの総量が多くなってるからかな?
10秒間ジッとしているのも無駄なので、“川底”から上がる。
『“破損した武器”の修復が終了しました。
“破損した武器”は“軽装剣”になりました』
『【軽装剣 Lv.1】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:F
所持数:1/10』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
よしよし、これなら行けそうじゃん。
本命のオリハルコンの鎧を選択、っと。
『収集箱内の“破損した鎧”を修復します。
修復が終了するまで 05:00:00』
………5時間か、流石レアリティBの鎧。
最低ランクの武器とじゃ扱いが違うな。
まあ、でも、やっぱり魔力の消費云々は感じないから、終わるまで放置しておけば良いや。
おっと、だったら今のうちに鎧一式全部やっちまうか。
兜とか角ぶった切られてるし、籠手や脛当てもダメージでボロボロだしな。
『収集箱内の“オリハルコンの脛当て”を修復します。
修復が終了するまで 00:45:00』
『収集箱内の“オリハルコンの籠手”を修復します。
修復が終了するまで 00:30:00』
『収集箱内の“オリハルコンの兜”を修復します。
修復が終了するまで 00:55:00』
全部1時間以内か……。鎧だけ極端に時間がかかるのは、壊れ方が酷かったからって事か。
ついでにインナーも直しておこう。
『収集箱内の“破れた服”を修復します。
修復が終了するまで 00:00:10』
コレで良し。




