3-31 ぱっと移動する
さてさて、ログを更に上にスクロールしていくと。
『【魔王 Lv.1】の特性レベルが上がり【魔王 Lv.2】になりました』
『【魔王 Lv.2】の特性レベルが上がり【魔王 Lv.3】になりました』
『【魔王 Lv.3】の特性レベルが上がり【魔王 Lv.4】になりました』
『【魔王 Lv.4】の特性レベルが―――…』
レベル表記以外まったく同じ文章が並んでいた。
いや、何コレ?
なんか、はぐれメタ●でも倒したようなレベルアップぶりなんですけど……? なんじゃこれ?
もしかしなくても、アビスと戦ったからか? 超高レベル相手に殴り合って、ギリギリまで追い込まれたからって事?
そりゃあ……ゲームだと高レベルな敵に挑んで、一気にレベリングするってやった事はあるけど……この世界でもそれが通用するのか……。
……ん? あれ? 戦いの中で俺がアビスの攻撃に反応出来るようになっていったのって、攻撃に慣れたからじゃなくて、特性のレベルが上がってステータスに能力補正がかかったからか?
にしても、バカスカレベルアップして現在の【魔王】の特性レベルは8……。
かなり危ない目にあったけど、引き換えに7レベルか。やっぱり、強い奴に挑むのが最強の座に上る1番の近道か……。
頭を振って一旦思考をリセットする。
オリハルコン装備の修復は未だ終わらず―――「いい加減、雨うっざいな……」とか思って居たら、上空の風に流されたのか、雨が徐々に弱くなって来た。
この調子なら、そのうち止みそうだな。
さて―――これからの事を考えないとだな。
帰れるならクルガの町に帰りたい。最強と一緒に消えた俺を、アザリア達が心配してるだろうし。
とは言え……どうしよう。
ここがどこか分からないから、歩いて帰ろうにも方向が分からん。こう言う時こそ元人間としての知恵を振り絞ろう。
んー………
……………
……………
……何も思い付かん!
こう言う時には寝てしまうに限る。
うんうん唸って考えても分からない事は、眠って頭がリセットされるとパッと思い付いたりするもんだ。
雨さえ止んでくれれば、俺は別にどこだって寝れる。
体を拭く布も、寝る時に包まる毛布も、いつか必要になるかと思って収集箱の中に入ってるし。
食料も水も、この小さな体だったら1ヶ月は暮らせるくらいにストックがある。まあ、最悪何か拾って食ったって良いしね? 【毒無効】有るから、食える物であれば何食ったって死にゃしない。
そんな訳で、15分程雨が止むのを待ってから、体を隠せる岩陰で軽く食事を取って眠った。
幸い、心も体も疲れていたからから、色んな嫌な事を考える間もなく眠る事が出来た。
で―――だ。
アホ程グッスリ眠って開けて翌日。
1晩寝たら雨雲はどこかへ流れて散って行き、色んな悩みを抱えているのが馬鹿らしくなる程綺麗な青空だった。
朝飯にパリッとした皮のパンをモッシャモッシャ食べ(若干猫の舌には物足りない)
さて、良い考えは――――浮かびませんでした!
いやいや、だって、そう簡単に思い付く訳無いじゃん? 1晩寝てリフレッシュしたら思い付く? 思い付く訳ねえだろがぃ!
………どうしよう……。
うーん、こうなったら、ダメ元でもう1回【転移魔法】試してみるか? ここに飛ばされて来た直後に試してもダメだったけど、あの後【魔王】の特性がレベルアップしたのなら、MP総量が増えてるだろうし、起きたばかりの今なら満タン状態だと思うし。
ダメならダメで……まあ、歩いて行くしかねえな。場所も方向も分かんないけど。
じゃ、まあ、とりあえず
【転移魔法】
『転移先を指定して下さい』
お! 行けたっぽくない!
っと、行き先か。えーとえーと、とりあえずクルガの町……いや、待った。流石に町中に突然俺が現れるのを人に見られるのは色々面倒だな……。よし、町の外にしておくか。
行き先を決めた途端、視界がグニャっと歪み、コーヒーに垂らされたミルクのように別の景色が溶けて混ざる。
……ああ、これ、ダメだ! 2度目でも慣れない! 視界がグニャグニャウネウネして、気持ち悪くて酔う……。
しかし、俺が口からゲボを吐く前に視界はクリアになり、その時には見慣れたクルガの町の外にある森の中だった。
「ミャっ」
うわッ……すげぇ。マジでパッと移動できんのねこの魔法。
いや、アビスが使って飛ばされたから効果は知ってるけど、大分格下の俺が使ってもちゃんと転移出来るのねって話よ。
はぁ、ちゃんと帰って来れて良かった。と、一歩踏み出そうとした途端、体に力が入らなくて倒れそうになる。
「ミ……?」
よろけながら何とか踏ん張ったが、踏ん張った足がプルプルと震える。
頭に霧がかかったように思考が纏まらない。
………ああ、これ、前に1度味わった事があるぞ……。クルガの町の魔族を倒した時、【審判の雷】を撃った後と同じだ……。
つまり、今のこの状態は……MP切れって事か…。
流石に森の中で倒れる訳にはいかねえぞ……! 動物や魔物が俺にビビって近付いて来ないとは言っても、それは“絶対”じゃない。気絶してる間に食われたなんてオチは絶対御免だ。
フラフラになりながら、這うような足取りでクルガの町の方を目指す。
1歩1歩がしんどい……。
足を踏み出す度に思考力と体力がゴッソリと奪われる。
ゼェゼェと死にそうな呼吸になりながら、なんとか街道まで出る。
町までは、あと50m……。
遠い。
いつもならひとっ走りの距離なのに、まるで砂漠の果てまでの距離のように感じる。
なんとか歩こうとしたが、体が重くて足が上がらない。
……ここまでか……と思った途端、背後から声をかけられた。
「猫にゃん?」
振り返る動作1つをしんどく感じながら背後を確かめると、馬に乗ったアザリアと御供の皆だった。ユーリさんも一緒に居るって事は、丁度塔から帰って来たところって事か?
タイミングが良いんだが悪いんだか……。
「ミャ……」
アザリアの顔を見たら妙に安心して、なんとかギリギリで繋いでいた意識が切れる。
体が地面に引っ張られるのを感じながら、暗くなっていく視界の中でアザリアが何かを叫びながら馬から飛び降りて――――俺の意識は完全にブラックアウトした。




