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現代のRPG  作者: 琴救(きんぐ)
3/7

save③―装備"勇者の剣(笑)"

「武よ…どこへ行くのじゃ?」

 急に変なセリフから入ったことを深くお詫び申し上げます。

 ここは俺、御器所 武の実家である御器所剣道場。そこの師範を務める祖父に今、休日なのに真面目に部活へ行こうとする俺は引き留められていた。

「剣術の修行もせずにどこへ行くと申すのじゃ?」

「だから止めたって言ってるだろ、じいちゃん。」

 祖父は俺にどうしても剣術をやらせたくて、俺が止めると言い出すまで毎日のように鍛え上げてくれた。ただ行き過ぎた稽古のせいで幼い俺は何度も気絶していたが。

「またあの…なんといったかの?」

「RPG部だよ。」

「そう、それじゃ。そのアールピージーというのじゃ。そんなものばかりやっておると、ゲーム脳になるぞ!」

 祖父は少し勘違いをしているようだ。いや、俺自身はその部活のおかげでもう頭が痛いのだけど。

「とにかく、今日こそは剣術の修行をさせるぞ!」

 祖父はいまだにしつこく俺に剣術を仕込もうとしてくる。一人孫しかいなくて、跡継ぎがいないことが原因だと思われる。親父が体よく仕事に逃げ込んでるせいなのもある。

 そこに救いの女神がやってきた。

「武くん、おはよう。」

 本日も清楚な鶴舞 十美さん。朝練で使った竹刀を入れた袋を背負い、家の前で待っていてくれていた。

 鶴舞さんはここの道場の門下生でもあった。鶴舞さんは今でも剣道を続けてる。そしてみんなから"剣道小町"と呼ばれ、憧れの的となっていた。

「なんじゃ、十美とデートじゃったのか。ならば、行ってよし!」

 また、勘違いをしている。その方が好都合なので口には出さない。別に鶴舞さんとデートと言われたのが嬉しいわけではない。

 鶴舞さんと合流し、部活へ向かおうとする俺達。行き際に祖父が「ひ孫は早めにの。」と耳打ちする。孫をからかうのもいい加減にしてほしい。

 

 富士宮フロンティア高等学校、略して"FF校"にはRPG部という活動内容が不明な部活動が存在する。

「おせえぞ、新人戦士!」

 この休日でも偉そうなのが自称勇者である本郷 勇渚さん。この部活の部長で俺と鶴舞さんの同学年。

「栄 先輩も来てないじゃないか。」

「あー、あの人はあれだよ。"賢者モード"中。」

 賢者、栄 智和先輩は開きっぱなしのノートパソコンを置いて出ていた。そこに写し出されている内容を語りたくはない。 

「休日なのにみんな偉いねー。僕なんか休みの日に外へ出たこともなかったよ。」

 顧問の日比野 先生、30歳、独身。最近では空気だと感じ始めた童貞の魔法使い。

 新人戦士の俺がRPG部に入ってから早1週間が立とうとしていた。その1週間、俺は鶴舞さんと話したり、自称勇者に振り回されたり、おもむろに部室を出る先輩賢者を見送ったりと。つまりは活動らしいことを誰もやっていなかった。

 昨日のことだ。急に自称勇者に土曜日も部活に来いと言い渡されたのは。来ないと鶴舞さんが落ち込むため、渋々やってきた俺だが。

「本郷さん…その手に持ってるものは何に使うの?」

 今日も彼女に振り回されそうな気がする。

「え、"勇者の剣"じゃん? わかんないの?」

 お願いですから、もう少し分かりやすく説明してもらえませんか。

 本郷さんが手にしているのは剣道部でよく見かける竹刀だ。ここでもか。

 よく見せてもらうと、竹刀には"勇者の剣"と手書きで書かれていた。ちゃっちい装備品だな。

 しかし、気になるのはその後ろに続けて書いてある一言だった。

 

 ――――"勇者の剣(笑)"。

 

 悪意を感じざるを得ない一言だ。

「本郷さん…この文字…」

「あーそれな! 去年いた先輩が書いてくれた勇者の印! かっこいいだろ!」

 自称勇者様はこの文字が表す意味を理解してない様子だ。純粋な笑顔を向けられてて答えづらい。知らないままの方がいいだろう。

 

 しばらくして、栄 先輩が部室に戻って来た。そこで本郷さんは待っていたと言わんばかりに"勇者の剣(笑)"を片手に宣言した。

「今日はこのパーティーで"魔王城"へ乗り込むぞー!」

 内容は置いといて、やっと活動らしいことをするみたいだ。

 "魔王城"がどこなのかを聞いても、着いてからのお楽しみだと教えてくれない。不安と倦怠感を胸に俺は自称勇者達と共に"魔王城"とやらへ向かうのだった。

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