save④―いざ魔王城へ
前回のあらすじ。土曜日に部活へ集まった俺達5人は自称勇者、本郷勇渚さんに"魔王城"へ乗り込むと宣言された。
「作戦は"ガンガンやろうぜ"な!」
本郷さんはウキウキしながら、武器である"勇者の剣(笑)"と書かれた竹刀を手に廊下を歩いていた。
"魔王城"がいったいどこなのか、休日を返上してでも行かなければいけないのか。疑問が山ほど残る俺だが、これも鶴舞さんの気持ちに応えるためだ。
何をどのようにガンガンすればいいかなんてこの際、考えるのは止めよう。というよりも頭が痛くなる。
そうしてたどり着いたのが。
―― 生徒会室 ――
「……」
"魔王城"というからには、やっぱり"魔王"が存在するのだろう。となると思い当たるのはあの人物だな。
生徒会室の引き戸が開き、中から美人の先輩が現れる。
「また、貴方なのね。勇渚…」
本郷 真緒、FF校の生徒会長にして学年成績トップ。FF校の生徒なら誰しもが知っている有名人だ。
「出たな、魔王!」
生徒会長に"勇者の剣(笑)"を向ける本郷さん。真緒だから、魔王なのか。これもほとんど悪口だな。
待てよ。本郷ってことはこの二人の関係はもしや…
「真緒は勇渚の実の姉だ。」
賢者、栄 智和 先輩が耳元で囁いた。
才色兼備な生徒会長、本郷 真緒。ゲーム脳なヘンテコ部長、本郷 勇渚。似てなさ過ぎて全然結び付かなかった。
そして、本郷さんは生徒会長に向かって要求を突きつける。
「私のパーティーにもっとゴールドをドロップしろ!」
訳 "私の部活にもっと部費を増やせ"
先輩賢者が囁く。
具体的な活動かと思えば、そんな理由のために俺は休日を台無しにさせられたのか。やるせないな。
「何度も言ってるでしょ。部費を上げて欲しかったら、実績を示しなさい。」
至極真っ当な意見である。
「あなたはそれをしてきたの?」
生徒会長の視線があまりにも冷ややかで、本郷さんと俺は身震いした。本当に"魔王"様だ。
「と…とおみん…回復魔法を。」
鶴舞さんに助け船を求める本郷さん。しかし、彼女が振り向いた先には誰もいなかった。
「鶴舞さんなら、急用を思い出したって大分前に帰っていったよ。」
「とおみん、カムバァァッック!!」
叫び声空しく。魔王生徒会長が本郷さんの首根っこを掴み、さらに責め立てる。
「いい加減にしないと、潰すわよ。貴方の部活。」
「や、やめろー、クソ姉貴!」
その一言が魔王様の癇に障り、自称勇者は敢えなくノックアウトさせられた。それはもう容赦なく。
「潰すことにするわ。貴方の部活♪」
笑顔が怖い人を初めて見た気がした。それくらい生徒会長は、俺の中の恐怖を上書きした。
「どれどれ、ここは先生の出番かな。」
先ほどまで空気だった魔法使い、日比野 先生が俺達の前に立ち、生徒会長を説得する。
「本郷さん、あまり妹さんを苛めてはいけないよ。」
こうして見ると、先生は先生なんだなと改めて認識させられる。見た目が若いから俺達と同じ生徒みたいな感覚だったからだ。
「でないと、彼氏ができないよ。」
その余分な言葉により、この場の空気が凍りついてしまった。
30歳、独身である童貞の魔法使いが放った氷結魔法は、魔王様に絶大なダメージを与えた。
「…セクハラで訴えます。」
「あぁぁ、それだけは勘弁して!」
日比野 先生はバカだった。
開始10分もかからずにパーティーは半壊してしまった。残ったのは俺と栄先輩のみ。
RPG部がなくなるのは一向に構わないが、部活を無くして鶴舞さんが悲しむのは嫌だな。どうにか考え直してくれないだろうか。
そこで立ち上がったのは賢者、栄 智和先輩だった。
「真緒、どうか考えを改めてくれないだろうか? 勇渚にはこの部活が必要なんだ。」
頼りになるのは先輩だけだ。お願いします。
生徒会長は栄 先輩を静かに見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「勇渚を選ぶの?」
生徒会長のまとう雰囲気が変わった。あれ、様子がおかしいぞ。
「智和が生徒会に入ってくれたら、止めて上げてもいいわ。」
「…それは出来ない。」
二人は知り合いのようだ。しかも下の名前で呼び会うほど親しい関係と見受けられる。
もしかして修羅場というものだろうか。すごく気まずいのですが。
「…わかったわ。この件は保留にする。でも覚悟はしておいて。」
生徒会長はそう言い残し、寂しそうに生徒会室の中へ戻っていった。
栄 先輩はただ黙ってその後ろを見つめていた。
「…先輩。」
そんな先輩の姿が見てられなくなり、俺はつい声をかけてしまった。
「なんで、勃ってるんですか!」
「すまない。少々、興奮した。」
"賢者モード"へ入りに行った先輩を見送り、俺は現状を把握した。
気絶している自称勇者が一人。セクハラと言われ黙々と立ち伏せている童貞の魔法使いが一人。目も当てられない悲惨な光景だ。
富士宮フロンティア高等学校には青春の墓場と言われる部活動、RPG部が存在する。そこは確かに噂通りの変な場所であった。
これは……先が思いやられる。




