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#01.



プリシラの感情に反応するように、冷たく冷え切ってしまった湯船から抜け出した彼女は、適当に水気を拭いて浴室を出た。


病床から起き上がったばかりの体という配慮からか、侍女たちは窮屈なドレスではなく、動きやすい活動着を着せてくれた。


用は済んだから下がっていいというプリシラの言葉に、侍女たちは戸惑いながら答えた。


「ライデン卿。病床から起き上がったばかりではありませんか。私共がもう少しお世話を……」

「もう治りましたから、下がって大丈夫です。それに、私はもう平民ですから、敬語を使う必要はありませんよ」

「しかし……」

「本当に大丈夫です。もし誰かに何か言われたら、私のところへ来てください。私が対応します」


プリシラの答えに、侍女たちは何度も彼女を振り返りながら躊躇っていたが、プリシラは彼女たちを下がらせた。誰かに傅かれていた期間より、泥水を啜っていた時間の方が長いプリシラだ。昔も今も、世話を焼かれるのは落ち着かなくて苦手だった。


濡れた髪を適当に拭いたプリシラは、自分の体の中に溶け込んだ賢者の魔力とスキルを検証した。魔力自体は若干の違和感があるだけで、使用に支障はなかった。スキルの方は……。


(あの人、本当に正体は何だったのかしら。本当に人間だったのかしら?)


賢者から譲渡されたスキルを活用し、感触を確かめていると、扉の向こうからコン、コンとノックの音が聞こえてきた。


慎重に扉が開かれ、ライディスと共に白い白衣を着た知的な風貌の医師が入ってきた。そして医師の後ろからもう一人、ここにいるはずのない大物が付いてきているではないか。


病室に足を踏み入れるロードランを見たプリシラは、両目をぱちくりとさせて彼を見つめた後、仕方のないことだと悟って微笑みながら尋ねた。


「陛下が直々にいらっしゃるような場所ではありませんが」

「そなたが私を呼んでいるというのに、どうして来ないわけにいくだろうか」

「いつから謁見が『呼び出し』になったのですか?」

「それよりプリシラ。病床から起きたばかりの分際で、髪もまともに乾かさず何をしている? 侍女たちはそなたをこの状態にして、どこへ行ったのだ?」


話を逸らすのが本当にお上手ね。ロードランの答えに、プリシラは小さく溜息をついて答えた。


「私が落ち着かないから下がらせたんです。あの子たちを叱らないでください」

「昔も今も、そなたは本当に他人に頼ろうとしないのだな」

「それほどでもありませんよ」


気に入らないと言わんばかりにプリシラに歩み寄ったロードランが、彼女の髪を優しく撫で下ろした。すると、濡れていたプリシラの髪が、見る間にふわふわと乾いていった。その手つきが誰かを連想させ、少し、胸が痛んだ。


「それで? 何をしていたのだ」

「じっとしていられなくて。少し体の具合を確認していました」

「大人しく寝ているとは思わなかったが……傷はどうなったのだ。腹部を含め、眼球も容易には治療できないと聞いていたが」


ロードランの視線が医師へと向けられた。それに対し、プリシラが素早く答えた。


「本意ではありませんが、助けを得まして。話せば長くなりますが……」

「はぁ……そなたはいつも予想を超えてくるな。まずはベッドに戻れ。横になって話を聞こう」

「もう治ったと言っているでしょう」

「プリシラ・ライデン」


ベッドに戻って横になれというロードランの殺気立った威圧に、プリシラは肩をすくめてベッドの端に腰を下ろした。


「ずっと寝ていたので、少し力が出ないだけです。傷は完治しました」

「ミカエラ。プリシラの傷を診てやってくれ」

「はっ、陛下」


ミカエラと呼ばれた医師は、目の前のプリシラを疑わしげに見つめながら彼女に歩み寄った。そして彼女の体、特に眼球を丹念に確認した後、信じられないという表情で手を震わせた。


「ライデン卿。この傷は、卿がご自身で治療されたのですか?」

「私が自分でやったのではありません」

「魔力障害が綺麗に消え去っています。それに、この修復力……これは治癒の天使が降臨しても容易には成し遂げられないほどだというのに……」


プリシラが答えの代わりにロードランを見つめると、それまでプリシラの顔、正確には抉り取られていた左目を凝視していたロードランが、ゆっくりと口を開いた。


「ミカエラ。プリシラは完治しているのだな?」

「はい、陛下。完治しているだけでなく、体力が少し落ちている以外は、長期間寝たきりだった人とは思えないほど魔力の流れも安定的です。それに加えて……」

「魔力量も増えているでしょうね。当然です、譲り受けたのですから」

「本当に長い説明が必要なようだな。ライディスは必要か?」

「はい。それと、可能であればラファエル将軍も呼んでください」

「ミカエラ、部屋の外で待機せよ。呼ぶまでは周囲に誰も近づかせるな」

「はっ、陛下」

「ライディス」

「ラファエル将軍は間もなく到着いたします」


医師ミカエラが部屋の外に出ると同時に、ラファエルが虚空から姿を現した。


「小娘! 座っていても大丈夫なのか?! 目は? よく見えているか?!」

「将軍。陛下が傍にいらっしゃいます」

「分かっとる! 陛下は見んでも元気そうじゃ。それよりお前だ。本当、お前がどれだけ馬鹿な真似をしたか分かっとるのか!!!」


目覚めて早々の雷が、懐かしいと言うべきか、それとも恋しいと言うべきか。心配していると言いながら拳骨を一発お見舞いしようとするのも、いかにもラファエルらしかった。


「将軍。プリシラは患者です」

「完治したと言っただろうが!」

「それでも十日も寝込んでいた患者です。お気持ちは分かりますが、言葉で解決なさってください」


(えっ? お気持ちを分かってるって?)


ライディスの答えにプリシラが視線を向けると、ロードランが腕を組みながら言った。


「そなたは自分を大事にしなさすぎて問題だ。先の宴の時も、他の者が入って来られないよう遮断して一人で残ったではないか」

「あの時は不可抗力でした。私でさえリュエンを止められなかったのに、他に誰がリュエンを抑えられたというのですか」


最初はプリシラも援軍を待っていたし、騎士団が突入すれば無事にリュエンを制圧できるだろうと考えていた。それがどれほど傲慢な考えだったかは、誰よりも自分自身が身を以て知ることになったのだが。


あの日の出来事が再び脳裏をよぎったのか、集まった面々の顔色が暗くなった。椅子に腰掛けたロードランが唇を噛み締め、呟いた。


「……『白い悪夢』を信じたのが失策だったな。やはり、奴を野放しにしておくべきではなかった」

「いいえ、陛下。白い悪夢が無害になったと報告したのは私です。すべての罪は私にあります」

「今さら誰が悪いなんて言い合ってどうするんだ? 今我々がすべきなのは、誰が間違っていたかを問うことではなく、ガエルの亡霊どもをどう処理するかだろう」

「各国への援軍要請は済ませてある。騎士団と魔術師団が揃い次第、塔へと従軍するつもりだ。プリシラ、責任は取ってもらうぞ?」


ラファエルの言葉を受け、ロードランの瞳に残酷な光が宿った。ロードランが言葉を継ぐ前に、プリシラが先に口を開いた。


「陛下。リュエンをどうなさるおつもりですか?」

「当然だろう? 以前までは軍人として命令を遂行していたがゆえに命だけは助けておいた。しかし、今回は……」

「彼の意志ではありません」

「そうだとしても、罪が消えるわけではない。リュエン・シェイルグは勝戦記念の宴を無茶苦茶にし、一個大隊の全員が彼に殺害されたのだ」


ロードランの言う通り、リュエンは取り返しのつかない罪を犯した。そう、彼が本当に国家転覆を企て、悪意を持っていたのであれば、当然極刑だ。ただし。


「リュエンが罪を犯したのは事実です。ですが、彼だけに罪を被せるのはおやめください」

「プリシラ、そなたは懐に入れた人間を盲目的に慈しむな。そなたが奴を信じたからこそ、私も奴を信じた。だが、結果が物語っているではないか。その信頼は間違いであったと」

「いいえ、情だけで言っているわけではありません。客観的に是非を問うているのです」


プリシラの青紫色の瞳が、ロードランの黄金色の瞳とぶつかり合った。彼女は言葉を続けた。


「各国の主要な人物が集まる勝戦の宴に、入れてはならない者を入れたのは、一体誰なのですか?」

「ほう、すべては私の過ちだというのか?」


挿絵(By みてみん)


以前もファンアートを描いてくださった匿名の読者様から、今回は「プリシラ」と「ミラベル」のイラストをいただきました!!

私が構想していたイメージとあまりにもぴったりで、驚きのあまり気絶しそうです。

本当にかわいいです。

美しすぎます……!


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