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#02.

誤字のご指摘、いつも助かっております。ありがとうございます!


今日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

プリシラの予想通り、門の前にはライディスが立っていた。


雨がこれほど激しく降っているというのに、傘も差さずにローブだけを深く被ったライディスは、プリシラを見るなり困ったような微笑を浮かべて言った。


「おはようございます、プリシラ。そして……お久しぶりですね、シェイルグ」

「おはようございます、ライディス公」

「……」

「リュエン、ライディス公が先に挨拶したでしょう?」

「……久しぶりだな、ラフェル」


ライディスの挨拶にも沈黙を守っていたリュエンは、プリシラに促されてようやく、しぶしぶといった様子で言葉を返した。


ライディスが目覚めているリュエンを見るのはこれで二度目だが、殺気が流れていないだけで、両者とも隙あらば一戦交えそうな一触即発の危険な空気が漂っていた。


まあ、リュエンの生存を望んでいなかったライディスと、帝国の貴族である二人。彼らの仲が悪いのは当然のことなので、仕方のないことではあるのだが。


「リュエン、タオルを持ってきてくれる?」

「断る。私がそなたを外の男と二人きりにするはずがなかろう」

「じゃあ私が持ってくるから、ライディス公を案内してあげて」

「その必要はない」

「え? あ……」


言い終えたリュエンが指を鳴らすと、いつ濡れたのかと言わんばかりに、ライディスの体は完璧に乾いていた。なるほど、魔法で解決したわけか。


(相変わらず、何でもできるのね)


魔法は精巧に使えば使うほど難しいものだが……もっとも、リュエンに対して「難しさ」を論じること自体、野暮なことなのだろう。


「ところでライディス公、朝からどうされたのですか?」

「朝早くから申し訳ありません。至急、調査をお願いしたいことがありまして……」

「調査?」


さらりと乾いたライディスをリビングへ案内しながらプリシラが尋ねると、彼は申し訳なさそうな顔で言葉を続けた。


「はい。実はリベリアの外郭に現れた魔獣が、魔の森へ入ったとの報告がありまして」

「獣の形をした魔物ではなく、魔獣ですか?」

「ええ。目撃者の話では、彼らも最初は魔物だと思って攻撃態勢をとったのですが、魔獣側は無言で彼らを注視した後、魔の森へと消えていったそうです」


(魔獣が現れたのも驚きだけど……市街地で目撃されたなんて)


魔獣とは、文字通り魔力を宿した「獣」を指す。

魔物とは違い、高い知能を持つ変異種であり、警戒心が極端に高いため、人間の前に姿を現すことはほとんどない。


また、個体ごとに多様な魔法を操ることができ、敵意を持たれると非常に厄介な存在でもあった。


(それだけに、手懐けた時のメリットは大きいと聞くけれど。いや、それより魔獣は絶滅危惧種じゃなかったかしら?)


魔獣は基本的に人間に懐かないが、歴史的には極めて稀に人間と共に過ごした魔獣もいるという。


彼らは地域によって「聖獣」や「益獣」と呼ばれ、歴史に名を残すほどの業績を成し遂げたと本で読んだことがある。


歴史的な業績を成し遂げるということは、数多くの人間の標的になるということでもある。そもそも魔獣は魔物の変異種の一つに過ぎない。


もともと個体数が少ない存在が、魔獣狩りによってさらに減り、今ではおとぎ話の中にしか存在しない伝説の生き物……。


……ということになっているが、実はプリシラは魔獣を見たことが一度だけあった。十七歳の時。終戦後、狂った魔法にかかってしまった「死者の森」で、大量の魔物が氾濫した際のことだった。


魔物たちのせいで部隊員とはぐれて道に迷い、森の深部へと足を踏み入れてしまった時。巨木の間にぽつんと立っていたのは、どこか神聖な気配すら漂わせる白い馬だった。


大きな黒い瞳は星屑を宿しているかのように煌めき、艶やかな毛並みはどんな高級な織物よりも価値があるように見えた。


知的な視線でプリシラを眺めていたその馬は、彼女を警戒して近寄ってはこなかった。


プリシラもまた、魔獣よりも仲間の行方が気掛かりだったため、そのまま通り過ぎただけだったのだが。


魔獣を実際に見たことがある以上、魔の森に魔獣がいること自体は不思議ではない。しかし、魔獣が人里の近くを行き来するのは、明らかに異常な事態だった。


もし何らかの理由で村を襲撃でもされたら、並の魔物よりはるかに厄介なことになる。彼らがどんな魔法を使うのか、どれほど高い知能を持っているのか、明かされていることはほとんどないのだから。


「なぜ魔獣が現れたのか、害はないのか。調査は不可欠ですが、魔の森に入るには一定レベル以上の浄化術師や守護スキル保持者、あるいは治癒術師の同行が必要です」


塔での襲撃以降、高ランクの冒険者たちは皆、塔の方へと派遣されているため、魔の森に入れる冒険者が不足しているのだ。


だからこそ、まだ塔には入れないが、魔の森を自由に行き来できるプリシラを訪ねてきたのだろう。


「プリシラ。訪ねるたびに困難な依頼ばかりしてしまい、面目ありません」


ライディスの状況は十分に理解できる。おそらくプリシラ自身であっても、自分のような「便利な余剰戦力」がいれば真っ先に頼ったはずだ。それにライディスなら、無理な頼みをする分、十分な報酬をくれるのは明白だ。


プリシラは頷いて答えようとした。いや、答えようとしたその時だった。


「いいですよ。誰かがやらなければならない……」

「厚かましいことだと自覚はしているようだな」


リュエンはプリシラとは考えが違うようで、彼女の言葉を遮ると、冷ややかな声で返した。プリシラは彼をじっと見つめたが、リュエンはライディスを睨みつけるばかりで、彼女に視線を向けようとしなかった。


「リュエン」

「そなたは優しすぎるのが欠点だ。事前の断りもなく押しかけてきて危険な仕事を押し付けるような奴の言い分を、二つ返事で受け入れるな」

「そのくらい……」

「そのくらいだ」


リュエンの声が普段より低い。怒っているのだろうか? しかし、魔獣がどれほどのランクか分からない以上、誰でもいいから送るというわけにはいかない。


信頼できる戦力があるなら、その人物に頼むのが合理的ではないか。


「それでも、誰かがやらなきゃいけないことでしょう?」

「その『誰か』がそなたである必要はない」

「今日は特にやることもないし」

「私と二人きりで睦まじく休むと言っただろう?」

「それは明日でもいいじゃない」

「ダメだ。今日は二度と戻ってこないのだから」


(そう言われると、言い返せないけれど)


しかし、「リュエンがダメだと言ったのでダメです」と言ってライディスを追い返すわけにもいかない。


いずれにせよライディスは、プリシラの数少ない知人であり、頼れる人間なのだから。


プリシラがどうしたものかと、リュエンとライディスを交互に見ながら唇を噛んでいると、ライディスが困り顔で答えた。


「無理な願いだということは分かっています。フェンベルクの時の借金も返せていないのですから。ですが、今すぐ頼めるのはプリシラしかいないのです」

「口ではお願いだと言いながら、力ずくで要求しているではないか。プリシラはお前たちの駒ではない」

「もちろん、重々承知しています。正当な対価も支払うつもりです。プリシラ。もし、私に頼みたいことはありますか? 私も無理を言いましたから、プリシラが無理な要求をしても受け入れましょう」


うーん。どうしよう。正直なところ、プリシラは今の生活が快適すぎて、今すぐ頼みたいことや困っていることなど一つもなかった。


フェンベルクを食い止めたおかげで、帝国側から莫大な報奨金を受け取ったし、店の準備も順調だ。リュエンの回復も順調で、人生で毎日がこんなに楽しい時期はなかった。


(あ。そうだわ)


お願いしたいことを思いついた。こうなったら、かなり無理な要求をしてしまおう。プリシラが目を輝かせると、二人の男が彼女に視線を向けた。プリシラは口を開いた。


「それじゃあ、リュエンを一般人に戻してください。ライディス公なら、身分を回復させることができますよね?」


どうすれば身分を戻せるか悩んでいたところだった。まさに絶好のタイミングだ。


プリシラの答えに、リュエンは驚いた顔で彼女を見つめ、ライディスは眉をひそめた。


「プリシラ。シェイルグを野に放つのは困ります」

「多少無理な願いでも聞くっておっしゃったじゃないですか。大丈夫です、私がずっと傍にいますから」

「私も反対だ、プリシラ。そなたが主人なら、私は奴隷のままでも構わない」

「私が嫌なの。私はあなたと対等な関係でいたいのよ」


プリシラの答えに、リュエンは唇をぎゅっと結んだ。


何かをこらえているような表情だったので気になったが、今はライディスの確約を得ることの方が重要なので、後で聞くことにした。


「ライディス公? まさか、二言はないですよね?」

「プリシラ。本当に、他の願いはありませんか? シェイルグはガエルの魔道兵です。あなたも何度か……」

「ライディス公。過去は過去です。私にとってリュエンはリュエンでしかありません。リュエンを解放してくれないなら、この依頼は受けません」

プリシラが珍しく強く出ると、ライディスは深い溜息をついた。

「はぁ……分かりました。調整してみましょう。ですが、シェイルグがあなたを少しでも困らせるようなことがあれば、即座に奴隷に戻します。今度は足まで切り落としてやりますよ」

「そんなことは起こりませんから、ご心配なく。ね、リュエン?」

「私がそなたに危害を加えた瞬間、全身が破裂して死ぬように魔法で制約をかけても構わない」

「それは嫌……」


プリシラが心底嫌そうな顔をすると、ライディスは呆れたような笑みを浮かべて答えた。


「いいでしょう。では、今日中に調査をお願いしてもよろしいですか? 私もすぐに身分回復に関する交渉を始めてみます」

「分かりました。リュエン、あなたもいいわよね?」

「そなたのためになるのならよかったのだが……そなたが満足だと言うのなら」

「よし、これで合意ね! さっそく出発しましょう」

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― 新着の感想 ―
リュエンの生存を望んでいなかったライディスと、帝国の貴族である二人 プリシラ・リュエン・ライディスの3人しかいない場面で、リュエンの生存を望まなかったのも帝国貴族なのもライディス一人ではないでしょう…
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