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本当の自分4

「花子……ごめんなさい」

『だから、謝らなくていいんだってば。あたしが悪いの。ごめんね、タエ。保健室で助けてあげられなくて』


 堪子がハッとして顔を上げると、花子は気まずそうに肩を竦めた。


『本当は、タエのクソ担任にも水ぶっかけてやろうと思ったんだけど……保健室の今井って女がどうも苦手なのよね……あたし』

「……へ?」


 花子にも苦手な人がいるのか。

 怖いものがなさそうな有名お化けの友達の思わぬ弱点に、堪子は間抜けな声を出した。

 堪子がまじまじと自分の顔を見てくるからか、花子は目を逸らして、『なによ?』と口を尖らせた。


『タエが家に帰った後に、あの女わざわざあたしのいる三階のトイレまで来て、「青島さんが傷付くやり方をするな」って、叱られて……』


 そこでついに堪子はくすっと笑ってしまった。

 花子はますます拗ねたような顔をする。


『もう! あたしだって反省してんの! こんなことなら、タエに意地悪してた子達を教室に戻れなくしてやればよかったわ。そうすりゃあ変な嘘で、タエのせいにもされなかったし』

「それをしたら、叱られるどころじゃなかったかも……」


 花子の冗談は、冗談に聞こえない。

 でも、花子も、そして保健室の今井も、堪子のことを考えてくれていた。

 まだ誰かが自分を信じてくれる。

 自分も誰かを信じられる。


 そうだ、信じるのだ。


 堪子は、ゆっくりと息をした。

 涙がまた溢れる。透けている花子の手を通り、暗闇へとぽつぽつ落ちて行った。

 声が聞こえてくる。



 いいなぁ……いいなぁ……



 堪子は顔を上げた。



 誰かを信じられるって……いいなぁ……



 暗闇はいつの間にか消えていた。

 辺りは屋上の風景に戻り、満月が煌々と輝いていた。

 堪子はまた屋上の端を見た。

 黒い影がまだ立っているような気がした。

 あれはやっぱり自分だ、と堪子は思う。

 独りぼっちで悲しくて、寂しい自分だ。

 誰も信じられなくて、恐くて、辛い自分だ。

 きっとこれからもずっといる、弱い自分の影だ。

 でも、影があるから気付くのだろう。

 自分は、独りなのだと。だから、自分から人を信じてみようと思うのだろう、と。

 そして、そんな自分を一人でも信じてくれる人がいてくれるのだと気付けるのだろう。

 堪子は立ち上がり、花子に手を差し伸べた。


『タエ、あたしは掴めないんですけど?』

「あ、そうだった」


 二人で笑った。


『タエ、ありがと』


 花子が堪子の手を掴んだ。

 感触はない。しかし、今まで握ったどの手よりも温かかった。

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