衝撃の事実!
ひとしきり聞いてみた。
ちょっと長くなるが頭の整理のためにまとめておこう。
チワワの俺が夏樹のパパの為り変わりであることが、学校中で噂となり、クラス中からかわれているらしい。
あるグループは、「母親の頭がおかしいのではないか」とか、「むしろ夏樹が犬じゃないのか」などといった悪口を言ってくるという。とんでもない話だ。
そんな悪口のせいか、元の仲の良かった友人は離れていく。
一人でお弁当を食べていたところに、ミスボーンが話しかけてきたということも知った。
奴は、悪口を言うグループから夏樹のことを、
「気にするから気になるんだよ。ほっときな」
と言って守ってくれているらしい。
なんだ。ただの集り屋じゃないのか。それとも口実か。まぁなんにせよ、お菓子の一つや二つくらいで、娘が学校生活を送れるのなら安いものか。
いや、消しゴムも盗んでったぞ奴は。
「っ……」
(?)
俺は異変を感じて、娘の顔が見える様に頭を上げた。
おい、太陽に向かって咲くひまわりのように笑うのが我が家の家訓だぞ。
(枯れるんじゃない。笑ってくれ)
悔しそうに眉間にしわを寄せて、ひとこと夏樹が言った。
「ねぇチワワ。本当にパパなんだったら助けてよ。苦しいよ」
涙が次々にぽたぽたと頭に落ちてくる。それが生暖かくて、なんだか寂しい温もりを感じた。
(そうか、夏樹は、俺を必要としている……!)
俺の真ん丸な目には今、目に見えない炎が宿っている。誰だか分らんが、娘を泣かせたこと、後悔させてやるぞ。そうとなれば、やることは一つ。
(乗り込むぞ! 学校に!)
俺の体は小さい。入れるところといえば、夏樹のスクールカバン。あれならバレないだろう。バドミントンのラケットが入るくらいの大きさがあるからな。
俺は自慢げにキャキャンと鳴いて、尻尾を振りに振りまくった。美香子を侮辱し、その上、最愛の娘である夏樹を泣かせたグループどもに、一泡吹かせてやる。
(だから、泣き止んでくれ)
俺は顔を拭う夏樹の右手に、片方の前足でちょんっと触れた。ほれほれ、猫とは違うが肉球だ。癒されろ。癒されろ。
舌をだしながら反応をうかがう。それが可笑しかったみたいで、娘は低い声を出して笑っていた。思っていたのとは違うが、結果オーライだ。
「ありがとね。チワワ」
もう、俺はパパだというのに。
まぁでも、ここでお前の話を聞けて良かった。俺が何とかしてやる。任せろ。もとはと言えば、俺のせいでこうなったんだからな。
夏樹の人生をどうせ変えてしまうなら、太陽のようにピカピカと明るい未来にしてやりたい。それがパパ心ってやつだ。
そんなこんなで、夜になって美香子もそろい、晩御飯中。
楽しくワイワイしている最中、またまた北島が来た。しかも、分厚いカーテンが開いた、リビングの窓に両手と肘を付けて。
吐息が白く曇っている。
(きっもちわる……!)
でも、スーツ姿じゃなかった。記者って、昇格したら私服でもいいようになるのか。
俺にはわからないが、すごく焦っているような感じがした。
――トントン!
ノックしてくる。
おいおい、ここは玄関じゃないぞ。勘弁してくれ。
俺は窓側に立って、「どっかいけ!」という意味を込めてキャキャンと吠えた。それでも、全く立ち退かない。くそぅ、粘り強いヤツ。
仕方ないと思ったのか、美香子は窓を開けてしまった。そうしたら、何を思ったのか、靴を荒々しく脱ぎ捨てて、我が家に入り込んできた北島。
「きゃぁああー‼」
美香子の悲鳴が俺の鼓膜を激しく叩いた。
急いでスマホを取り出す夏樹。
「ち、違うんっす! 誤解っす!」
北島は、フローリングに後頭部がめり込むんじゃないかってくらいに土下座をしていた。恐る恐る俺が違づくと、手には擦り傷やあざがあった。息も荒々しい。
(何かから逃げてきたのか、コイツ?)
だったらよそに行ってくれ。俺たち家族を巻き込むな。
すると、北島はバッと顔をあげて大きな声で、
「じ、実は、俊介さんを轢いた男が、やばい人でして……」
と言うと、途中でスゥっと一息入れる。
「これ以上、この問題に関わったら、埋めると言われました……!」
倉田家全員が青ざめる。
外気が寒いのか、悪寒がしたのか分からない。とにかく身震いしてしまった。埋めるとはどういうことだ。そしていったい誰を。何を。
考えただけで背筋が凍った。
「いいのよ、別に追わなくて。私たち全然気にしてないから!」
「私も。パパのことなんて最初から嫌いだったし! うざかったし!」
(そこまで言わなくていいだろ……‼)
夏樹に関しては滅茶苦茶ショックだ。
とんでもない。事故の時にチラッと見えた人影がそんな物騒な奴だったなんて。だからか。記者がある日から減ったのは。圧力ってあるんだな。
こえぇ。いったい何者なんだそいつ。
「でも、最後は正義が勝つ。俺は信じて、ここまで来ました! ご協力をお願いします!」
「あなた、とんでもない人ですね!?」
キレ気味の美香子。これはかなりレアだ。普段怒るときは無口になるのに。うぅーこえぇよー。誰か助けてくれ。
――ピンポーン
その時、ドアホンの音がした。
「ま、まさかね……?」
夏樹が恐る恐るボタンを押す。
「お昼はすまんかったね。コレ、もろてくれる?」
声の主はマサミおばちゃんだった。あまりのテンションの違いに、その場の全員がため息交じりに、床に手をついた。
美香子は周囲を見回してから、窓とカーテンを閉めて、玄関へと向かう。
もちろん俺もついていった。
(いったい何だろう?)
我が家に謎多き人物が二人も訪れてきた。これはただ事じゃないぞ。
(うー心臓がバクバクしてきた……)
しっかりしろ俺。俺がこんなでどうする。これじゃあ二人を守れないぞ。
えーい、何が起こっても絶対に守ってやるからな!
(かかってこい!)




