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幼女を連れた30代男性が

部屋から出てくる姿を目撃されています。

 死にたがっているという獣人の男の子。

彼は回復魔法を受けて体を治すことを、心の底から拒否しているということ。


 そう知らされて俺は、一度部屋の外に出ることにした。

魔法が効かないんじゃ何したって無駄だ。


「おじさん…ど、どこ行くの」


 最初に治療した女の子が不安そうに言った。


「外にいるやつと少し話をしてくる、心配するな、すぐ戻る」


 この子供たちは一体何のためにここに閉じ込められているのか。

それを聞かなきゃどうにもならんと俺は思った。

そのためにドアまで行き「おいこら開けろ」と言ってみたら普通にドアは開いた。


「覗いてみてたが、随分と派手な魔法も使ってたな」


 ナインスの言葉に、どうやって見てたんだと思ってドアを調べると、のぞき穴が付いてることに気づいた。


「治療も終わったようだし、それじゃ街の近くまで送ってやろう」

「待て、まだ終わってない、あの子供たちは何なんだ?なぜここにいる?」

「それは別にヴォルガーには関係ないことだ」


 そう言ってナインスはもう話は終わり、といった風に部屋に背を向けて歩き出す。


「獣人の子供はまだ治していない!フードの子もまだ見てないんだ!」

「無理だったんだろ?気にするな、どうせ死ぬとは思っていた、フードの方は…ありゃほっといても大丈夫だろう、あいつは賢いからな」

「そんなことを聞いてるんじゃない、あの子供たちはこれからどうなるんだ、それを答えてくれなきゃ俺は帰らないぞ!」

「やれやれ、帰りたいと言ったり帰らないと言ったり、おかしな男だ」


 そりゃ少し前までは帰りたい一心だったけどさあああ。

お前があんなもん見せるからこのまま帰るのは無理になったんだよ!


「あいつらはアタシが攫ってきたんだよ」


 ナインスは振り返るとそう答えた。


「…外道め、そこまでの屑だったとは」

「おっと、言っておくけどアタシは『奴隷商人を襲って』あいつらを連れて来たんだ」

「え…じゃあ元々奴隷…?」

「何事もなく売られていればそうだったろうね、人族の子供たちはさ」


 人族の?どういうことだ、獣人じゃなくて人を奴隷にするのか?


「わかってないようだな、アタシが襲ったのは『獣人族の奴隷商人』だ。くたばりかけてんのはその商人の息子さ」


 どうも根本的な思い違いをしていたようだ。

俺は人が獣人を捕まえて奴隷にしてると思っていた。

それはそれで確かにあるが、獣人のほうでも人を捕まえて奴隷にしているようだ。

考えてみたらやられてることを相手がやり返すのはごく自然なことである。


 ナインスはさらに詳しく教えてくれた。

まず、あのオレンジ髪の姉妹とフードの子が、獣人に攫われてそこから獣人たちの国である「マグノリア」に連れていかれようとしていた。

ナインスたちは偶然、それを見つけて街道で襲ったらしい。


 ただそれは人を助けようとかいう正義感ではなくて、単に獣人の商人をリンデン王国内で見つけ、あいつらなら襲って略奪しても文句を言ってくる人はいねえな、よっしゃボーナスタイムだ!

みたいな感じで盗賊の本能に従って行動しただけ。

積み荷が子供だったのは予定外だったようだが。


 その時、奴隷商人の護衛をしていた獣人の戦士に何名か部下が殺され、ナインスも胸と目に傷を負った。

まあ勝ったのはナインスたちでその結果、唯一の生き残りである獣人の子と、積み荷だった人の子供をとりあえず収穫として持って帰ったようだ。


「あの獣人のガキは、奴隷商人の息子だったからな、これから自分がどうなるかよくわかってたんだろ、だから死にたがってんだ」

「そうか…人の国で奴隷として自分は売られると思って…」

「アタシは奴隷売買には手を出してないからそのつもりはなかったがな、かといってわざわざマグノリアまで送ってやる義理もない、死にたいなら死なせとけばいい」


 なんつう言い様だ。

しかし奴隷売買には手を出してないということは人攫いは不本意だということか。

ならあの子らを助ける道はあるかもしれない。


「えーっとじゃああの子らも俺と一緒にコムラードまで送るということで…」

「200万コル、ヴォルガーが金を払うならそれで手をうってやってもいい」

「おま…怪我治してやったんだからまけろよ!なんだ200万コルって!」


 金貨でいったら…2000枚だぞ!

タックスさんに借金しても無理だとわかる金額じゃねえか!


「本当は300万のところを200万だといってるんだ、引いてる100万はアタシの治療代な」


 俺の魔法が金貨1000枚分!なんてこった!

いやでも…実際は貰ってないからどうなんだろう…俺騙されてない?

今わかるのは100万引かれてもどのみち無理だということだけだ。


「お、俺が金を払わないとあの子らはどうなる?」

「獣人のガキは死んだら捨てる、人の子供は…教えられない、ただ奴隷以外でも金にする方法はあるとは言っておこう」


 ああああ、俺はどうしたらいいんだあ。


「アタシからも一つ聞こう、なぜ、会ったばかりの子供を気に掛ける?」

「なぜって…子供は大人を見て育つんだ、クソみたいな大人に囲まれて育ったら、いつか同じようなクソみたいな大人になってしまう、それが続くとクソみたいな国になるんだぞ、それは嫌だろ」

「ふっ…くく、なるほど、その通りかもしれないな、アタシの親父も確かにクソだった」

「あ、いや今のはナインスさんをクソと言ったわけではなくてですね」

「変な言葉遣いをするな、気持ち悪い」


 気持ち悪いって…女の子に言われると結構傷つくな…


「ならヴォルガー、ひとつ取引をしよう」

「金はないぞ…」

「金はいらん、代わりにここに残れ、そうすればひとまず…そうだな、あの姉妹は家族の元へ送り届けてやってもいいぞ」


 うっ…俺の代わりに二人は解放されるということか…


「…わかった、でも条件がある、あの二人を送り届けるのに俺もついて行く」

「ダメだな、街の近くまで行けばお前はアタシらを振り切って逃げるだけの力がある」

「逃げない!必ずここに戻る、獣人の子とフードの子がいる限り絶対にその約束は守る」


 俺の言葉にナインスはしばし考え込んだ。

だが俺としても口約束だけを信じてあの姉妹を放り出すわけにはいかない。

自分の目で確かめなくては。


「…いいだろう、その条件を呑もう、ただし約束を破ったらここに残る二人の子供はすぐ処分する」

「お前こそ約束守れよ、二人を家族の元へちゃんと届けろ」


 そんなやり取りをして、俺は子供たちがいる部屋に戻った。

姉妹の子は早速これから、送ってくれるらしいのでそれを伝えに来たのだ。


「本当にわたしたち、おうちにかえれるの!?」


 俺が部屋に入って、家に帰れることになったと伝えると姉のほうが驚いて俺の服を袖をつかみながらそう言った。


「かえりたいよう…ううう…おねいちゃん」


 妹は家のことを思い出したのか、泣き始めてしまった。


「嘘じゃない、これからここを出る、俺もついて行くから」


 そう言うと二人は俺にしがみついてきた、なつかれちゃったかな…

半裸の幼女にしがみつかれているという第三者には絶対に見られたくない光景だ。


「なあ、俺は二人を送ったらまたここに戻ってくる、そうしたら君たちのことも必ず助けるからな」


 俺は横たわる獣人の子とフードを被ってどこかそっぽを向いてる子にそう言った。


「…そのようなことを頼んだ覚えはありませんが」

「…君あれだな、この状況で一人冷静だな、まあいいけど、とにかく勝手に俺がそうしたいだけだから」

「そうですか、なら好きにすればいいと思います」


 この子どういうメンタルしてるんだろ、まあ絶望してパニックになったりするよりは遥かにいいんだけど、それにしたって…監禁されてる立場だろ。


「そういえば君には魔法かけてないけど…病気や怪我はしてないのか?」

「私は大丈夫です、さっさと行ってください」

「ええ…まあはい、じゃあ行きます」


 あまりのそっけなさについ丁寧に返してしまった。

行けというならじゃあ行きますよ。


 俺は姉妹を連れて部屋を出る前に、最後に獣人の子に顔を近づけて話しかけた。


「俺と会ったんだから、死んだほうがいいなんてことには絶対させないからな、必ず君を助けに戻る、それまで死ぬんじゃないぞ」


 聞こえているかどうかわからない、相変わらずの無反応。

それでも聞こえていると信じて、俺は彼の手を握って語りかけた。


「よし…じゃあ行こう」


 獣人の子から離れ、俺は立ち上がった。

そして右手に姉、左手に妹と、二人の姉妹が俺の手を握ってきた。

まずはこの子たちからだ…俺は彼女らの手を握り返すと、二人を連れて部屋を出た。

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