お頭はロマンチスト
かもしれない。
幼い姉妹を連れて館の外に出た俺は、ナインスが用意した馬車に乗せられた。
二人の幼女も同じくだ、ていうか馬車が通れる道があるのか?
だったら俺が運ばれてきたやつはどうなったんだろう、森の中に置いてったのを他の人が回収していったんだろうか…
どうでもいいことを考えているとナインスに頭を押さえつけられた。
「目的地に着くまで目を隠させてもらう、それくらいは従ってもらわんとここからは連れ出せん」
馬車に乗せられた上に目隠しをされるのか…意外と秘密保持に厳しいな。
ナインスに目隠しの布を巻かれる直前、隣に座る姉妹を見ると同じように目隠しをされていた。
あとなぜか俺はさらに両手と両足を縛られた。
そこまでせんでも大人しくしておくのに。
「こんな何も見えない状態で運ばれるとなると暇で昼寝しそうだ」
「呑気なやつだ、そういえばここに来るときも馬車の中で寝ていたらしいな」
「二人も寝たら?起きるころには家の人に会えるよ」
ナインスの言葉は無視して隣の幼女にそう言った。
「馬車の中でなんか寝れないよおじさん…だって揺れるもん…」
「おじさんは揺れても寝てたよ、座席から転がり落ちても寝てた、そして起きたらこんなとこいたんだ」
「おじさんもさらわれたの…?」
「ああ、どうもそうらしい、おじさんかっこいいから女の人によく攫われるんだよ」
「えっ、かっこいい…?」
最後のは声が違うからこれ妹のほうだな、なぜそんな不思議そうな声で言う。
「くくく…子供にはそうは見えないらしいな」
それを言ったら戦争だろうがぁ!
ナインスめ…目が見えないのをいいことに揺れたらうっかり胸とか触ってやろうかな。
いやでもだめかな、子供の教育上よくないかも、見てないけど。
そうこうしてるうちに馬車は動き出し、ゴトゴトとどこかへ向けて進み始めた。
………………
………
「あの…ケツが痛いんだけど、この辺で休憩とかにしない?」
何時間ほど目隠しされた状態で運ばれただろうか。
体感で3時間は過ぎた気がする、腹もちょっと減ってきたし。
「もうじきつく、我慢しろ」
パーキングエリアでフライドポテトを買ってくれるくらいのサービスしてくれてもいいのにナインスはトイレ休憩すら挟んでくれない。
「結構飛ばしてるよねこれ」
そう思えるのは馬車が無茶苦茶揺れるからだ、だからケツが痛い。
おまけに今両サイドから幼女が腕にしがみついてきてる。
最初は俺の隣に二人で並んで座っていたはずなんだが、いつの間にか俺が中央だ。
「また転げ落ちないようにしっかりその男を掴んでおけ」
ナインスの言葉に俺の腕をつかむ力がギュッと強くなった。
この姉妹…たぶん妹のほうが一回どこかで転げ落ちてからこのポジショニングになった。
落ちたときにどこも怪我していないようなのは幸いだったが。
「はー、もうちょいかー、でももう話のネタが尽きたんだが」
「もういっかい、桃太郎の話が聞きたい」
「わたしはさるかに合戦がいい、うすっていうのがよくわからなかった」
道中、暇つぶしに昔話をしてやったんだが妹は桃太郎が鬼…オーガを退治する話が好きらしい。
姉はさるかに合戦…なんかどっちも結構バイオレンスな内容だと思うんだが。
「おいおい、そんなのよりシンデレラのほうがよかっただろ」
そんな中で一番ロマンチストなのがナインスだという事実。
「ナインスはお姫様にあこがれてんの?」
「う、うるせえな!別にそんなんじゃねえよ!」
はじめて女らしい一面を見せたな。
つーかこんなどうでもいい話をして時間をつぶしたのは、他の話をすると怒られるからだ。
特に姉妹に関する話…住んでる街とか名前を聞こうとするとナインスからストップがかかったので、やはりできうる限り俺にこの付近の情報は与えたくないようだ。
「もう喋りっぱなしで疲れたよ、喉も渇いたし」
「えー」
姉妹から不満の声があがるが、もうじきつくんだから許してくれ。
「帰るときにアタシはまた別の話を聞くことにしよう」
…まあしてもいいがドリンクくらいは用意してもらおう…
右隣の幼女妹から小さく「ずるい」と聞こえた。
言うようになったな、とりあえず恐怖心を取り除くことはうまくいったようだ。
それからさらに15分くらいだろうか、移動した後、馬車が止まった。
目隠しを取られて、足の拘束も解いてくれた、手はダメなのか。
ただまあ<ウェイク・パワー>を使えばこの程度の縄なら引きちぎれる気もする。
「うーん久々のまぶしさに解放感…ってここ森ん中じゃねえか!」
馬車から降ろされて辺りを見たら木々の緑があるばかり。
人の街などという文明は感じられない場所だ。
「ガキ共を連れていけ」
俺のつっこみをよそにナインスは誰かに指示していた。
あれは…白い髪のおっさん、俺をさらってきたやつだ。
他にも数名、山賊ルックの男たちがいる、こいつらも馬でついてきていたのか。
俺も姉妹と共に行こうとしたら「お前はここまでだ」とナインスに止められた。
「この先であいつらの親が待っている」
「それを確認させてくれよ!」
「こっちに来い、様子が見える場所がある」
従うしかないのか…
姉妹は不安そうに俺を見ている。
俺は二人に「二人のことはずっと見てるから心配せずに行け」と言った。
おっさんに連れていかれ二人の姿が見えなくなるまでその場で見送った。
そしてナインスは俺の腕をつかむとその二人が行った方角とは全然別方向に歩きだした。
少し歩くと、森の木々を抜け、小高い丘のような場所にきた。
「そこから下を見な、声を上げたり、目立つような行動はするな、見るだけだ」
ここは行き止まりの崖のような場所だった。
下、というのはつまり俺がいるのは崖の上で、そこから眺めて見ろということだ。
「あれは…あの子らの父親か?」
崖下をのぞくと、一台の馬車と男の姿が見えた、御者として執事っぽい人も見える…
「そうだ、あいつらはあの父親の用意した馬車に乗って帰る、もし事が終わるまでにお前がおかしなことをしたら、崖の上から矢を放つ」
高さは…何メートルくらいだろうか、ビルの5、6階くらいはありそうだな。
矢を放つのはナインスの部下が、ということだろう、崖上のどこかで構えているに違いない。
そのまま見ていると、山賊風の男たちがそこへやってきた。
白髪のおっさんとあの二人の姉妹もいる。
姉妹は、馬車の近くの男を見ると駆け寄って飛びついた。
どうやら本当にあの男が彼女らの父親で間違いないようだ…
何事もなく、二人は無事に親の元へ帰れたのだ。
「これで満足したか?」
「ああ…ただ、気になるんだが…あの執事っぽい人から男たちが受け取ってる袋はなんだ」
「金だ」
金…なるほど、普通にこれもう誘拐して身代金貰ってるのと同じなのでは。
「タダで返すとでも思ってたのか?」
「いやあ…そうは思ってなかったけど…いくらだあれ?」
「あの親父が約束を守っているなら30万コルってところだな」
30万…俺には200万とか要求しましたよね。
「俺のときと随分値段が違う」
「ああ、あれな、まあ無理だろうとは思っていたがお前の腕なら200万コルくらいひょっとしたら稼いでるかと思ってふっかけただけさ」
「て、てめえ…いや、ていうか随分これ手際がよくないか、昨日今日で決めた内容とは思えないが」
「はははは!今この時までおかしいと思わなかったのか?あの二人の住んでた街や親のことまで既に知ってることを」
「も、もしや俺がどうこう言わなくてもこうなる予定だったのでは…」
「くく…さあ、それはどうかな、だがアタシはこれでお前の約束は守ったぞ」
やられた…ナインスは元々、あの姉妹を金と引き換えに返す予定だったのだ。
内容だけ見ればナインスは奴隷商人からあの姉妹を助け出して親に返すといういいことをしてるだけだ。
偶然そうなっただけだろうが、きっと下であの白髪男は「お嬢さんはなんとか助け出すことができました」とかなんとか言って相手に感謝されてるに違いない。
「俺だけ無駄に損した気もするが…まあいい、あの姉妹の無事が確認できたしな」
「これからが大変だろうけどな、あいつらは」
「なんで?」
「あいつらの家にはもう金なんて残ってないからさ、必死にかき集めて30万コルなんだよ」
「ひ、ひでえ…」
「命があるだけありがてえだろうが、こっちは部下が3人死んでる上にアタシも死にかけたんだぞ」
そう言われるとそうなのかもしれない…と思えてしまう。
うーんまあ妥当な報酬なのか?
「よし…取引は終わりだ、帰るぞ」
崖下で男たちが袋の中身を確認した後、馬車は姉妹とその父親を乗せて去っていった。
結局名前もわからない二人だったが、この先忘れることはないだろう。
俺はナインスの後を追って、馬車に乗ると再びあの洋館へと戻った。
帰る途中、腹いせに馬車の中でナインスに「番町皿屋敷」という話をしてやった。
ぶたれた。




