助ける人 助けられる人
課金する人 課金させられる人 なら見たことあります。SSR選べるとか言うから。
俺のよくわからないキーワードに中二心をくすぐられたのか、マーくんはその後もいろいろ教えてくれた。
まずラルフォイが説明した冒険者のルールをそれとなく確認してみたが嘘はなかった。
まあそこは嘘ついても確認とればすぐバレるようなことだから、本当のことしか言ってないんだろうなあという気はしていた。
後はマーくんの個人的な情報になるが、彼は4級の冒険者で闇魔法が使えるらしい。
10年もやってて4級って意外と昇級は厳しいのかなと思い、昇級試験について聞いたところ、面接でいつも落とされて3級になれないとぼやいていた。
原因が本人にもわからないそうだ。
ただ俺はなんとなく原因がわかった、きっと会話のキャッチボールに不備があると見られてるんだな…
でなければずっとソロでやってないと思う。
「俺はそろそろ帰るよ、いろいろありがとなマーくん」
「構わん、貴様とはまた…」
「貴様はやめてくれって言ったろ?」
「…ヴぉ、ヴォルガーとはまた会って話がしたい、光と闇の融合について詳しく聞きたいからな」
ああ…それか…どうしようかな、言っておいて何だけど全然意味わからねえんだよな。
「それはまあ、危険な力なので簡単には言えない」
「フッ、わかっている」
勝手に納得してくれたので、話はこれくらいでいいかと思い、そこでマーくんとは別れた。
もし詳しい説明を求められたら、ほわオンにあった光魔法と闇魔法の習得が条件だったスキルの話でもして適当にごまかそう。
ギルドを出て、そうだ夕飯の買い物をしなくちゃ、と適当に露店を見てまわった。
今日はちゃんと袋を持っている。
しかしもう夕暮れが近づくこの時間、店じまいをしているところが多く、いい品があまりないのでいっそ食べて帰ろうかと思ったが、もしかしたら我が家に勝手に居座ってるやつがまだいるかもしれないので食材だけ買って早めに帰ることにした。
………………
………
タックスさんの店をのぞくとトニーが店番をしていた、タックスさんはまだ戻ってきてないらしい。
いろいろ話すことがたまっていってるのにな…
魔動車に関することもまだ伝えてないのに冒険者になれって脅されてると相談もしなけりゃならない。
いないもんはしょうがないので明日にしよう、と家に戻った。
そうしたら案の定ディーナがいた。
最初にこの家で発見したときのように机に突っ伏して寝ていた、酒は飲んでなかったようだが。
「んう…?あ、おかえりなさい…」
俺が荷物をおろして、今日の晩飯に使おうと思っている食材を選んでいると、ディーナが起きた。
「はぁ、起きたか、もしかして昼からずっと寝てたのか?」
「…ポコポコのお世話はしたよ?」
「ポコポコ?なにそれ」
「あっちにいる馬」
ディーナはそう言って倉庫がある方を指さした。
こいつは家事もしてないし普段何してるんだろうと思ってたが馬の世話係だったのか。
あと変な名前を付けているけども、それは持ち主の許可を得ているのだろうか。
「そうしたら疲れちゃって、ここで寝ちゃったみたい」
「ここは俺の家だからな?」
遠回しに帰れと言ったつもりだったんだが通じなかった。
「知ってるよ?」とだけ言って椅子に座ったままディーナは動かない。
「ねえ冒険者ギルドの用事はなんだったの?」
「ん…ああ、ギルドマスターのラルフォイってやつに冒険者になれって言われただけだ」
「え!ヴォルるん冒険者になったの!?」
「なってない、タックスさんに黙って勝手にはならないと言っただろう」
ただ、このままじゃ冒険者になるしかなさそうなんだけど。
「…何か嫌なことがあったの?」
「ん?どうした?何でそんな風に思う?」
自分では表情は変えてないつもりだったけど、ラルフォイのことを思い出して顔にむかつき具合が出てたかな?
「ヴォルるんいつもよりなんだかイライラしてるみたい見えたから…」
「…そうか、気のせいだ。それより早く店の方に戻れ、俺はこれから夕飯にするんだから」
「私も一緒に…」
「昼も夜も食わせるつもりはない、全部俺の金で買ってんだぞ。それにマリンダさんはお前の分の夕飯も用意してるんだからここで勝手に食ってたら迷惑がかかるだろ」
「二人前でも食べれるよ」
「はよ帰れ、な?」
アゴを片手で掴んでほっぺを指で両側から押さえつけながら俺が丁寧に言ってやると「うぐぐぐ」とタコみたいな口をして呻きつつディーナはようやく椅子から立ち上がった。
そして俺に顔を掴まれたまま家の玄関に行き、ドアを開けて外へ出ると
「困ってることがあったら相談してね、私じゃ役にたたないかもしれないけど…」
そう言ってディーナはドアを閉めて店に戻っていった。
なにか料理する気分じゃなくなったので俺は買ってきたパンだけ食べて、その日は寝た。
………………
………
翌朝、朝食をとっていると玄関のドアを叩く音がした。
トニーたちがもう来たのか?随分早いな。
慌ててドアを開けるとそこにはマリンダさんが立っていた。
「旦那様が食事が済んだら店のほうへ来てほしいとのことです」
なんだろ、早く魔動車に関して話が聞きたいのかな。
マリンダさんにわかりましたと伝えてから朝食を片付け、俺は店のほうへ行った。
「おはようございますヴォルガーさん」
店内に入るとすぐタックスさんに気づかれて挨拶されたので俺も朝の挨拶を返す。
「昨日の夜にトニーから魔動車の本を渡されたのですが、もう全て読み終えたんですか?」
「ええ、あまりページも多くなかったですしね」
「おお、それでどの程度読めました?」
「全部読めましたよ、ただ残念ながら…修理に関して役に立ちそうなことはほぼ書いてません」
「そ、そんな…唯一の手掛かりが…」
タックスさんはガックリとうなだれてしまった。
「あの…故障の原因と関係あるかわからないんですが、魔動車の燃料…ああえっと、赤鉄をいれるところの清掃ってしたことありますか?」
「いえ?ありませんが?」
「その部分どうやら定期的に洗浄しないといけないみたいなんですよ」
「そうだったのですか!もしかしてそれが原因で…!」
「まだわかりませんけどね、俺も一度見て確かめたほうがいいかもしれません」
「では早速!」
行きましょう、とタックスさんは店を出て行こうとするので
「いや待ってください、これからトニーたちに授業があります、それと一つ相談したいことも」
「授業のことですか?それに関しては十分な結果を見せてもらっているので大変満足していますよ、トニーだけでなく、あのディーナが、ディーナがですよ?足し算引き算を覚えたなど奇跡と言えるでしょう」
えらい言われようなディーナ。
タックスさんがそういう気持ちは分からなくもない。
「授業のことではないんですよ…実は昨日…」
俺は冒険者ギルドでラルフォイとやり取りしたことについて説明した。
タックスさんは俺が冒険者ギルドに行ったことはトニーとディーナから昨晩、聞いていたようだ。
しかし魔動車のことで頭がいっぱいで朝になったら忘れていたとか。
「冒険者にならなければ街を出ていくことになる、ですか…それはなんともひどい話ですな」
「ええ、どうしたものかと思いましてね、明日またギルドに行って何らかの返事をしなくてはなりません」
「ふむ、仕方ありませんな…冒険者登録をしておいた方がよいでしょう」
「そうですか…申し訳ありません、突然こんな形でここを辞めることになって…」
「いえ別に辞めなくてもいいですよ、あの家もそのまま使ってもらって結構です」
「え?いいんですか?」
「今ヴォルガーさんにいなくなられると色々困りますからな…ただ今まで通りにはいかないでしょう。そのラルフォイって人はよく知りませんが、ヴォルガーさんに頼みたい仕事があるから登録させようとしてるんでしょうしな」
「彼の話では依頼された仕事を断る権利はあるとのことでしたが、俺もそうとしか思えません。だから相手の意図がよくわからなくて」
「断れない内容の仕事を依頼してくる…とかですかな」
なんだ断れない内容の仕事って…想像がつかん。
「よく分かりませんが…」
「たはは、まあそう深刻にならんでください。私にもよく分かりません。ですがヴォルガーさんが困っていたらいつでも力を貸すつもりですので遠慮なく言ってください」
「本当に…有難うございます」
「魔動車の件はヴォルガーさんの冒険者登録が終わるまで一旦置いときましょう、今日はいつも通り、授業をお願いします」
「わかりました、助かります」
タックスさんに気をつかわせてしまったようだ。
いい人だな、魔動車をなんとか修理してあげたいという気持ちが湧いてくる。
でも今日はとりあえず言われた通りちゃんと授業をしよう。
トニーには今日から割り算を教えるかな、等と考えつつ俺は家に戻った。