初夏の庭園
ここ二ヵ月ほど忙しく、なかなか更新出来ませんでした。やっと、ひと段落つきました。
なかなかいいサブタイトルが付けられなくて、すみません。
「ジェームス兄様、書類の確認終わりました」
「じゃあ、ここにサインして」
兄様が指した部分は、書類を確認した者がサインをする場所ではなく、普段なら王妃様がサインをする場所です。
「え・・・?わたしが・・・?」
今、確認していた書類は、王妃様の個人資産に関するもので、先月は何処からいくらの収入があったかが書かれているのです。そのような書類にわたしのサインなどしても良いのでしょうか?
「王妃様から、『私の仕事は全てマリーに委任します。議会の承認も得ています。ジェームス、貴方が補佐なら大丈夫でしょう』と、言付かっている」
不安そうなわたしの顔を見て、兄様が涼しげな表情で言いました。
「いずれ、マリーがすることになる仕事だ。それが少し早まっただけだ」
その後、仕方無く、兄様の言われるままに書類にサインをしていきます。
わたしに仕事を押し付け・・・じゃなくて、委任した王妃様はというと、
「国を挙げての式典の準備の総指揮をしていらっしゃる」
そうです。
「行事関係を執り行う部署がありましたよね?」
「普段の行事なら彼らで十分なんだが、今回の式典は二十数年ぶりに行われることもあって、当時のことを知っている者が数人しかおらず、それも食材の仕入れ担当とか、街の治安維持の担当だったとか、肝心の式典やそれに伴う行事に直接関わった者ではなかったことから、記録に頼るしかなく、当時を知る宰相殿に相談に行ったところ、たまたま居合わせた王妃様が、『その事なら、私が分かっておりますから』と、自ら志願されたそうだ」
「そうだったんですか・・・」
「全く、他人事だと思っているようだけど、マリー、お前とエドワードの結婚式のことだからな。その様子じゃ、式のこと自体忘れていただろう」
「最近、仕事のほうが忙しくって・・・」
春の祭典前まであった講義やダンスの練習も最近ではほとんど無く、以前のような仕事中心――ただし、庭園の仕事は無し――に戻っていたので、自分が婚約中で、将来王太子妃になることなどすっかり頭から抜けていました。
「全く・・・・・・。今日は、もういいから、夕食まで休むといい・・・」
仕事に関しては鬼なジェームス兄様から、珍しくお休みを言い渡されました。
そして、今、わたしは久々にコテージの庭でお茶しています。
手入れする気満々で来たのですが、エミリーさんから、
「お久しぶりです。マリー様。え?庭園ですか?今日の作業は全て終わりましたよ。水も午前中にたっぷりあげましたので、午後は必要ないですし・・・」
と、言われてしまい、仕方なくまったりとしているのです。
初夏の草花が新しく植えられた庭園は、エミリーさんの言うとおり手入れが行き届いています。
最近は、若い独身男性の庭師さんが庭園の仕事を主にしていて、エミリーさん達三人は交代で彼らに指示を与えているそうです。
「何故、独身男性の庭師さんなんですか?」
「この庭園、マリー様の影響で王宮で働く若い女性達に人気の場所なんですよ。ほら、秋の花市で買った苗や球根を育てるために庭園の一角を提供したじゃないですか。それが立派な花が咲いてですね、それを見たジミーさんがリズにプロポーズしたんですよ~。相手がいなかった子も相手が見つかったとか噂が広まっちゃって、休みの日にお手伝いに来るようになったんですよ。庭師の男性って仕事熱心で奥手なのが多くって、良い出会いの機会になるのではと、親方に提案したんです。すでに何組かいい雰囲気になっていますよ。『プロポーズは温室の東屋で』という声もありまして・・・。ね?」
エミリーさんの視線の先には、一緒についてきたメアリがいます。
「え、え~と、わたしに同意を求められても・・・。確かに、侍女仲間の間では、理想のプロポーズだと話題になっていますけど・・・」
「多分大丈夫だとは思うけれど、念の為、王妃様から温室の使用許可をいただいてきますね」
「ありがとうございます!」
即答するメアリの姿に、今日中に許可をいただこうと思いました。
「マリー!君もここに来ていたのか!」
エドワード様が颯爽とやってきました。
「ご公務は?」
エドワード様も最近ではかなり忙しく、同じ建物内で暮らしているはずなのですが、顔を合わせることはあっても、ゆっくりとお話する機会があまり無いのです。
「俺の様子が酷かったのか、手伝いに来ていたロジャーに『一時間だけ時間をあげますので、休憩してきてください』と、言われてしまった。つい、以前のようにマリーの姿を探して、庭園に来てしまったのだが、本当にマリーがいるとは思ってもみなかった・・・」
抱きしめられてしまいました。
「あの・・・、メアリとエミリーさんがいるので、離していただけませんか?」
二人きりの時ならともかく、人前で抱きしめられるのはちょっと恥ずかしいです。
「ああ・・・、すまない。嬉しくて、つい・・・」
エドワード様の腕から開放され、メアリ達の方をそっと見ると、『何を今更恥ずかしがっているんですか?』と、言いたげな表情でこちらを見ていました。
「サイラスが母上に取られてしまってね。ロジャーが手伝いに来てくれてはいるのだが、次から次に書類が上がってくるんだよ。自分達の結婚式に関する書類だから何とかがんばれるのだが、それ以外のものだったら今頃キレていたかもしれないな・・・」
メアリが淹れてくれた新しいお茶を飲みながら、近況を話合います。
「母上が全てを取り仕切っているようだが、マリーは何か希望は有るか?」
「無事に行うことが出来れば、それで十分です・・・」
式のことを忘れていたなんて、さすがにエドワード様には言えません。
それに、王妃様に任せておけば間違いは無いと思いたい・・・です。
「自身の結婚式に不満があったのか、『私の私財を使っても構わないから』と、言って、事細かに指示をしているそうだ」
先ほど見た、王妃様の個人資産の書類が頭に浮かびました。
デイジーの売り上げが、さらに伸びているようでした。
メアリの話だと、アクセサリーと小説の売り上げが増えたそうです。
「そういえば、話は変わりますけれど、『デイジー』のクララさんのお友達で小説を書かれているテレサさんって方がいらっしゃるんですけど、その方がわたし達をモデルにした本を出版したいという事で、原稿を預かったらしいのですが・・・、わたしも忙しくて、まだ読んでいないのですが、どうしましょう?」
「マリーと俺がモデルか・・・。悪くはないな・・・。先ずは、読んでみないとな・・・」
「あの・・・、その小説なんですけど・・・」
わたし達の話を聞いていたメアリが、申し訳なさそうに言葉を発しました。
「王妃様がすでに読まれていまして、出版の許可を出されています・・・。シリーズ化も検討されているようで・・・」
その後、『メラニーとエリックシリーズ』呼ばれる一連の小説が、若い女性達の間で大人気となるのでした・・・。
本の出版からしばらくして、王妃様の資産の収入源の一つに、ロゼッタさんの会社の名前が増えたのでした・・・。
次回は結婚式前後の話の予定。




