サイラス 行動する(前)
少し長くなりそうだったので、分けました。
「息子の不甲斐無さに、そろそろ我慢も限界なのよねぇ。いつになったらマリーに告白なり、求婚なりするのかしら?」
王妃様のこめかみに青筋が立っている様に見えた気がした。
「慎重に事を進めたいのではないでしょうか?たぶん?」
一応、フォローはしておこう。
「それとも、ライバルがいないと思って安心しきっているのかしら?」
「さあ・・・?」
王妃様が心配されているのは、エドワードとマリーの関係がなかなか進展しないこと。
傍から見てもかなり好い雰囲気なのに、以前と変わらず、友人のような関係が続いている。
「伯爵家には、何か話は来ているのでしょう?」
「はい。マリーに関しての探りと言いますか・・・。お茶会などで母が尋ねられてはいるようです。縁談らしきものをほのめかす方もいるようで・・・。今のところは『王妃様直々に王立大学の講師に任命されているので、任期が終わるまでは無理』と言って断ってはいますが、その後どうなるか・・・」
そう答えるロジャーの顔は、少々引き攣っている。
ロジャーにとっては出来れば避けたかった話題、マリーの結婚について王妃様が話しているのだ。それも、王太子が相手で。
「折角、私の願望があと少しで叶いそうなのに・・・。そこで、強硬手段を使いたいと思います。」
王妃様から『マリーに婚約者候補を探そう』計画(実際は『マリーとエドワードをくっつけよう』計画なのだが)告げられた。
「流石に、マリーに婚約者の話が持ち上がれば、エドワードも行動に移すでしょう。まあ、元々、マリーを王宮で働かせるにあたって、あの子の母親と『結婚相手を見つける』って約束をしていたのよ。エドワードの行動から先延ばしにしていたんだけどね・・・。場合によっては、本格的に探すことになる可能性も少しはあるかしら?夜会で周りを牽制したつもりでしょうが、本人に伝わっていないと意味が無いのにねぇ。と、言うわけで、サイラス、ロジャー、あなた達の協力が必要です」
ロジャーもまさかこの計画の為に呼び出されたとは、思いもしなかっただろう。
俺は、エドワードの愚痴を聞かされるんじゃないかなとは思っていた。
計画は単純で、王妃様主導でマリーの婚約者を探すことになったと、マリーとエドワードに伝えるだけ。
俺とロジャーはその選定に関わることになっているらしい。
「ロジャーは義兄弟になるかもしれない相手だし、サイラスは有力な人物の情報を把握しているから、適任だと思われるでしょう」
婚約者探し自体、実行されない計画とはいえ複雑な心境だ。
「エドワードにはサイラスが伝えるとして、マリーなんだけど・・・」
「あの、マリーに伝える必要があるのでしょうか?」
ロジャーが質問した。
「あの子、自分が一応結婚適齢期だという事を忘れている感じなのよね・・・」
俺もロジャーも思い当たる事があり、思わず頷いてしまった。
「だから、自覚してもらうためにも伝えることが必要となってくるの。先ずは、マリーに自覚させ、婚約者探しを承諾させて、その後、エドワードにマリーの様子込みで伝えるのがおもしろ・・・効果的だと思うの。だから、マリーにもサイラスが伝えたほうが良いかしら?」
「そうですね。僕は冷静に伝える自信がないので、サイラス、お願いします」
王妃様が立てた計画でなければ、ロジャーは反対していたんだろうな。妹大好き兄弟だからな・・・。
「では、サイラス。お願いします。逐一報告してもらえれば、細かいことは好きにして構わないから」
マリーに『婚約者探し』のことを伝えたら、あっさりと了承された。
了承した割には、悩んでいる。
本人が何故悩んでいるのか分かっていないのが、もどかしい。
その事が分からないと、この“真”の計画は失敗に終わってしまい、本格的に婚約者を探すことになってしまう。
「『俺からの提案』という事で聞いてもらえるかな?」
俺との婚約をマリーに持ちかけた。
相手がエドワードだから、不思議と想いを伝える気にはならなかった。
だが、そうで無いのならば・・・。
ただ、まだ計画が失敗と決まった訳ではないので、直接想いを伝えることはしなかった。
遠回しではあるが、一応求婚したことになる・・・はず。本人が気付いていないようだが・・・。
メアリは気付いてくれたようで、帰り際、
「マリー様には、こちらからフォローしておきます」
と、言われてしまった。
王妃様に報告したところ、
「貴方がライバルと知ったら、エドワードもかなり慌てるわね。ふふ、よく言ったわ」
と、嬉しそうに言われてしまった。
エドワードには明日伝えることにして、その日は急用が出来たと言って、エドワードに会わずに帰った。
翌日、少々寝不足だった。
「昨日の母上の呼び出しは何だったんだ?何か難しいことでも頼まれたのか?」
俺の疲れた顔を見て、エドワードが尋ねてきた。
「あー、それなんだが・・・、実は、マリーの『婚約者探し』をすることになったらしくて、その手伝いを頼まれた・・・」
「何・・・だって・・・?」
エドワードが動揺している。
「何でも、王妃様が伯爵夫人とマリーが王宮で働く時に約束していたらしくって、あと数ヶ月で1年になるだろう。それまでには決めておきたいって。マリーも了承した・・・・・・、あ、エドワード!まだ、話は終わっていない・・・・・・」
俺の『提案』の事、話そうと思っていたのに・・・。すごい勢いで執務室を飛び出して行っちゃったよ。
昨夜、この事をどう伝えようか?伝えた後、エドワードにどの様に接すればよいのか?散々悩んで寝不足になってしまったんだけどな。伝える暇無かったよ。
でも、エドワードが慌てて出て行ったことに、少しホッとした。
エドワードが戻ってくるまで、仕事を片付けることにした。
王立動植物園の改修工事完了の書類。南方の植物エリアが広くなったのか・・・。小動物ふれあいコーナーも出来ている。
王立図書館の本の購入に関する申請書。若い女性の間で人気の恋愛小説コーナーを充実したいのか・・・。若い女性の利用者数を増やすには良い案だな。
積まれている書類に目を通し、仕分けていると、エドワードが帰ってきた。
飛び出していってから、一時間半ぐらいか・・・。
酷く、落ち込んでいる様に見えるが。
「サイラス・・・。お前、マリーに求婚したのか?何故、言わなかった・・・」
「いや、正式にはしていない。『提案』として、俺と婚約することを提示したまでだが・・・。それに、言わなかったのではなく、言う前にお前が部屋を飛び出して行ったんだ」
「そうか・・・。いや、ちょっと動揺していて・・・」
「かなり動揺していたぞ!で、何で落ち込んでいるんだ?」
「・・・母上に、宣言してきた。マリーを『妃』に迎えると・・・。マリー本人の前で・・・」
王妃様は内心喜んでいたんだろうな。
「それで、マリーの返事は?」
「お前の事もあるし、マリーにも考える時間が必要だろうからと、部屋から追い出された。『仕事に戻れ』と」
「良かったじゃないか。マリーに想いを伝えられて」
「そう思うか?俺は、『妃』に迎えたいとは言ったが、『好き』とか『愛している』とは言っていない。それに、俺は『妃』という言葉は使いたくなかった」
「何故だ?」
「『妃』という地位は女性にとって魅力的なものなんだろう?『妃』になりたがる女性は多い。ライバルに危害を加えてもな」
夏の事件を思い出した。
「『妃』という言葉を出せば、大抵の女性は結婚を了承するだろうな。愛情が無くても」
「要するに、お前は、『王太子』としての立場を利用してマリーに結婚を迫ったと考えている訳だ」
エドワードが頷いた。
「王妃様に宣言する分には構わないんじゃないか?マリー本人も理解はしていると思うよ。そんなに気になるのなら、改めてマリーに告白なり求婚なりすれば?だいたい、お前がもっと早くにしていれば、婚約者を探す話は出なかっただろうし、俺も『提案』なんてする必要は無かったんだ」
「しょうがないだろう。いきなり求婚なんかして距離置かれたら、どうすればいいのか・・・」
仕事に対しては行動的なのに、恋愛は慎重なのか。
「年が明けたら、告白しようと思っていたんだけどな・・・」
「近いうちに実行すればいいじゃないか。俺の事は気にするな」
「ああ、ありがとう」
「それじゃあ、お前がいない間仕事をがんばったので、俺は休憩に入る。後はよろしく」
「あ、ちょっと、ま・・・」
エドワードが止めるよりも先に、部屋を出ることが出来た。
後編は、来週中に更新出来るようがんばります。




