提 案
しっくりくるサブタイトルが思い浮かばない・・・。
今年も残すところ10日。
サイラス様がお一人でコテージにいらっしゃいました。
その表情は、『面倒なことを頼まれた』と、いった感じでしょうか。悩んでいるような、怒っているような、諦めと少々疲れも見受けられる、複雑な表情です。
「大丈夫ですか?」
つい、そんな言葉をかけてしまいました。
「ん?・・・ああ、大丈夫だ・・・。王妃様から仕事を頼まれてね・・・。それについて考えていたんだ」
「わたしもお手伝いしたほうがよろしいのでしょうか?王妃様のお仕事ですから・・・」
「いや、仕事内容はそう難しくないんだよ。ロジャーと協力することになっているから。ただ、取り掛かるまでの準備と言うか・・・、それがちょっとね・・・」
サイラス様は、一口お茶を飲んで、ため息をつかれました。
「あの・・・、お仕事のこと、わたしが聞いても大丈夫でしょうか?」
しばらく続いた沈黙の時に耐え切れなくなってしまい、思わず聞いてしまいました。
「構わない。と、言うか、マリーに関係することなので話さなければならないことなんだが、どう、切り出せば良いか考えていたところだ。俺達が頼まれた仕事は、『マリーの婚約者候補の選定』だ」
「あ、そうなんですか」
「やけにあっさりとした反応だね」
わたしの返事を聞いて、サイラス様は気が抜けたようです。
「21歳の誕生日を迎えたあたりから、一応覚悟はしていたので。ただ、実家から話が来るものとばかり思っていたので、まさか、王妃様からとは・・・」
貴族の間では、『女性は22歳までには婚約をするもの』との考えがあるようです。
22歳の間に婚約が決まればギリギリ大丈夫らしく、23歳になった時点で婚約者がいない者は『行き遅れ』となるそうです。(婚約さえしていれば、結婚していなくても『行き遅れ』では無いそうです)
なので、21歳で婚約者がいなければ『後2年しか無いのに、見つかるのか?』と、親は心配になり、あせるようです。
21歳の誕生日を迎えた時、お母様から、
「貴女も21になったのだから、そろそろ婚約者を・・・」
と、言われるものだと思っていたのですが、
「お誕生日、おめでとう。体に気を付けて、王妃様のお役に立てるようがんばるのよ」
と、言われたのには正直驚きましたが、今日の王妃様の発言から・・・。
「もしかして、かなり以前から計画されていた?」
「そうみたいだね。マリーが王宮で働き始めた頃には決まっていたような言い方をされていた」
だから、お母様は王宮で働くことを、あっさりと了承したのでしょうか?
年末、実家に帰ったときに確認しましょう。
「それで、話は『マリーの婚約者候補』のことに戻るけど、この話は進めていいのかな?」
「王妃様が言い出したことでしたら、決定事項ですよね」
「まあ、そうなるかな」
サイラス様が、苦笑いしました。
「しかたがありませんね。サイラス様とロジャー兄様が選んでくださった相手なら安心です。お任せします。今後、どのように進めるのかお伺いしてもよろしいですか?」
仮に断ることが出来ても、どうせ、実家を通して話が来ることになるでしょう。そちらの方が面倒な気がするので、サイラス様にお任せすることにしました。
「ああ、勿論だ。まず、年が明けてから、俺とロジャーで王国内の独身貴族の中から年齢や家柄などを考慮して候補者を何名か選ぶことになっている。その後、その候補者達と1対1でのお見合いをするか、候補者達が参加する夜会に参加して話す機会を設けることになっている」
お見合いに夜会。出来れば避けたい・・・。
「他にお会いできる方法は無いのでしょうか?たとえば、芸術鑑賞会とか、庭園散策とか?夜会よりはガーデンパーティのほうがわたしとしては良いのですが」
「マリーは夜会が苦手だったね。そうだね、相手も夜会が苦手な可能性もあるから、そちらで検討しておこう」
「ありがとうございます」
「それから、『年が明けたら、本格的に花嫁修業を始めるからね』と、王妃様からの伝言だ」
「うっ、分かりました」
そうですよね。婚約するということは、いずれ結婚することになるわけですから、花嫁修業は大切ですよね。お母様や王妃様のような妻となるために、がんばらないといけないですね。
「表情が険しくなった」
「えっ?」
「マリーのここ、しわが寄ってる」
サイラス様が眉間を指します。
「ええっと、良き妻になるための覚悟をしていたので」
「結婚って覚悟がいることかな?」
サイラス様の眉間にしわが寄ります。
「どの様な方に嫁ぐことになるか分かりませんので、万全の体制で向いたいと思っています!」
「あのさぁ、戦いに行くわけじゃないんだから・・・」
呆れられたようです。
「マリーはさぁ、今回の話、本当は嫌なんじゃないのかな?王妃様やご両親に遠慮しているような感じがする」
「・・・・・・そうかもしれませんね。お母様には、わたしの我儘で大学に通わせて貰って、その間ずっと心配かけていたわけですし・・・。いまさら嫌とは言えません。頭では納得していますが、心のどこかで『ほっといて』という気持ちがあるのも確かです。たぶん、不安なんでしょうね」
自分が結婚している姿を想像出来ないのです・・・。
「そう・・・。その不安が無くなるかは分からないけれど、『婚約者』の話は無かったことに出来る方法があるにはあるかな。聞きたい?」
「可能性があるのでしたら、一応」
避けられることなら、避けたいです。
「じゃあ、『俺からの提案』と言うことで聞いてもらえるかな?」
その言葉に、わたしは頷きました。
「マリーと俺が婚約すればいいんじゃないかな?」
「・・・」
「マリー?」
「・・・ええ~~~!?」
「あれ?さっき、『婚約者候補』のことを話したときより驚いていない?」
「全く予想していなかったことなので!」
サイラス様の表情が、少し悲しそうに見えたのは気の所為でしょうか?
あと、何故か、控えていたメアリから盛大なため息が聞こえてきたような気がします。
「元々、『婚約者候補』の話はマリーに婚約者がいないから出てきたのであって、マリーが婚約してしまえば話は無かったことになる」
「確かにそうですが・・・、わたしとサイラス様が婚約?」
「ははは、これは『提案』だから。そう悩まなくてもいいんじゃないかな?マリーにとって利点が多いと思うけど。例えば、夜会は王宮主宰のだけ出席すればいいと思っているし、俺はマリーが今までどおり王宮や大学で働くことに反対はしないよ」
わたしとしては、結婚しても王宮で働きたいと思っているのですが、相手によってはそれを好く思わないこともあるでしょう。その事を考えると、サイラス様の提案は魅力的ではあります。
「もしマリーがこの『提案』を了承してくれるのであれば、正式に申し込むけど?」
「え~と、正式とは?」
なんとなく想像はつくのですが、思わず聞き返してしまいました。
「そりゃあ、もちろん跪いて『マリー、私と結婚してくれないか?』と言う!」
それはもう、満面の笑顔で答えて下さいました。
「求婚する場所はどこがいい?マリーの希望を最優先するよ。それとも公爵家から伯爵家へ話しを持っていった方がいいのかな?」
不覚にも、サイラス様の求婚している姿を、今まで読んだ恋愛小説の場面と重ねてしまいました。
「分かりましたから・・・。その『提案』考えておきますから、それ以上言わないで下さい」
このままサイラス様の話が続くと、次々と小説の場面が浮かんできて、それに耐えられなくなってしまいそうなので、言葉を遮りました。
「出来れば、今年中に結論出してね。そうしないと、『選定』作業に入ってしまうから。年末、実家に帰るんだよね?返事が無かったときは直接、伯爵邸まで聞きに行くから。場合によっては、家族の前で求婚するけど良い?」
「わ~~~!それだけは勘弁してください。ちゃんと実家に帰る前までには返事しますから」
家族の前で求婚なんて、どんなことになるか想像したくもありません。特に、ジェームス兄様。
「そんなに慌てなくてもいいのに。じゃあ、そろそろ戻ろうかな」
わたしの反応が楽しいのか、サイラス様はいらっしゃた時と違い、かなりご機嫌なご様子です。
「では、『提案』については、数日中にお返事致します」
『外は寒いから、見送りはここでいいよ』と、サイラス様がおっしゃったので、応接室前でのお見送りとなりました。
「ああ、よろしく」
サイラス様は、すぐに立ち去らず、しばらく何かを考えているようでした。
「・・・マリー」
「はい、何でしょうか?」
名前を呼ばれたので、返事をします。
「その『提案』のことなんだけど、俺、本気だから」
「えっ?」
その場で固まってしまったわたしを見て、口元に笑みを浮かべ、サイラス様は去っていきました。
「マリー様、求婚(仮)されましたね」
エントランスまで見送りに行って戻ってきたメアリに言葉をかけられるまで、サイラス様の言葉の意味に気付きませんでした。




