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王妃専属ガーデナー  作者: 瑛美(あきみ)


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22/53

○怪我

2020/07/06 加筆・修正

 季節はすっかり夏です。

 日差しがきついので、庭園での作業は午前の早い時間帯に集中して行うことにしています。 

 庭園には、芝生と花壇だけで、日差しを遮られるような樹高の高い木がないのです。

 そこで、この夏の時期にも植え付けが出来る、月桂樹を植えることにしました。

 植える場所は、温室寄りの東側です。

 デニスさんに相談しながら描いた図面では、ここには月桂樹を中心にハーブ類を植える予定です。

 料理好きな魔女の物語を参考にしました。

 

 デニスさん達、男性の庭師さん達が木を持って来る前に、土を魔法で掘り起こしておくことにしました。

 土を掘り起こすのって重労働なんですよね・・・。領地の庭師さん達も腰痛が辛いって言ってましたから・・・。

 私の魔法の練習にもなりますからね。

 

「マリー様~!」

 コテージの方から呼ぶ声が聞こえました。

「お昼の準備が出来ましたよ~~!」

 メアリの手伝いをしていたリズさんが手を振りながら叫んでいます。


 今日は、菜園から収穫した野菜を使って、先日頂いたトリテレイア王国の料理の本を参考にして作ると言っていました。

 採れたての夏野菜とチキンを使った料理だと言ってましたっけ・・・。

 料理のことに気を取られて、忘れていました。私の前には、穴があることを・・・・・・。




 見事に、穴に落ちました・・・・・・。

 30センチほどしか掘っていなかったのですが、落ち方が拙かったのか、足をくじいてしまったようです。

 近くにいた、ローラさんとエミリーさんがコテージまで肩を貸してくれました。

 リズさんがお医者様を呼びに行っているようです。

 

 応接室で足を冷やしながら待っていると、シオン先生がやって来ました。

 慌てているリズさんを見かけたので、声をかけたそうです。

「事情は聞いた。彼女には、薬を取りに行ってもらっている」


 先生は、私の前に跪くと、腫れている足首を確認しました。


「薬を塗って、不便かもしれないが、念のため一週間ほど安静だな。治癒魔法ですぐに治すことも可能だが、どうする?」

と、尋ねてきました。

 先生は、やって来た時の心配そうな表情は消え、笑顔です。

 確かに、このままでは普段の生活が不便です。ここは、魔法で治療して頂いて・・・・・・。 

「そういえば、明後日は、王宮での夜会だったな・・・。出席するためにも、やはり、治癒魔法で・・・」

「いえ!薬でお願いします」

 すっかり忘れていましたが、王宮での夜会が開催されることになっていました。

「そう言うと思った。まあ、緊急事態で無い限り、これ位の怪我は魔法を使わないほうがいいから、初めから使う気は無かったけどな」

 そう言って、戻ってきたリズさんから薬を受け取り、私の身体に付いていた土などを魔法できれいにすると、腫れている部分に塗って下さいました。

 

「一日数回、薬を塗りなおすように。それから、なるべく歩かないように」

 薬の使い方をメアリに伝えた後、私に注意してきました。

「それで、部屋はどこだ?」

「2階ですけど・・・。うわっ」

 身体が宙に浮いたと思うと、シオン先生に抱え上げられていました。

「運んでやる」

 メアリ達の視線が・・・・・・。


「いいか、腫れがある程度引くまでの数日間は、歩くのは必要最低限だからな!」

 ソファに私を下ろしながら、釘をさしてきました。

 メアリ達は、一度、先生を玄関まで見送りに行きました。

 戻ってきてからが大変です。


「マリー様、うらやましぃ~~~」

「シオン様、素敵~~~」

 四人ともうっとりしています。

「あの~~~。着替え、手伝ってもらってほしいのだけど・・・」

 先生が魔法で汚れを落として下さったのですが、身体を濡らした布で拭きたいです。

 そして作業着を着替えたいのと、お腹がすきました。


 メアリが着替えを手伝ってくれました。

 先日、街に行った時にサイラス様に買って頂いた、小花柄のワンピースです。

 食事はエミリーさんが部屋に運んで来ました。


 シオン先生に、安静と言われているので、ベッドの上に足を伸ばして座って読みかけの本を読むことにしました。

 読もうと思っている本は、隣の書斎にあります。

 書斎のドアに手を掛けたと同時に、

「失礼します」

 入ってきたメアリと目が合いました。

「マリー様、本でしたら私が取ってまいりますので、くれぐれも(・・・・・)ベッドから下りませんように」

「はい・・・」

 怒られてしまいました。


 本もすぐに読み終わってしまいました。

 暇です・・・。

 やはり、本を取りに・・・・。

「失礼します。マリー様、エドワード様が・・・・・・」

 なんて、タイミングが悪いのでしょう。ベッドから下りようとしたところ、メアリがドアを開けました。後ろには、エドワード様が・・・。


「はぁ~~。マリー様、安静って言いましたよね」

 メアリに呆れられてしまいました。

「マリーは、安静にしていられないようだね」

 エドワード様がニッコリと笑いました。


 いつのまにか側に来たエドワード様に抱え上げられてしまいました。

 この体勢、本日二回目です・・・。

「怪我が治るまでは、王宮の部屋で過ごそうか。このまま連れて行く」

 本当にこのまま連れて行かれるのでしょうか?

 階段を降りるからしっかりと掴まっているようにと言われたので、エドワード様の首に手を回しました。

 1階に降りると、エドワード様はそのまま玄関へと向かいます。

 メアリも当然のように、笑顔でドアを開けました。


「エドワード様!!このまま王宮に行くのは、距離があると思うのですが・・・」

「大丈夫。毎日、鍛えているからね。マリーを運ぶぐらいなんともない」

 エドワード様は涼しげに答えます。

「それもですが、恥ずかしいので、別の方法でお願いしたいのですが・・・」

「この方が手っ取り早い。ここは、プライベートゾーンだから、見られたとしても、よく知る使用人達だけだ」

 メアリ達に視線で助けを求めますが、笑顔が反って来るだけです。

 その笑顔は『諦めて下さい』と、言っているようでした。

「では、後は宜しく」

 私は、半ば無理やり、王宮へと連れて行かれました。

 

 後でお見舞いに来たロジャー兄様に怒られてしまいまいした。



 夜会当日。

 私は、王宮内の部屋の窓辺の椅子に座って、外を眺めていました。

 今日は、満月です。月明かりで、庭園が照らされています。

 コテージのある方向は、木に隠れて見えません。


 あれほど出たくなかった夜会を、怪我を理由に欠席出来たのですが、何故か胸の辺りがモヤモヤとしています。

 エドワード様は誰かと踊っているのでしょうか・・・?


 ドアをノックする音がしました。侍女の誰かでしょうか?

「どうぞ・・・」

 窓の外に視線を向けたまま、返事をしました。

 

「マリー・・・。退屈していないかい?」

 聞こえた声に驚いて思わず立ち上がり、振り向きました。

「いたっ・・・」

 挫いてしまった足に体重をかけてしまい、よろけてしまいました。

エドワード様の腕の中に受け止められていました。

 見上げると、そこには、エドワード様の笑顔がありました。


「エドワード様・・・。夜会は?」

 エドワード様に支えられながら、椅子に座ります。

 エドワード様はそのまま、私の前に跪くように腰を下ろします。

「抜け出してきた。コレでね」

 気配を消すことの出来る腕輪が着けられていました。

「抜け出してきてもよろしかったのですか?」

 不思議なことに、先ほどまでの心のモヤモヤが消えています。

 

「ああ・・・。誰かさんは、安静にするのが苦手なようだからね。こうして確認しに来ないと、部屋から抜け出してしまいそうだからね・・・」

 イタズラっぽく笑いました。

「さすがに、部屋からは抜け出しませんよ・・・。今日は、月が綺麗なので・・・、退屈ではありません」

 

「そうか・・・。私はつまらなかったな・・・。マリーと踊ることが出来ないから・・・」

 少し、困ったような表情で微笑んでいらっしゃいました。


「あ、あの、戻られないのですか?サイラス様達が探していらっしゃるのでは・・・?」

 エドワード様に、ずっと見つめられているので顔が熱くなってきました。

「ああ・・・。そうだな・・・。だが、もうしばらくはマリーの側で月を眺めさせてもらえないだろうか?」

 エドワード様が私の手をとり、懇願されます。

「・・・はい・・・」

 しばらくの間、言葉を発することなく、月を眺めていました。

 エドワード様は、戻っていかれるまで私の手を離されませんでした。


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