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王妃専属ガーデナー  作者: 瑛美(あきみ)


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20/53

○街へのお出かけ

2020/07/03加筆・修正

 サイラス様と『デイジー』に出かける日です。

 王宮の裏口から、お忍び用の馬車に乗って出かけます。


 普段、王宮でお見かけするサイラス様とは雰囲気が全く違います。

 いつものサイラス様は、濃紺で袖に赤と金のラインが入っているシンプルな騎士服を着ています。袖のラインの色で所属が分かるようになっているそうです。

 今日のサイラス様は、白のシャツに薄茶色のベスト姿です。

 シャツの首もとのボタンと袖口のボタン、そしてベストのボタンはすべてを外しています。

 腕輪も銀のプレートと革紐が組み合わされたシンプルなものでした。

「夜会の時とはデザインが違うようですが、例の腕輪ですか?」

「ああ、先日のは正装用で、今日のは簡易版だそうだ」

 他人から認識され難くなる腕輪です。夜会で見た腕輪は、金細工が施されてエドワード様の衣装に合っていました。



「あと、マリーにも預かっている」

 サイラス様から渡されたものは、細身の腕輪です。赤と黄色とピンクの石が花の蕾で、緑の石が葉っぱの様に配置されています。

「このデザインなら、そのブレスレットにも合うだろう」

 今日はエドワード様から頂いたブレスレットを着けています。

 そのブレスレットに馴染むデザインです。

「本当ですね。どなたがデザインしたのですか?」

「・・・ん、俺だけど。・・・なんだ?その顔は?」

「いえ・・・。意外な才能だなと思って・・・。私は、好きですよ。この、デザイン」

 サイラス様が照れているようです。

「そうか・・・。それは、良かった・・・。大勢に紛れ込みたい時は緑。なんとなくそこに居るなと思われたいときは黄色の石に触れるといい。腕輪の効果を消したい時は、赤の石だ。ピンクはデザイン上の物で、効果は無いとのことだった。お互い、効果を確認しておこう。腕輪をしている者同士では効果がないそうだから、まずは俺から」

 サイラス様が黄色の石に触れました。

「どうだ?」

「サイラス様が普通の人に見えます!」

 エドワード様もですが、王宮内では人が多く居る場所でも存在感があるサイラス様ですが、そのような雰囲気が消えています。

「その普通の人って基準がよく分からないのだが・・・。では、緑で・・・」

「すごいですね!!人が多く居る場所では見つけられないと思います」

 顔がボヤけて見えます。

「そうか・・・。じゃあ、次はマリーの番だ」

 渡されていた腕輪を着けます。

「では、いきますね」

 黄色の石に触れます。

「・・・その状態だと、侍女に紛れているとすぐには見つけられないだろうな・・・」

「そうですか?では、緑に触れますね」

「・・・・・・」

「どうですか?」

「ああ・・・、大丈夫だ・・・。試しに、お互い着けても確認しよう」

 サイラス様が腕輪を着けます。

 黄色、緑と試してみますが、相手の印象が控えめに見える程度で、お互いのことはちゃんと認識できました。

「それじゃあ、街中は緑で、『デイジー』では黄色で」

 赤の石に触れ、効果を消します。


「今日の予定だが、街の視察も兼ねての訪問だから、前回のように裏口まで馬車で行くのではなく、旧市街と新市街の境で馬車を降り、歩いて行く。『デイジー』には午後から行くと伝えているから、色々と見て回れるはずだ」

 旧市街と新市街の境にある、兵士の詰め所近くで馬車を降ります。

 降りる前に緑の石に触れました。


「それじゃあ、行こうか・・・。ちょっと人が多いかな?」

 はぐれないようにと、サイラス様と手を繋いで歩くことになりました。


 サイラス様に連れて来られたのは、『デイジー』がある通りとは別の通りです。

「ここの通りは、新市街の中では古くからある場所でね、世代交代した店も何軒かあるんだ。その中の一軒が最近流行らしくって・・・。あった。あそこだ!」

 サイラス様が指した方向には、周囲よりも外装が新しいお店がありました。

「以前は食堂だったそうだが、カフェに改装したそうだ。ちょっと、入ってみるか」

 手を繋いだまま中へと入っていきます。

 店の奥の席へと案内されました。テーブルには可愛い花が飾られています。

 サイラス様は軽食のセットを、私は季節のフルーツのケーキセットを注文しました。

 店内を見渡すと、女性客で賑わっています。男性は、サイラス様だけです。

 それなのに、サイラス様を特に気にした様子がないのは、腕輪の効果のお陰でしょうか?

「サイラス様はどうしてこのお店のことをご存じだったのですか?」

「ん?・・・ああ・・・、兵士達の話題になっていたからかな?行きつけの食堂が代替わりでカフェになってしまって残念だという話と、最近恋人が新しくできたカフェに連れていけと言ってくるといった話をよく聞くものだから、ちょっと気になってしまってな。マリー達はそんな話はしないのか?」

「そうですね・・・。あまりしないですね・・・」

 庭園に関する話か、料理の話が主です。あとはメアリから聞く侍女さん達で流行していることについてです。

 

 軽い食事を済ませたあとは、メアリに紹介された王宮侍女さん達の間で人気のある服屋に寄らせてもらいました。

 今、街で流行の服を見せてもらいました。

 薄い色合いの無地か、小花柄のワンピースが人気だそうです。

 デザインは、首周りは鎖骨が見える程度の開き具合で、白い襟かレース、またはリボンで縁取られています。袖は、肘が隠れるぐらいで、袖口は襟元と合わせてあります。スカートの広がり具合が、体のラインを綺麗に見せてくれます。

「マリーには、コレが似合いそうだな」

 サイラス様が選んで下さったのは、白地に紫の小花柄で、白い襟が付いているデザインです。

 試着をしてみます。サイズも大丈夫です。この様なお店の服は、採寸して作った服とは違った動きやすさがあって好きです。大学時代は利用していました。

「これ、買います」

 他にも、水色の無地にレースの飾り、黄色の無地にリボンの飾りが付いた服も購入することにしました。

 さきほどのカフェでもでしたが、サイラス様が支払いをされていました。

 定員の方も、笑顔で当然のようにサイラス様に商品を渡しています。


「後でカフェの分と合わせてお渡ししますね」

 お店を出てから、サイラス様に言いました。

「気にしなくていいから」

 そう言われましても、お給料を頂いていますので、買って頂く訳にはいきません。

「仕立て屋で作らせる服に比べたら、大した金額ではないから、気にしなくてもいい」

「でも・・・・・・」

「あ~~、じゃあこうしよう。カフェの分は、コテージでのお茶にでも誘ってくれ。服の分は『デイジー』で何か買ってくれればいいから・・・」

「・・・分かりました」

 納得いきませんが、サイラス様が「いい」とおっしゃるのなら、仕方がありません。


『デイジー』は昼食時とあって、人が少なかったです。

 クララさんが私に気付かないと困るので、腕輪の効果を消しました。

「ローズマリー様、いらっしゃいませ。あれ?お一人ですか?サイラス様もご一緒だと聞いていたんですが・・・」

 サイラス様に気付いていないようです。

「サイラス様、気付かれていませんよ」

 小さな声で言いました。どうやら、緑の効果のままのようです。

「ああ、そうだったな。忘れていた。黄色にするか」

「サイラス様?そちらにいらしたんですね。気付きませんでした・・・・・・」

 申し訳なさそうにクララさんが言いました。 

「いや、わざとその様にしているから、気付かなかったのは、成功だということだね」 

 腕輪の効果のすごさを実感しました。


「ローズマリー様、ロゼッタさんから預かった本はコチラです。新刊と人気がある作品を、お友達にお送りになる分と、ローズマリー様にと2部ずつ預かっています」

 全部で16冊。思ってたより多かったので、メアリに改めて取りに来てもらうことにしました。ついでなので、先ほど購入した服も預かってもらいました。


 クララさんの案内で、サイラス様とお店の中を見て回ります。

 前回訪問した時よりも、商品が増えています。

「今はこれが人気なんですよ」

 クララさんが見せてくれたのは、木の箱です。

「初めは男性向けに置いた箱なんですけどね、便箋をいれておくのにちょうどいい大きさなんですこの中に便箋とポプリを入れておくと、便箋にいい感じに香りが付くんですよ。それを意中の相手に送るという話をテレサが書いたので、箱だけでなく、便箋もポプリも売り上げが伸びました~」

「次は、皮製品を題材に小説を書く予定なんですけど・・・」

 皮製品が置かれているコーナーを見てみます。

 クララさんのお父様のお知り合いの工房のお弟子さんの作品だそうです。

 財布、ベルト、ループタイなどが置かれています。

 どれも素晴らしい出来映えです。

 その中の、ひとつの財布が私の目に止まりました。

 薄茶色の皮に濃い茶色のステッチ、そしてシンプルなアラベスク模様が縁取りされています。

 今日のサイラス様の雰囲気にピッタリです。


「サイラス様。先ほどの約束なんですが、これはいかがでしょう?」

 私の見付けた財布をサイラス様に勧めてみます。 

「そちらの財布にはですね、飾り紐を付けるようになっているんですよ」

 財布の一ヶ所に、紐を通せるような穴が細工されていました。

「標準でお付けできるのが、こちらです」

クララさんが見せてくれたのは、皮工房の印入りの小さな皮の札が付いているものでした。紐と札の色は三種類から選べるそうです。

「へぇ~。面白いな。細工も素晴らしいし、使いやすそうだ」

 サイラス様も気に入ったようです。ですが、私の買って頂いた服の値段より安いです。

 思いきってクララさんにここに来るまでの経緯を簡単に説明して、助けを求めることにしました。


「それでしたら、料金の追加で紐に付ける飾りなどを色々と選べるようにしています」

 皮の札に名前を入れたり、札を金属製に変更もできるそうです。

「わたしのお勧めは、お守りの石ですね」

「そうだな。せっかくこの店で買うのだから、そうしてもらおうか」

 サイラス様がクララさんの提案を気に入ったようです。

 クララさんにお守り用の石を見せて貰います。

「この石の色が面白いな」

 サイラス様が気に入ったのは、赤褐色に黒の筋模様が入っている石でした。

「・・・ロードナイトですね」

 クララさんが、サイラス様の選んだ石をトレーに乗せます。

「サイラス様に似合う色ですね。でも、これだけでは寂しいですね」

 それに、まだ私の買っていただいた値段の方が高いです。

「では、こちらの石と相性の良いペリドットとターコイズもお付けしますね。それから、こちらの木箱もお付けしますね」

 クララさんが緑と青の石を選んでくれました。木箱は財布を仕舞うのに丁度よい大きさです。 


 サイラス様は満足して下さったようですが、私としてはまだまだです。

「サイラス様。今度、また、このように街に出掛ける機会がありましたら、今度は私に食事の代金を支払わせて下さいね」

「・・・ああ・・・。そうだな・・・。楽しみにしている・・・」 


「何を探しているの?」

 店内の商品を色々と見て回っていると、サイラス様が尋ねてきました。

「皆に何か買おうかと思ったのですが・・・、いつでも一緒に来ることが出来るので・・・」

 本当はエドワード様にと思ったのですが、何を買えば喜んで頂けるのか?分かりません。

 サイラス様には聞きづらいですし・・・。

「やはり、今度来た時にします」


『デイジー』を出た後も、何件かお店を見て回りながら、王宮まで歩いて帰りました。


「この腕輪、どうすればいいですか?」

 コテージまで送って頂いたサイラス様に尋ねました。

「ああ、これはマリー用に作ったものだから、そのまま持っていてくれ。今日みたいに、街に出かける時は必ず(・・)着けるように」

 サイラス様が、腕輪を借りるとおっしゃっていたので、この腕輪もてっきりシオン先生にお返しする物だと思っていました。

「今日はありがとうございました。とても楽しかったです。それと、服をありがとうございました」

「俺も財布をありがとう。大切にする・・・それじゃあ・・・」

 少し困ったような笑顔で帰っていきました。まだ、何か言いたかったのでしょうか?

 明日、メアリにデイジーに行ってもらって、本と服を取ってきてくれるようお願いしましょう。



   ***side サイラス***


「腕輪を渡すことができた」

 シオン殿に報告する。

「本人には、ピンクの石はただの飾りだと伝えてある」

「感謝する。あまり本人には知られたくないからな・・・」

 実は、ピンクの石にも魔法を付加してあった。王宮の結界と同じ、攻撃的な魔法を跳ね返す魔法だ。

「王宮にいる間は結界で守られるが、外では無理だからな。外出時、私がずっと側に居るのは不自然だからな」

 物理的な攻撃なら、俺でも防ぐことが出来るが、魔法による攻撃はシオン殿でないと無理だ。

「ところで、今日のデートは楽しかったか?」

 お茶を噴出しそうになった。

「な・・・な・・・なにを言っているんですか!?俺は、ただ、護衛をしていただけです!!」

「男女二人で買い物をしたり、食事に行ったりするのはデートではないのか?」

 シオン殿が意地悪く笑う。

「・・・うっ・・・。世間一般ではそうかも知れませんが、違いますっ!!」

「ふ~~~ん。そういう事にしといてあげよう」


 一応、シオン殿には否定しておいたが、やはり、そう見えるか・・・。

 まぁ、俺も視察と護衛を建前に、ちょっとしたデート気分であったことは心の中で肯定する。

 マリーはそうは思っていないだろうというのは、彼女の行動から察しがつく・・・。

 気になる女性が、自分が選んだ服を、気に入って買うと言ってくれたんだ。それを、買ってあげたいと思うのは当然のことだと思うのだが・・・。

 まぁ、服のお返しとして、財布を買ってもらえたので、良しとしよう。

 思いがけず、彼女からの贈り物を手に入れることができたことになる。


 エドワードには悪いが、この事は秘密にしておこう。 

 

 

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