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王妃専属ガーデナー  作者: 瑛美(あきみ)


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◯雨の日

2020/06/26 加筆修正

 雨の降る日が多い時期となりました。


 今日は、しとしとと優しい雨が降っています。

 その様子を王妃様のお部屋から眺めています。

 

 雨の日の庭園の作業は限られています。

 雨の関係のない温室の作業が中心ですが、大した作業量ではありません。

 リズさん達だけでも十分作業が出来ます。

 

 作業が早く終わった後は、メアリとローラさんはお菓子作りです。

 リズさんは、デニスさんの所に行っています。

 エミリーさんは、読書をします。最近は、恋愛小説が多いそうです。

 この小説、雑貨屋『デイジー』の看板娘、クララさんから出版社の方を紹介して頂くことが出来、その方から頂いた物です。

 作家の方も紹介して頂きました。


 私は、作業日誌の確認など日々の業務を終わらせた後に、温室と庭園の改装案を図面や完成予想図を描く予定でした。

 物語を参考に庭を作る予定なのですが、なかなか良い案が浮かびません。

 ロジャー兄様に実家の私の部屋から何冊か本を持って来て貰いました。ついでに、兄様が子供の頃に夢中になっていた本も。

 エミリーさんにも、素敵な景色の描写がある本があれば教えて下さいとはお願いはしてあります。

 それらの本を読む時間に充てるつもりでした。


 ですが、現在は王妃様のお部屋で、仕事をしています。


 数日後、隣国の王太子ご夫妻がいらっしゃいます。王立大学の視察を希望されているとのことで、何故か(・・・)私が学長と共に案内役をすることになっていて、その打ち合わせです。


 一度は、そのような大役は荷が重いと辞退したのですが、

「適任だと思うわよ。卒業生だから大学の事に詳しいでしょう。それに、相手は王太子ご夫妻(・・・・・・)よ。一般の職員の方にはかなりの重責だわ。それだけではないわ。これは貴女が王立大学を卒業した特権でもあるの」

 

 保留になっていた私の待遇が決まったそうなのです。

『王立大学特別講師』としての肩書きが付くそうです。

 なんでも、シオン先生から「特殊な魔力からの新たな魔法の可能性があるので、直接指導したい」との要望があり、色々と検討した結果、魔術庁長官で王立大学で講師も勤めるシオン先生の助手としての肩書きが与えられることになったそうなのです。


「これで貴女も立派な王立大学の関係者。且つ、伯爵令嬢ともなれば貴女以上の適任はいないのよ。他国の王族とお近づきになれるなんて、他から見ると大変な名誉なことだと思うけど?」

 そこまで言われると断れません。と言うより、強制ですよね?


 そんなやり取りの後、お茶を飲みながら、話題は庭園のことななります。

「ずいぶん作業が進んでいると聞いたわ」

 エドワード様から報告があったのでしょう。

「今後のことなのですが・・・・・・」

 現在考えている、物語を参考にした庭を造りたいという案を話します。


「まぁ!素敵な事を考えているのね。私も大好きだった物語があるのよ」

 王妃様は嬉しそうです。本のタイトルを聞いてみると、私も大好きな本でした。

 その物語にも、印象的な庭があり、温室の描写もあります。

「その本も参考にする予定でした。上手く再現できればいいのですが・・・」

 王妃様の大好きなこの物語を庭作りの中心にすることにしました。


「他にも本を探したいのなら、図書室に行ってみてはどうかしら?」

 王宮内にある王族専用の図書室だそうです。

「エドワードに鍵を持ってきて、マリーを案内するように伝えて」

 後ろに控えていた侍女に、王妃様は指示を出しました。

「え?そんな急に良いんですか?私は急ぎませんから、後日、改めてで構いませんけど・・・。それに、エドワード様の仕事に支障があるのでは・・・?」

 図書室に興味はありますが、エドワード様に無理をさせるわけにはいきません。

「仕事のことなら心配しなくても大丈夫よ。サイラスという優秀な人が付いているんだから」

 王妃様はニコリと笑顔で答えます。

 サイラス様が優秀なのは分かりますが、サイラス様の仕事の量が増えてしまう原因が私になってしまうのでは?

「大丈夫。その分、サイラスの仕事をマリーに回すから」

 王妃様は私の心の声が聞こえるのかしら?


 思っていたよりも早く、エドワード様がいらっしゃいました。

「あら、早かったわね」

 言葉ではそう言っていますが、王妃様は想定内のことだったようです。

「ええ・・・、ちょうど図書室に用事がありましたので」

「そう?マリー、図書室は結構広いから、エドワードを使って構わなくてよ」

「はい・・・」

 鍵だけ開けて頂ければ、それでいいのですが・・・。


 図書室のドアの向こうは驚きの光景でした。

 壁一面の本棚、それも二階分。中央が吹き抜けになっていて、大きな窓があります。

 壁の本棚に沿って、らせん状に階段が付いています。階段の途中、窓がある所は踊り場となっていて、ソファが置かれていました。

「すごい・・・・・・」

 我が家の図書室の何倍でしょうか・・・?

「歴史的に貴重な本は、この奥の部屋に保管されていて、ここにはその写本が置かれている。最近出版された本も置いてある」

 新しく出版された本は、王宮に納められることになっているそうです。

 王宮にはここの他に、別棟に王宮で働いている人のための図書室があるそうです。

 庶民の娯楽の本は別棟の図書室に置かれるそうです。そういえば、メアリが本を借りてきていました。


「エドワード様が子供の頃に読んでいらした本はどちらですか?」

「ああ、それなら・・・」

 らせん階段の上り口の下に隠れ家のような場所がありました。魔道具の照明が階段の下に付けられていて、クッションがいくつか置いてあります。本棚には、絵本や子供用の物語、図鑑がありました。

「素敵な場所ですね」

 子供にとっては、ワクワクするような場所です。

 本のタイトルを見るために、座り込みます。クッションがあるので、気になりません。

「私が好きだった物語は、これかな・・・」

 耳元で声がしたので、そちらを向くと、エドワード様がいつの間にか、私の隣で同じように本を見ているではありませんか。

 エドワード様の顔が近くて、思わず固まってしまいました。

 エドワード様がふいにこちらを向いたので、目が合ってしまいました。

 なぜか、エドワード様の瞳から目が離せません。黒い瞳に私の顔が写り込んでいます・・・。


「マリー・・・・・」


 エドワード様の言葉が、突然の大きな音で中断されました。

 雷です。


「雨が激しくなったようですね」

 私は、窓の側へと駆け寄りました。

 心臓が激しく鼓動しています。

 稲光が灰色の空を走ります。

「雷は怖くは無いのか?」

 後ろに立ったエドワード様が尋ねてきます。

「ええ、そこまでは。大きな音には驚きますが、怖くは無いです」

 光ってから、音の鳴るまでの間が長ければ問題ないです。


「コテージは大丈夫かしら?」

 向こうは女性ばかりです。私のように雷が平気とは限りません。

「誰かに様子を見に行かせよう。それと、マリーは今日はこちらに泊まったほうが良い」

「いえ、あちらが心配なので、戻ります」

 振り返って、エドワード様に言います。

「この雨の中戻って風邪を引いてしまったら、王太子殿下ご夫妻の案内が出来なくなってしまう。私は、あなたに案内してもらいたいのです。母はもちろんですが、父・・・陛下もサザランディア公爵もあなたが適任だと思っている・・・」

「分かりました・・・」

 真剣な表情で言われると、そう答えることしか出来ません。

 エドワード様はホッとした表情をされました。


 雨が止む気配はありません。逆に、益々強くなっていくようです。雷の音も、近くなっているような気がします。


 窓の外が光った瞬間、

 ドーーーン!!

と、大きな音がしました。


「ひゃっ」

 その音に驚いてしまった私は、情けない声を出して、思わずエドワード様に抱きついてしまいました。

 エドワード様の腕が、私を包み込むように背中に回されました。

 慌てて、エドワード様から離れようとしましたが、エドワード様の腕の力がつよくなり、抱きしめられてしまいました。

「大丈夫。王宮は強力な結界で守られていて安全だ・・・」

 雷の音が遠のくまで、この状態が続いたのでした。



   ***side シオン***


 王宮内にある魔術庁長官執務室。

 薬草園の建物にある執務室ではなく、ここに居るのには理由があった。

「先ほどの解析結果が出ました」

 職員から、報告書を渡される。

 王宮に張り巡らしてある結界に、魔法による攻撃が確認されたのだ。

 この国の魔術師ならば、この事がどれほど重罪になるか分かっているはずなのだが・・・。

「なるほど、そう言う訳か・・・」

 報告書を見て、納得する。

 報告書には、魔法の種類、対象相手、術が行われた場所などが書かれている。

「この術者、運が悪かったな・・・。まさか、術の対象が王宮内に居るとは思っていなかったのだろう。怪我をさせる程度の術で良かったな・・・」

 結界によって、術は術者の元に跳ね返されている。それも、魔術庁でないと解除できない効果付で。いくら術者が治癒魔法が出来ても、効果が無い。ついでに、額には王宮を魔法で攻撃した証拠となる印が付くようになっている。これも、魔術庁でなければ消せない。

「この術者を捕まえてくるように。怪我をして動けないはずだ。印付だから、言い訳も出来ないだろう。私が尋問してやろう・・・」


 職員が部屋を出て行った後、再び報告書を読む。

 術者と対象が面識があるとは考えられない。

 おそらく、高額の報酬につられて依頼を受けたのだろう。

 依頼した人間も、深く考えずに行動したのだろう。その結果、王宮に攻撃した罪を犯すことになってしまった・・・。

「だが、相手が悪かったな・・・」

 私を敵に回したのだから・・・。  

 

  


 

ありがとうございました。

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